定例研究会レポート

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美術解剖学と乳房
--動きの中での解剖学
2015年6月20日 (土)

美術解剖学と乳房

■「美術解剖学からみた乳房」
 宮永美知代 先生
(東京藝術大学 美術教育(美術解剖学Ⅱ)研究室 助教)
■乳房の視覚的表現
 佐藤良孝 先生
(メディカルイラストレーター/有限会社 彩考 代表取締役)
■パネルディスカッション
・コーディネータ :山口久美子運営委員
 (東京医科歯科大学 先駆的医療人材育成分野 講師)
・パネリスト:宮永先生 佐藤先生


解剖によって人体の内部構造を学び、それを美術制作に活かす美術解剖学。その歴史・研究活動・実技への理解を深め、乳房を含めた人体の美しさを考える機会として研究会を開催しました。
まず、「美術解剖学から見た乳房」というタイトルで東京藝術大学の宮永美知代先生からお話をいただきました。
哺乳類の特徴として乳房の数が必ずしも偶数ではない、乳房の場所も胸とは限らず脇下の場合もあること、元々、乳房は汗腺で皮膚由来であること、乳房に方向性や動作姿勢によって形状が変化し、それを美術作品に作家がどのような意図で表現してきたのかを実例を紹介いただきながら、分かりやすく説明してくださいました。「狩りをするディアナ」のように美しい身体は男性の中にあると考えられていた時代があること、ドミニカ・アングルの作品(グランド・オダリスク)のように現実にはありえないポーズや実際には見えない乳房を空想の中で作り上げて見る人に自然に届くようにデフォルメして描いていること、ゴヤの作品(裸のマハ)もまた現実のポーズではありえない乳房の形を描くことで重力に逆らう若々しい女性の乳房の形を私達に自然に伝えていることなどを説明していただきました。また、洋画とは対照的に日本画では乳房の方向軸が並行的で、例えば歌麿の絵画は乳房が正面を向いていることが印象に残りました。乳房とお尻が似ていること、現代美術で乳房がどう描かれているかなどの話も伺い、乳房は作家の好みや「女性」性が顕著に現われることを教えていただきました。

次に「乳房の視覚的表現」というタイトルでメディカルイラストレーターの佐藤良孝先生からお話をいただきました。
冒頭、まだあまり知られていないメディカルイラストレーターとはどのような仕事なのかをご教示くださいました。重要な仕事のひとつに臨床医や医学研究者の論文のイラスト制作があり、イラストの出来により、論文全体の評価にもつながること、写真ではわかりにくい手術方法がイラストにすると重要な部分が強調されてわかりやすくなること、CGだけでは無機質な印象があるものをCGと鉛筆で手書きのイラストを重合させる混合技法で正確かつ実感のある表現になることなどをお話いただきました。体表観察をもとに美術表現に活かすことについて、乳房とその周辺の体表観察、乳房の発育、タイプ、老化の表現、乳房の動きの観察、視点による違い、前屈や仰臥位など姿勢を変えたときの乳房の形、走った時の乳房の変化を説明いただき、その表現方法をお話いただきました。そして、乳房そのものの表現は、表現者からするとやっかいであること、例えば卵は生体として淘汰された美しい形であるが、均一なため本質が隠されていて書くのがむずかしいこと、球体は楕円体より難しいことに乳房も似ている。乳房そのものよりもその周りをどう描くかが重要で、関係性の中から乳房の美しさややわらかさを表現する。乳房そのものではなく、周りを描くことで、乳房を表現すること、内部を想像して体表を表現すること、美の本質を考えて、それを表現するのが芸術家ということが印象に残りました。

パネルディスカッションでは、無重力状態での乳房の形は?といった質問もあり、様々な視点から人体の美しさを考える機会になったのではないかと思います。 

(事務局長 岸本泰蔵)

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