■「美術解剖学からみた乳房」
宮永美知代 先生
(東京藝術大学 美術教育(美術解剖学Ⅱ)研究室 助教)
■乳房の視覚的表現
佐藤良孝 先生
(メディカルイラストレーター/有限会社 彩考 代表取締役)
■パネルディスカッション
・コーディネータ :山口久美子運営委員
(東京医科歯科大学 先駆的医療人材育成分野 講師)
・パネリスト:宮永先生 佐藤先生
解剖によって人体の内部構造を学び、それを美術制作に活かす美術解剖学。その歴史・研究活動・実技への理解を深め、乳房を含めた人体の美しさを考える機会として研究会を開催しました。
まず、「美術解剖学から見た乳房」というタイトルで東京藝術大学の宮永美知代先生からお話をいただきました。
哺乳類の特徴として乳房の数が必ずしも偶数ではない、乳房の場所も胸とは限らず脇下の場合もあること、元々、乳房は汗腺で皮膚由来であること、乳房に方向性や動作姿勢によって形状が変化し、それを美術作品に作家がどのような意図で表現してきたのかを実例を紹介いただきながら、分かりやすく説明してくださいました。「狩りをするディアナ」のように美しい身体は男性の中にあると考えられていた時代があること、ドミニカ・アングルの作品(グランド・オダリスク)のように現実にはありえないポーズや実際には見えない乳房を空想の中で作り上げて見る人に自然に届くようにデフォルメして描いていること、ゴヤの作品(裸のマハ)もまた現実のポーズではありえない乳房の形を描くことで重力に逆らう若々しい女性の乳房の形を私達に自然に伝えていることなどを説明していただきました。また、洋画とは対照的に日本画では乳房の方向軸が並行的で、例えば歌麿の絵画は乳房が正面を向いていることが印象に残りました。乳房とお尻が似ていること、現代美術で乳房がどう描かれているかなどの話も伺い、乳房は作家の好みや「女性」性が顕著に現われることを教えていただきました。