手をかけずにココロをかけよう 節目の10歳こそ親子の関係を深めるチャンス!

10歳は、ココロもカラダも変化しはじめる時期。
ワコールの『10歳キラキラ白書2017年版』でも
「10歳を過ぎると親との接触が減っていく」との結果が出ました。
そうしたなか、変化していくわが子への接し方に悩む親は少なくないはず。
どうすれば「イイ関係」を築けるのでしょうか。
調査結果を考察いただいた発達心理学者の小野寺敦子先生(目白大学教授)に、
親子のきずなづくりの秘訣をうかがいました。

小野寺敦子先生プロフィール

1984年 東京都立大学大学院博士課程終了。心理学専攻、心理学博士。
現在、目白大学人間学部心理カウンセリング学科教授。
専門は発達心理学、人格心理学、家族心理学。とくに親子関係について関心をもって研究中。
現在の研究テーマは、「食ライフスタイルと親子関係の関わり」。
臨床発達心理士としての支援活動のほか、この7月からはNPO法人の理事として「異文化子育て支援相談室」をスタートさせるなど社会的活動も積極的に推進。

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10歳をピークに接触度が減少「10歳の価値」を認識し親子関係を大切に!

この調査では成長期の女の子たちに、カラダや
友だち、
親について聞いていますが、
調査についてどう思われましたか。

まず、親子の関わりと下着を関連付けた調査は他にはないので、貴重だと感じました。研究者としては9歳から16歳までを対象としていることに注目したいですね。というのは、学術的な調査では通常、小学生(児童期)、中学生(青年期)と分けていて、それを一緒にして論じることはあまりないからです。
幅広い年齢別の変化がみられるのが、この調査のポイントですね。

その中で10歳という年齢に関しての
結果については、
どんな感想をお持ちでしょうか。

お風呂や食事など親との接触度合いを数値化して分析したところ、10歳をピークに親子の接触が減っていくことがわかりました。つまり、コミュニケーションを深めるのは、10歳がチャンス。いわば「10歳の価値」があり、この頃に親子で向き合うことを逃してはいけないと感じました。

もう1つ注目したいのは、10歳のころに親との関わりがとれている子ほど、「自分には親友がいる」という意識が高くなっていることです。これは心理学的にいえば、親子の「愛着」がしっかりできているということ。「愛着」とは、困ったら誰かのことを信頼できる気持ちで、これが親子の間でできていれば、成長してからも対人関係を上手に築けるとされています。それが、この調査結果からもきちんと見えてきているのはおもしろいと感じました。

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「10歳」は自我が芽生える時期子どもの考えをよく聞きましょう

そもそも10歳とは、
心理学的にどのような年ごろなのでしょうか。

いろいろな意味で1つの節目の時期です。自我が育ってきて、「自分」というものをだんだん考えられるようになってきます。それまでは「自分の好きな食べ物」や「自分の持ち物」で自分自身を判断していましたが、10歳くらいになると、「人から言われた自分」、つまり他人と比較して自分自身を知っていきます。そうして自分を知ることと同時に、親や友だちとの関わりも変化してきます。ですから、親もこれまでと同じような接し方をしていてはダメなのです。

では、どのように接すればいいのでしょうか。

まず、子どもの考えをよく聞くことです。
少なくとも「聞こうという姿勢」を見せることが大切です。

とはいえ、反抗的な口の聞き方をされると、
こちらも、つい...。

反抗は自立してきた証拠。カッカするかもしれませんが、そこは収めて「大人になってきているんだ」と思うように努めましょう。私自身の子育ても、なかなかうまくはいきませんでしたが(笑)。メールをうまく活用して、口ではいえない気持ちを伝えてもいいかもしれませんね。

10歳くらいの子どもに接するポイントは、ココロはかけるけれど、手をかけないこと。気持ちとしては心配してあげる。何かあったときには必ず後ろにいるんだよ、と見守ることが大事です。そうすれば、その後ちょっとワルの方向にいっても必ず戻ってきます。

子どもへの叱り方でも「子どもに負担をかけているな」と気づいたら改めるなど、親の「気づき」は大事。子どもの気質に合わせた叱り方も必要ですし、叱るばかりでなく、その子のよいところをホメるということも積極的にしてあげましょう。

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子どもも不安、親も心配でも「エゴレジリエンス」を鍛えれば大丈夫!

まずは親がイライラしないこと、
そして、
余計なことをせずに見守る必要がある
ということですね。

親がイライラするのは私もわかります(笑)。ただ、親だけでなく、子ども自身も、自分の変化にイライラしたりストレスを感じたりしているはずです。そこで身につけてもらいたいのが「エゴレジリエンス」(エゴレジ)です。これはストレスがあったとき、自分で回避して気持ちを立て直せる力。大人も必要ですが、子どものうちから身につけてほしいと思います。

エゴレジとは具体的にはどういうことか、もう少し詳しく教えてください。

エゴレジには、「考え方の柔軟性」「好奇心」「立ち直り力」の3つのポイントがあります。
「柔軟性」というのは、「道は1つではなく、いろいろある」と考えられる力。親も先生も、子どもに対して「これしかない」という指導ではなく、「他の方法もある」ことを教えてあげるといいと思います。親が「この子はこうだから」と決めつけないことも大事。たとえば「ピーマン嫌いな子」と親が思っていても、いろんな料理方法を工夫すれば食べられることもあります。またこだわりの強い子が、寒い日にどうしても薄着で出かけると言い張ったとき、「これを着なさい」と押し付けないで、本人の言う通りにさせてみる。すると、「こんな日は薄着だと寒いんだ」と実感し、自分で考えられるようになります。

「好奇心」というのは「やってみよう」という気持ち。「これおもしろそうだね、やってみよう」というのは、子どもが小さい頃から親子で一緒にできることですし、10歳くらいは親と一緒に行動できるギリギリの年齢。好き嫌いもはっきりしてくる年頃なので、子どもの個性に親が気づいて、何が向いているか見極め、引き出してあげることも大事ですね。ちなみに私は習い事は種まきだと思っています。10歳くらいまでに経験したことは、大人になってからつながる可能性があるので、興味があれば幅広くチャレンジさせてあげるのもいいかもしれませんね。そして、子どもが好奇心を持つようになるには、何より親自身が好奇心を持つことが大事。そうした親の姿を見て育てば、子どももそうなります。

3つめの「立ち直る」際に大事なのは、考え方のモードを変えること。親がネガティブモードだと子もネガティブ思考になってしまいます。たとえば暑い日に家の中で「暑くてイヤだね」と話すのではなく、「暑いけれどもうすぐ夏休み、楽しみだね」と言って育てる。そんなポジティブ家族を目指して、思考回路を変えてみましょう。

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思考回路を変えるなんてできるのでしょうか。

その第一歩は、まず、自分の"考え方のクセ"を知ることです。自分の思考のクセを認識し、「変えていこう」と心掛けないと考え方というのは変わりません。そこで私はカードを使い、自分の考え方を知って「エゴレジ」を鍛えるワークショップを実施しています。

こうしたワークショップや講演会は、自治体の依頼で中高年向けにしたり、幼稚園の保護者向けにしたりしています。学校の先生方からお声がかかることもあり、「子どものココロを強くしたい」というニーズがあると感じています。そこで、今は大人向けのワークショップが中心ですが、今後は、カードの内容を少し簡単にして、子どものためのエゴレジワークショップを開きたいと考えています。親子でエゴレジを高めていけば、良好な親子関係を築くことができるはずです。

親子ともに、エゴレジを身につけることで、
自分自身が元気になり、人との関係も良好にしていけるということですね。
では最後に、親子に向けてメッセージを
お願いします。

大事なのは、夫婦関係が円満であることを含め、親が楽しく過ごしていること。親自身が仕事や趣味など、自分の楽しみがあり、それを一生懸命にしている家庭では、大きな問題は起こらないと思います。また、そうした姿を見せることは、子どものキャリア形成にも関わってきて、いい影響となるでしょう。そして、やはり、手はかけないけれど、ココロをかけてあげることが大切。「心配しているよ」」という眼差しを忘れないようにすれば、子どもは「ああ、見ていてくれるんだな」と安心して、のびのび育つはずです。

ありがとうございました。

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10歳キラキラ白書2017発表時にワコールで開催した母親向け「エゴレジ」ワークショップの様子

2017年3月に行われたワークショップでは、母親たちが自分のエゴレジ度をチェック。
「私は友人に対して寛大である」「私はショックをうけることがあっても直ぐに立ち直るほうだ」などと書かれた全部で14枚のカードを、「1:全くあてはまらない」「2:あまりあてはまらない」「3:ややあてはまる」「4:非常にあてはまる」のどれかに分類していきます。
すべて分類し終えたら、「1」から「4」に置かれたカードの枚数を数え、番号に枚数を掛け合わせます。「4」に置かれたカードが5枚なら「20」点、というように計算して合計得点を算出。
点数が高いほどエゴレジ度が高いといえますが、点数が低いカードについて、高く引き上げるように意識していくことで、合計点は高くなっていきます(エゴレジ力をアップさせるための14の項目は、小野寺先生の著書「『エゴ・レジリエンス』でメゲない自分をつくる本」に詳しくあります)。

10歳は節目の時期。このころを境に、子どもだと思っていたわが子は大人への第一歩を踏み出します。いつまでも手出し・口出ししていてはいけないんだなあと、親も気づくころ。だからこそ、10歳の今、親子でしっかりコミュニケーションをとって絆を深めたいもの。買い物や食事など、親子2人だけで向き合う時間をつくれば、「見ているよ」「気持ちは受け止めているよ」というメッセージはしっかり伝わるはず。自分の生き方を後ろ姿で見せつつ、子どもの成長を見守りながら、楽しく子育てしていきましょう。