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#医療従事者インタビュー

がん検診の権威、中川恵一先生に伺いました
「中川先生、がんから身を守るにはどうしたらいいのでしょうか?」

2017.12.18

全編 がんから身を守るには

女性の社会進出が当たり前になってきている今、がんになっても働き続けている患者さんが増えてきています。そして日本では、50代前半までの若い女性は、男性よりがんと診断される人の数が多いという現状があります。日本は先進国の中で唯一、がんが増えている国です。日本は、がんの死亡割合が世界でも高く、"がん大国"といっても過言ではありません。
そこで、がんの検診とがんの対策の専門家である中川恵一先生に、「そもそも、
がんとは何?」「がんの最大の原因は何?」「普段の生活で気をつけることは何?」など、素朴な疑問を伺いました。私たち女性ががんから身を守るために参考になるお話です。正しいがん知識をつけて、いざというときに備えましょう。

インタビュー・執筆/増田美加(女性医療ジャーナリスト)

中川 恵一先生

なかがわけいいち●東京大学医学部附属病院放射線科准教授。厚生労働省がん対策推進室企業アクション議長。がん対策推進協議会委員。文部科学省がん教育の在り方に関する検討委員会委員。

  • Q.1 中川先生、どうしてヒトはがんになるのでしょうか?がん細胞ができる仕組みを教えてください
  • A がんは細胞分裂の際のミスコピー。健康な人にも毎日できているがん細胞をその都度、免疫細胞が対峙しているのです

ひと言でいえば、がんは、細胞の老化です。細胞も老化によって傷みやすくなります。私たちの体は、約60兆個の細胞からできていて、毎日1〜2%の細胞が死にます。そこで、細胞分裂をして、減った細胞を補う必要があります。

その細胞分裂の際、老化によって、細胞の設計図である遺伝子のコピーミスが起きてしまうことがあります。老化以外に、コピーミスの最大の原因は煙草です。ほかに、発がん性物質や自然に存在する放射線などによって、長い時間をかけて遺伝子にキズが蓄積されていきます。

遺伝子のある特定の部分にキズがつくと、細胞は死なずに細胞分裂を繰り返すことになります。この"死なない細胞"が、がん細胞です。
がん細胞は無秩序に増え続け、やがてかたまりとしての「がん」となり、臓器の機能を阻害するようになります。
がん細胞は、健康な人の体にも多数(年をとると1日数千から数万個も)できることがわかっています。

このがん細胞を、そのつど退治しているのが免疫細胞です。免疫細胞は、ある細胞を見つけると、まず自分の細胞かどうかを見極めます。そして、自分の細胞でないと判断すると、殺します。

けれども、がん細胞は、もともと正常な細胞から発生しますので、免疫細胞としては「異物」と認識しにくいのです。

それでも免疫細胞は、できたばかりのがん細胞を攻撃して死滅させます。私たちの体の中で、がん細胞が1日5000個できているとしたら、毎日5000勝0敗の闘いが繰り返され、がんを退治しています。
しかし、免疫による攻撃も人間のすることですから、攻撃ミスが起こります。このミスは年齢と共に、免疫力が低下することでも起こりやすくなります。
そして、生き残ったがん細胞が、時間をかけて「がん」のかたまりになるのです。これはすべて自分の体の中で起こっていることです。ですから、がんは人にうつることはありません。

  • Q.2 「良性」「悪性」と言われますが、何が違うのでしょうか?
  • A 良性は切除すれば命にかかわりません。悪性は、広がって転移すると完治は難しいですが、検診で早期発見すれば治すことが可能です

細胞の異常によって、増えて腫瘍(かたまり)となった細胞でも、広がらず、その場にとどまっていれば良性です。
良性の腫瘍は、正常な臓器を圧迫して悪さをすることがありますが、切除すれば命にかかわることはありません。良性の腫瘍が悪性に変わることは、ごく一部の病気を除いてほとんどありません。

けれども、悪性の腫瘍は、周りの正常な組織を破壊しながら広がっていく(浸潤する)という特徴があります。この悪性の腫瘍が、がんです。
時間とともに、悪性の腫瘍(がん)は、血管やリンパ管に入り、その流れにのって、ほかの臓器へと移動し、そこでもかたまりをつくるようになります。これが
がんの転移です。

がんが転移せず、その場にとどまっている段階なら、治療は比較的簡単です。しかし、がんが転移して(生まれた場所の外へ出ていって)しまうと、完治は難しくなります。
ですから、がんは進行して転移する前に、症状のないうちに検診をして、早期発見できれば治ることが可能な病気なのです。

  • Q.3 もしも、がん細胞を放っておいた場合、どのくらいの年月でどのように増えていくのでしょうか?
  • A 1㎝になるまでには約20年かかりますが、1㎝~2㎝になるには1年半~2年です。これを発見するために、がん検診が有効です

がん細胞は、1個が2個、2個が4個、4個が8個、8個が16個と、時間とともに、倍々に増えていきます。死なない細胞ですから、時間が経つほど、がん細胞の数は増えていきます。
しかし、ひとつのがん細胞が、検査でわかるほど大きくなるには、10年から20年の時間が必要です。

たとえば、乳がんでは、1つの細胞が1㎝のがんのかたまりに成長するまで、細胞分裂で約30回、15年~20年といった時間がかかります。
しかし、乳がんが、1㎝から2㎝になるには、たった3回の細胞分裂で済み、時間にすると1年半~2年で大きくなるのです。

がん細胞と成長の時間

1㎝以下のがんは検査では、発見が困難です。乳がんの場合では、早期がんは2㎝未満をさしますから、検査で発見できる早期乳がんは、1~2㎝未満までということになります。
このことから、検診を1~2年ごとに1回受けなければ、がんを早期発見できないことがわかります。

現在、有効ながん検診は、子宮頸がん、乳がん、大腸がん、肺がん、胃がんです。
がんは、老化の一種と説明しましたが、子宮頸がん、乳がん、大腸がんなどは、働き盛りの若い世代に増えています。
子宮頸がんは、20代、30代の女性が全年齢の中で最も多くかかっています。乳
がんは40代~50代での罹患率が最も多く、大腸がんは40代後半から増えています。

性別・年齢別がん罹患数

いま、がん全体の5年生存率は6割近くにのぼります。半分以上が治るのです。さらに、早期発見なら、約9割が治ります。
たとえば、早期の胃がん、大腸がん、乳がんならほぼ100%治ります。
万が一、がんになっても、早期発見・早期治療で完治させることができます。ですからがん検診が大切なのです。

  • Q.4 がんになる原因として最も高いのは、なんでしょうか?
  • A がんの最大の原因は、煙草です。特に、副流煙は、吸っている本人が吸う煙より発がん性が高まります

がんの最大の原因は、煙草です。煙草がなくなれば、男性のがんの3分の1がなくなると言われます。

現在、日本で最も死亡率が高いがんが、肺がんです。煙草が原因の肺がんは、男性70%、女性20%です。
特に、若い人の喫煙は危険で、20歳未満で喫煙を開始した人は、吸わない人の約6倍も肺がんによる死亡率が高いのです。
喉のがん、胃がん、食道がん、肝臓がんなども煙草で増えます。煙草の影響であまり増えないのは、大腸がんと乳がんくらいです。

煙草の最大の問題は、副流煙による周りへの影響です。煙草のフィルターには、煙に含まれる発がん物質などを取り除く働きがありますが、周りの人が吸い込む煙は発がん性が高いのです。
あなただけでなく、家族の禁煙を促すことも、がんにかからないためには、非常に重要です。

  • Q.5 がんになる人、ならない人の違いはなんでしょうか?遺伝と、生活習慣と、どちらががんになるのでしょうか?
  • A 女性のがんの3割弱、男性のがんの5割以上が生活習慣と感染が原因。遺伝は5%しかありません

生活習慣には、喫煙、食生活、運動習慣が関係します。がんを防ぐには、禁煙は絶対必要です。

また、運動は有効です。毎日15分程度の軽い運動でも効果があります。少しの運動でも、心血管の病気やがんの予防に役立つと言われ、余命が平均3年延びると考えられています。

食生活では、野菜を小鉢で5皿と果物を1皿、毎日食べれば、胃がんや食道がんを減らすのに十分な効果があると言われています。
また、肉の消費量が高い国ほど、大腸がんが多いことが指摘されています。肉はほどほどにして、高たんぱくでヘルシーな魚も食べることが大切です。

また、塩分の多い食事は、ピロリ菌を持っている人の胃の炎症を助長させます。ピロリ菌のある人は、胃がんのリスクが高まります。熱いものも、食道の粘膜を傷つけ発がんリスクをあげますので、控えたほうがいいでしょう。

さらに、アルコールは、1日日本酒なら1合、ビールなら大びん1本にとどめておきましょう。お酒を飲んで顔が赤くなる人、二日酔いがひどい人は、アルコールに由来する発がん物質が十分分解できていない証拠。飲み過ぎるのは危険です。

  • Q.6 女性ががんを予防するために、気をつけられることはなんでしょうか?
  • A 細菌やウイルスへの

先ほどお話しましたように、がんの原因で多いのは、生活習慣病、それと感染です。もちろん、がんそのものは感染しません。

けれども、それとは別に、細菌やウイルスへの感染が原因で、がんになることがあります。驚くべきことに、日本女性のがんの原因の約2割は、感染病が原因なのです。

感染が原因のおもながんは、子宮頸がん、胃がん、肝臓がんです。

子宮頸がんは、性交渉にともなう"ヒトパピローマウイルス(HPV)"への感染が原因です。子宮頸がんは、30代女性がどの年代よりも、最も多くかかるがんです。
HPVは、性体験がある女性の8割近くが一生に一度は感染するありふれたどこにでもあるウイルスです。ウイルスの多くは、免疫力によって排除されますが、そのごく一部ががん化していきます。感染予防には、HPVワクチンの接種、コンドームの使用が有効です。また、子宮頸がん検診を定期的に受けることで、がんになる前に発見することも可能です。

胃がんは、ピロリ菌への感染がおもな原因ですが、冷蔵庫が普及し、上下水道の設備が整ったことで、感染が減少してきています。しかし、衛生環境が悪い時代に乳幼児期を送った現在60歳以上の人は、7割から8割が、ピロリ菌に感染しています。慢性胃炎のある人は、ピロリ菌の検査を受けてみるといいでしょう。

肝臓がんの約8割は、B型肝炎、C型肝炎ウイルスの感染が原因です。これらのウイルスは、輸血や血液製剤などから感染した可能性があります。血液検査で調べられますので、特に中高年以上の人は、一度、B型、C型肝炎ウイルスに感染していないかを調べてみましょう。ウイルス性肝炎がわかっても、肝硬変や肝臓がんになる前に治療すれば、治ります。

いまや、がんは不治の病ではありません。現在、全体で見れば、約半分のがんは治ります。がんが1~2㎝程度の早期に発見できれば、治癒率はもっと良くなり、9割近くが完治すると言えます。
ただし、症状が出てしまってからでは、早期がんとは言えません。早期の
がんは、症状はまずありません。
早期にがんを発見するのは、検診の役割です。早期発見は、症状がないうちに、定期的に検査することが大事なのです。

  • Q.7 早期発見のために、女性が受けたほうが良いがん検診は何ですか?受ける頻度はどのくらいでしょうか?
  • A 子宮頸がん、乳がん、大腸がん、胃がん、肺がんはぜひ受けてほしい、受けなければもったいない検診です!

国で行われている、子宮頸がん検診、乳がん検診、大腸がん検診、胃がん検診、肺がん検診は、有効性が国際的にも証明されている検診です。
これらのがんは、多くのがんのなかでも、特に検診で発見しやすいがんです。早期発見しにくいがんが多い中、この5つのがん検診は、受けなければもったいないです。

これら有効性のある5つのがん検診には、それぞれ検診方法(どのような検査を受けるのがよいのか)と検診間隔(何年に1回受ければいいのか)が決められています。正しい検診方法と間隔を知っておくと役立ちます。

  • 乳がん検診
  • 40歳以上で2年に1回

    マンモグラフィ(乳房のレントゲン)検査。
    (検診ではありませんが、自分で乳房を触るセルフチェックも大切です。月1回はセルフチェックをしましょう)。
  • 子宮頸がん検診
  • 20歳以上で2年に1回

    細胞診(小さなブラシで子宮頸部の細胞を取ります)。
  • 胃がん検診
  • 50歳以上で2年に1回

    胃のレントゲン検査、あるいは内視鏡検査。2016年4月からこのように変更になりました。
  • 肺がん検診
  • 40歳以上で1年に1回

    胸のレントゲン検査。喫煙する人は、痰を採取する検査も併せて行います。
  • 大腸がん検診
  • 40歳以上で1年に1回

    便潜血検査(便を採取して検査します)。

次回、後編では、もしがんになった場合に備えて、今から知っておくべき知識について、引き続き、中川恵一先生に伺いました。
万が一、がんになったら、最初の初期治療が命を左右するほど大切です。もしも、がんになっても慌てずに、後悔しない治療を受けるために、今から最低限、知っておくべき知識をお聞きしました。どうぞお楽しみに!

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