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#医療従事者インタビュー

がん検診の権威、中川恵一先生に伺いました
「中川先生、私たちがもしもがんになったらどうしたらいいのでしょう?」

2018.1.15

後編 もしもがんになったら

日本人は男女ともに2人に1人ががんにかかる時代。診断の進歩によって、がんの一部は早期発見、早期治療が可能となってきました。その理由は、がん検診、人間ドックなどが普及したこと、検診の精度がよくなったことです。前編では、どのようながん検診をどのような間隔で受ければよいか、がんを予防するための生活習慣などについて、がん検診の権威、中川恵一先生に伺いました。
後編では、「もしも、がんにかかったら、どうしたらいいか?」。がんになっても慌てず、後悔しない治療をうけるために、今から知っておくべき知識をお聞きしました。

インタビュー・執筆/増田美加(女性医療ジャーナリスト)

中川 恵一先生

なかがわけいいち●東京大学医学部附属病院放射線科准教授。厚生労働省がん対策推進室企業アクション議長。がん対策推進協議会委員。文部科学省がん教育の在り方に関する検討委員会委員。

  • Q.8 がんと診断される人は、毎年どのくらいいるのでしょうか?
  • A 年間約86万人の人が新たにがんになっています。また年齢によってかかりやすいがんが違います。

2013年に新たにがんと診断された方は、1年間で約86万人です。そのうち、女性は約36万人、男性は約50万人の方が新たにがんと診断されました。
また、2015年にがんで死亡した方は、約37万人。そのうち女性が約15万人、男性が22万人です。

一生涯で、がんで死亡する確率は、女性が6人に1人、男性が4人に1人となっています。
日本人の死因第1位は「がん」です。そういう意味でも、日本はがん大国と言っていいと思います。

女性全体の罹患者数(2013年全国推計値)が多いのは、1位乳がん、2位大腸
がん、3位胃がん、4位肺がん、5位子宮がんとなっています。
これは、すべての年齢を総合した数字ですが、40代女性では乳がん、子宮
がん(子宮頸がんと子宮体がん)、卵巣がんが多く、20代、30代では子宮頸がんが多くを占めています。

しかし、年齢が上がるほど、これらのがんの割合は減少し、代わって消化器系のがん(胃、大腸、肝臓)と肺がんの割合が増加しています。
このように年代で、注意すべきがんが異なることを知っておきましょう。

そして、現在は全体で見れば、がんの6割が治ります。早期のがんであれば、9割以上完治するがんがほとんどです。特に、女性では乳がん、甲状腺がん、皮膚がんは治る可能性の高いがんです。

*「国立がん研究センターがん情報サービス 最新がん統計 がん罹患率、死亡率、全国推計値」より

  • Q.9 もしがんが見つかったら、まずは何をすべきでしょうか?
  • A 何もしないことが大事。重要な決定は1~2週間後まで先送りしましょう

がんと告知されたら、大事な決断は先送りにして、すぐに決めないことが大切です。まずは、家に帰って、何もしないことが重要。

がんと告知されると多くの人は混乱し、大きなストレスを感じます。平常心でないまま、決断をすると、誤ってしまうことが多いのです。

告知のときに、医師から治療方針を説明され、手術の予約を入れるように勧められると思います。しかし、治療法の決定や手術日の予約は、告知のその日にその場でしてはいけません。

告知直後に、3割の人が仕事をやめてしまうというデータもあります。また、スウェーデンの調査ですが、がん告知1週間以内の自殺率は約13倍に、2週間以内に抑うつ状態になる人も多いと言われています。

がんを告知されたら、まず大事な決定をする前に、情報を集めてください。数㎝のがんに育つためには、10~20年以上の年月がかかっています。あわてる必要はありません。

がん告知後は、早く決めると誤ることが多いことを知って、1~2週間おいて冷静になってから、治療法の決断をしましょう。

その間に、別の医師からも話を訊く「セカンドオピニオン」を受けることをおすすめします。多くの患者さんは、外科でがんの診断を受けるでしょうから、セカンドオピニオンは放射線治療医や腫瘍内科医(抗がん剤のスペシャリスト)に頼むのもよいかもしれません。車を買うとき、カタログを集めたり、ショールームに行って比較するのと同じです。

最初にがんにかかったときの初回治療の選択、決定は命を左右するほど重要です。間違えると命を危険にさらすかもしれません。
多くの場合、がんは1~2週間では進行しません。じっくり時間をかけて選択しましょう。

  • Q.10 標準治療とはどんな治療?先進医療との違いを教えてください
  • A 標準治療こそが最善、最高の治療。一方、先進医療は実験過程にあるまだ効果が認められていない治療です

「標準治療」とは、科学的エビデンスを基に、専門家が決めた現在の医学で最善の治療のことです。

標準治療は英語で"Standard Therapy"ですが、Standardには"最善の"という意味が含まれているのですが、日本語で標準というと、"並みの治療"と思われて、もっといい医療があるのでは? と誤解されてしまうのです。

標準治療は、各学会が作成した診療ガイドラインに記載され、定められています。がんの標準治療は、「手術」「放射線治療」「薬物療法(抗がん剤)」の三大治療が基本です。

一方、「先進医療」は、簡単にいうと、まだ科学的証拠が完全ではなく、実験的な医療の範囲内に入っており、そのため健康保険の対象とはなりません。つまり、先進医療は、まだ不確実な治療のため、医療にかかる費用は全額自己負担(自費)で高額になります。

特に、今、問題となっている免疫細胞療法や高濃度ビタミンC療法は、標準治療ではありません。標準治療に組み込まれているものは、免疫チェックポイント阻害剤など一部に限られています。
代表的な免疫療法に、樹状細胞ワクチン療法、NK細胞療法、がんペプチドワクチン療法などがありますが、いずれも治療効果は認められておらず、免疫療法のガイドラインでも推奨されていません。ただし、オプジーボなどの免疫チェックポイント阻害剤は標準治療に組み込まれつつあります。

  • Q.11 がんになった場合、仕事を続けられるのでしょうか?
  • A 多くのがんでは、仕事を辞めなくてもよいことが普通です

がんがわかると、多くの人が、体力的に困難なのではないか、会社に迷惑がかかるのではないかと思い、退職を考えます。
厚生労働省の調査では、がんの診断後に約4%の人が解雇され、約30%の人が依願退職しているというデータがあります。

今、働く世代にがんになる人が増えている中で、仕事を続けることは、経済的な面だけでなく、生きがいという意味でも、支えになります。また、がんは治る時代になってきました。がん治療後の人生のことも考えて、早まって退職をしないでほしいと思います。
最近のがん治療は、以前の「長期入院」から、「通院治療」へ大きくシフトしています。治療に専念するという考えは、持たなくて大丈夫です。多くのがんでは入院せず、仕事を続けながら治療を行うことができるのです。

  • Q.12 現在、中川先生が携わっている国のプロジェクト「がん対策推進企業アクション」「がん教育」では、具体的にどのような活動をされているのでしょうか?
  • A 子どもたちへのがん教育が始まり、次は大人のがん教育が課題です

国の大きな政策転換として、小・中・高校での「がん教育」が始まりました。子どものうちから、正しいがんの知識を身につけ、将来、正しいがん検診、がん医療を受けてほしいとの思いからです。
学校では、医師やがん経験者を招いての特別授業も行われています。がんを知ることは、命と向き合い、毎日を大切に生きることにもつながります。

一方で、今、まだ問題となっているのは、大人への教育です。がんへの対策は、がんになる前に行うことが大切なのに、がんのことを知らないばかりか、誤解している大人が少なくありません。
そこで、企業側にも協力してもらって、がん教育やがん検診の正しい知識を社員に伝え、がん対策を企業として行ってもらうことを考えています。それが「がん対策推進企業アクション」です。現在、約2400社、約630万人以上の人が参加しています。

がんには、「生活習慣の改善」と「がん検診」の二段構えで立ち向かうことが大切です。女性がまず正しいがん対策を知って、家族やパートナーにも伝えていってください。

中川先生が監修をされている小冊子。「がん対策推進企業アクション」の取り組みはこちらで紹介しています。

厚生労働省のプロジェクト「がん対策推進企業アクション」のひとつとして、一般の女性たちにも基礎的ながんの知識を知ってもらう機会を増やしたいと、今年度、中川恵一先生と一緒に、女性メディア対象の勉強会などを重ねてきました。女性メディアの方々は、「大切な情報だからぜひ記事に取り上げて紹介したい」と記事としてたくさん掲載していただいています。
このWEBメディア「ワコールピンクリボン活動」でも、女性のがんについて、掲載していただくことでより、多くのみなさまに、がんの正しい知識を知ってもらえたらと思います。"知識は力!" ヘルスリテラシーを磨いて、間違った情報に惑わされないようにしましょう! (増田美加/女性医療ジャーナリスト・乳がんサバイバー)

前編はこちら