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#インタビュー

がんになっても、治療をしながらでも働く意欲を生かせる社会にするために

2017.08.08

2004年7月6日。この日を境にがん患者となった桜井なおみさん。それまで順調にキャリアを重ねていた桜井さんにとって、がんと出会い、そこで得た気づきは、人生に新たな役割をもたらしたと言います。治療を続けながら働き続けることの難しさ。がん患者に対する社会の偏見。常につきまとう生の不安。2人に1人はがんにかかる現在。がんになっても働き続けるためのアドバイスをお話しいただきました。

インタビュー・執筆/増田美加(女性医療ジャーナリスト)

桜井なおみさん

さくらいなおみ/キャンサー・ソリューションズ(株)代表取締役社長。一般社団法人CSRプロジェクト理事、NPO法人HOPEプロジェクト理事長。社会福祉士、精神保健福祉士、技術士、産業カウンセラー。大学で都市計画を学んだ後、コンサルティング会社にて、まちづくりや環境学習などに従事。2004年、30代で乳がんの診断を受ける。その後、がん体験者・家族の社会支援活動を開始。
「CSRプロジェクト」http://workingsurvivors.org/と両輪になって、実際の患者雇用や職業紹介を行うのが「キャンサー・ソリューションズ」http://www.cansol.jp/

がん患者さんの就労を支援する活動を行う

小さな体のどこにこんなエネルギーが隠されているのでしょう。桜井なおみさんは、「がん患者が治療を続けながら働ける仕事と雇用の場を確立したい!」という大きなビジョンとミッションを持って活動しているがんサバイバー(経験者)です。桜井さん、今の日本のがんと就労の状況を教えてください。

私は30代で乳がんと診断を受けました。それまでの私は設計事務所で働き、仕事に充実感を覚え、順調にキャリアを重ねていたつもりでした。けれども、がん患者になったことで、働く意欲も力もあるのに、結局退職せざるを得なくなりました。
今、日本は2人に1人ががんにかかる時代です。働く世代の若いがん患者も増えています。そして、医療の進歩で"がん=死"ではない現状が一般的となり、治療をしながら働ける人が大勢います。
けれども、がん診断後に退職や転職を余儀なくされている人が3割以上もいたり、収入が減った人が約7割にも及んだり、という現状があるのも事実なのです。
病気を理由に職を失うことは、経済的な不安はもちろんですが、喪失感が非常に大きい。仕事は、社会とつながっている実感をもてる重要なツールです。
仕事は生きることです。治療が終わり、心と体だけでなく、社会的にも元の状態に戻れないと、本当に治ったとはいえません。
9月から翌年1月まで約4か月間、6回の抗がん剤治療を行い、その後2月の節分の日からホルモン療法をスタートしました。

がん治療中は即断即決はダメです

がん治療で、休みがちになり、今まで通り働くことができなくなると、同僚に申し訳ない、会社に居づらい...と退職してしまうという話を、私の周りでもよく聞きます。そんなとき、どうしたらよいのでしょうか?

治療中は、体もつらいし、心も疲れています。そんなときに、重大な決断をしてはいけません。「重いものを降ろしてしまいたかった」という方もいますが、重いものがあっても置いちゃダメです。体も心もきついときに、仕事はやめないほうがいいのです。やめるのはいつでもやめられます。でも、つらい今じゃない。

きついときこそ、社会とつながっていないとダメ。そんなときこそ、社会の制度を使ってなんとか退職しない方法を考えてください。私たちはそのための相談にのります。

職場に自分の病気をどう伝えるか、悩む人もたくさんいます。治療で休まなくてはいけないし、どこまで詳しく上司に伝えればいいのでしょうか?

職場に詳しい病名まで伝える必要は、全くありません。
職場には、病気であることを伝え、どんな配慮をどのぐらいの期間してほしいのかを伝えます。その上で、自分の要望を伝えます。

がんと病名を言わなくても「大きな病気」で十分です。もし聞かれても、「それはプライベートなことなので、言いたくありません」でOKなのです。医学的な病気の有無ではなく、社会的に働けるのか、働けないのかを伝えればよいのです。

雇う側と雇われる側。双方に働きかけ、環境を改善

桜井さんは、2009年に、がん体験者の就労相談と支援を行う「CSRプロジェクト」を始動(2011年一般社団法人化)されました。「主治医は大丈夫というけれど、今までどおり働き続けられる?」「会社面接で、がんを公表したほうがいいの?」「100%治るまで復職してはダメといわれたけど、どうしたら?」このようなことを悩んだら、相談にのってもらえるのでしょうか?

はい! 雇う側と雇われる側、双方に働きかけないと問題は解決しないと考えています。
「CSRプロジェクト」では、おもに3つの相談支援活動を行っています。

まず1つめは、仕事をなくした人の就職への悩みや不安をグループで話し合う「サバイバーシップ・ラウンジ」http://workingsurvivors.org/job.html を運営。雇用継続や就職・復職への悩みや不安について、ファシリテーターを中心に話し合い、同じ体験をした仲間から、解決のヒントや心の持ちよう、似たような経験や情報を出し合います。気軽に立ち寄って、悩みを共有、情報交換ができる場になっています。残業後の愚痴こぼしでもOK。帰りは、ちょっと気持ちが前向きになれるプログラムです。

2つめは、がんを経験した社会保険労務士、産業カウンセラー、キャリアコンサルタント、ソーシャルワーカーなどが、電話で無料個別相談に対応する「患者さんのための就労相談 ほっとコール」http://workingsurvivors.org/secondopinion.html も運営しています。
がん治療は、経済的な不安や雇用継続への不安がついてまわります。職場の産業医には相談しにくいため、友人や同僚にも相談できず、ひとりで悩みを抱え込んでいる人、そのご家族の方のため、会社とは関係のない、第三者としての立場から気持ちや悩みを受け止めて、これからのキャリアプランを一緒に考えます。

3つめは、医療者従事者・企業人事担当者のための無料電話相談「就労サポートコール」http://workingsurvivors.org/sp-call.html も運営。職場や病院などで、実際にがんサバイバーに対応する方(医療従事者・人事労務担当者など)向けの相談・照会事業です。休職や復職、労働法規や社内ルールに関すること、がんサバイバーへの具体的な対応などで生じる疑問や困りごとに応じています。長年、がんサバイバーやそのご家族向けの就労相談をしてきた社会保険労務士・社会福祉士・キャリアコンサルタントが電話対応します。

「がんと一緒に働こう!」(合同出版)より

患者視点で考える理想の就労支援体制は、「就労コーディネーター(ソーシャルワーカー、社会保険労務士、産業カウンセラー)」が中心にいて、患者と企業、病院をつないでくれることです。

さらに、桜井さんは、がん経験者に職業紹介を行う株式会社キャンサー・ソリュージョンズ(CANSOL)も立ち上げました。企業にがんの啓発や助言など、がん患者採用のコンサルタント活動を行う一方、仕事を求めるがん患者さんに職業を紹介する事業も行っていますね?

「キャンサー・ソリューションズ(CANSOL)」http://www.cansol.jp/ では、職業紹介事業も始めていて、がん経験者・ご家族、ご遺族の方に、広く就労の機会を提供できればと考えています。
また、求人希望のある企業担当者の方から、求人を受けて、働きたい人を紹介する求職者と求人者のマッチングも行っています。

こんなにがん罹患者が増えているのに、がん患者の就労は、まだまだ解決しなくてはいけないことがたくさんあります。がん患者への偏見も根強いものがまだまだあります。これは日本だけの問題ではなく世界共通の課題だと感じています。

桜井さんの活動は国も動かしました!

桜井さんは世界中を駆け回り、がんになっても働ける解決策を社会と共有するために、活動を続けています。桜井さんの活動の甲斐あって、昨年のがん対策基本法の改正で大きな前進がありましたね?

2016年、がん対策基本法の改正で基本理念の中に"社会環境の整備"という言葉が盛り込まれ、国が初めて"がんと就労"の問題を認めました。
就労支援は、がん患者だけの問題ではなく、病気にかかる可能性のある全ての人の課題です。まだやっと道の入り口が見えてきたところですが、一歩ずつ、がんに関する問題解決に向け、取り組んでいきたいと思っています。

そのためには、がんそのものの理解が深まることも必要です。がんだからと言って、特別ではありません。病気はしても、その人が変わったわけではありません。自分で決めて、自分で選べる人生を誰もが送れる世の中になるよう、見て見ぬふりをせず、生きることを応援していきたいと思っています。

インタビューを終えて

2人に1人ががんに罹患し、若い世代のがんが増えつつある今、働きながら治療することを希望する人も少なくありません。がんという病気は特別なものではなく、個性のひとつ。他人事ではなく、自分も当事者になるかもしれないという意識を共有できる社会になったらいいなと思います。

桜井さんの「仕事はアイデンティティ」という言葉は、多くの人が共感しています。私も全く同感です。治療中もその人の状況に合わせた働き方ができる社会は、だれにとっても生きやすい社会なのだと思います。

桜井さんの今後の活動に期待し、これからも応援していきたいと思います。

(増田美加・女性医療ジャーナリスト)

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