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#インタビュー

お金の知識を通して、早期発見の大切さ、治療に前向きに取り組む秘訣を伝えたい!

2018.02.19

ファイナンシャル・プランナー(CFP)として活躍していた黒田尚子さんが乳がんの告知を受けたのが2009年。入院中に、がんとお金に特化した情報があまりにも少ないことに気づき、出版を決意します。その後、ご自身の乳がん体験をもとに、がんに対する経済面での情報やアドバイスを伝える活動を数多く行っています。お金がかかるイメージのあるがん治療について、正しい知識を得ておくことは、もしものときのために重要です。黒田さんのモチベーションのきっかけとなったご自身の乳がん体験と、がんや病気に対する経済的な備えについて、前後編と2回にわたってお伝えします。

インタビュー・執筆/増田美加(女性医療ジャーナリスト)

黒田尚子さん

くろだなおこ/ファイナンシャル・プランナー CFP
CFP® 1級ファイナンシャルプランニング技能士
CNJ認定 乳がん体験者コーディネーター
消費生活専門相談員資格
立命館大学法学部修了後、1992年(株)日本総合研究所に入社、在職中に、自己啓発の目的でFP資格を取得後に同社退社。1998年、独立系FPとして転身を図る。現在は、各種セミナーや講演・講座の講師、新聞・書籍・雑誌・Webサイト上での執筆、個人相談を中心に幅広く行う。
2010年1月、消費生活専門相談員資格を取得し、消費者問題にも注力。また、2009年12月の乳がん告知を受け、2011年3月に乳がん体験者コーディネーター資格を取得するなど、自らの実体験をもとに、がんをはじめとした病気に対する経済的備えの重要性を訴える活動を行う。著書に、「がんとお金の本」(Bkc)など多数。
黒田尚子FPオフィスhttp://www.naoko-kuroda.com/

5年生存率50%と言われて...

告知を受けたとき、医師に「どれくらい生きられますか?」と尋ねたら、「5年生存率50%です」と言われたと話す黒田尚子さん。2009年12月、母親の面倒を見るため、夫と離れ、富山県の実家で暮らしていたときのことです。
告知のときに、真っ先に頭に浮かんだことはどんなことだったのでしょうか?

5年生存率50%ということは、当時5歳だった娘が10歳になるまで生きられる確率が50%しかないということ...です。

子どものことを思い浮かべ、真っ先に考えたのは「5歳の娘を連れて、夫の待つ千葉へ帰ろう。家族一緒に暮らそう」ということでした。

その思い通りに、すぐに千葉へ戻り、翌月に東京の病院で乳房全摘手術を受けました。

最も悩んだのは子どもにがんをどう伝えるか...でした

ご家族には、どのようにがんのことを伝えたのでしょうか? 特に5歳の娘さんへの伝え方は難しかったと思いますが...

はい。告知を受けたあと、医師から言われた言葉をそのまま、電話で夫に伝えると、「結婚した後に、がんができた可能性がある...。妻をがんにしてしまった...。責任を感じている。自分が治してあげなければ...」と夫は思ったようでした。

そして、夫は「もう一度、人生をやり直すつもりで生きないといけない」と言ったんです。これには、私はとても驚きました。夫もがんを自分事のように感じるんだ...。家族もがん患者のひとりなのだ...と実感しました。

最も迷ったのは、5歳の娘にがんをどう伝えるか...です。自分のことはどうにでもなりますが、娘の不安をどう払拭するかを悩みました。
「お母さんは病気だから、家族3人で頑張ろうね」と伝えたのですが、1~2年経って小学生になった娘が、「私にもいつか、お母さんと同じがんがうつる」と思っていたことを知ったときは、ショックでした。娘と同じように、がんが風邪みたいに自分にもうつってしまうと思い込んだり、親ががんになったのは、自分のせいだと感じたりするお子さんも少なくないようです。

さらに、娘が小5になったとき、「胸にしこりができた。だから病院に行く!」と言ってきかないことがありました。思春期特有の成長によるものだから大丈夫と、いくら話して聞かせても「病院に行く」と譲らないので、小児科で診察してもらい医師から「乳がんではないよ」と説明してもらったこともあります。

2人に1人ががんになる時代ですから、子どもにがんのことを正しく伝えるがん教育も必要だと思います。これらの活動は、いくつかはすでに始まっているようですが、まだまだ広がっていません。
がんの親を持つ子どものためのプログラムもありますので、探して参加させるのもいいと思います。

がんという病気を正しく伝えることは、小さな子どもにとって難しいけれど、「今、お母さんは重いものを持てないの。手を上げられないから洗濯物が干せないの。だから助けてほしい」と母親の今の体の状況(何ができて何ができないか)を伝え、子どもにどうして欲しいかを隠さず、話したほうがいいのではと思います。
母親の心理は、子どもに必ず伝わります。家族だから、精神的にも肉体的にも経済的にも、支え合っていくことを率直に話していきたいと思っています。

療養で働けない時期に、医療費が膨らむことに人生で初めて不安を感じて

がん闘病中に、黒田さん自身が不安に感じたことは、どのようなことだったのでしょうか?

確かに「5年生存率50%」と言われたときはショックでしたが、もっと恐怖を感じたのは、お金のことでした。
治療開始後、手術代、検査代、薬代、乳房同時再建の手術代......。
治療と療養で働けない時期に、医療費の出費が膨らむことに、人生で初めて生活に不安を感じました。

ファイナンシャル・プランナー(CFP)として、リスクに備えるお金は準備していましたが、あのとき感じた恐怖は貯金の残高ではなく、収入がなく貯金が減っていく、という感覚への気づきでした。

私の場合は、夫が生活費を稼いでくれます。けれども、たとえば「一人暮らしだったらどうなるのか?」「治療で仕事ができなくなったらどうなるの?」といった事を考えるようになりました。

それまで自分がファイナンシャル・プランナーとして助言してきたことだけでは足りない!と感じ、入院中にいろいろ調べましたが、がん患者とお金について、必要事項や金額のことをまとめた本がありません。自分が書かなくてはと思いました。

お金の知識は、病気の不安を軽減させてくれます

ご自身の乳がん体験を踏まえて、がんとお金のことを多くの人に知ってもらいたいと思うことができたのですね。その最初のきっかけはなんだったのでしょうか?

2010年、本を書き始めたころ、乳がんを体験した者として、初めて講演を頼まれました。講演で会場から、医療費や経済的に不安に思っているさまざまな質問を受けました。がん治療中の方もたくさんいらして、みなさん切実でした。
その経験から、「がん体験を踏まえたお金の啓発の仕事は、私の使命」と感じたのです。

さらに、「お金がないから、がん家系でないから、保険に入らない。怖いから検診を受けない」そんな人がいかに多いのか...ということも実感しました。

がん検診で早期発見し、早期治療をすることこそ、体にも心にも経済的にも安心できる人生が得られます。お金は、病気の不安を軽減させる役割があることも伝えたいと思いました。

乳がんの正しい知識を身につけるため、乳がん体験者コーディネーターの認定を取得し、がんとお金の知識に磨きをかけ、講演で全国を飛び回っています。

がんになって、仕事をしながら家族と過ごす日常が、こんなにも幸せな事だと気づきました。

ファイナンシャル・プラインナーとして、ますます忙しくなっている黒田さんですが、がんになって生活を変えたことはありますか?

告知当初は、自分だけでなく、家族の健康も心配でしたので、食事を野菜たっぷりの和食中心に変えるなど気をつけていましたが、今ではとくに・・(苦笑)でも、とにかく疲れたらこまめに休むように心がけています。無理をしないようにしていますが、仕事好きなので気づかないうちに、ついついやり過ぎてしまいます。

すると、夫と娘が私の様子をみて、「少し休んだら......」とアドバイスしてくれます。心配性の夫と娘が私の体調管理のバロメーター役なのです(笑)。

「いつでも寿命を受け入れられるよう、今できることを一生懸命するしかない」をモットーに日々を積み重ねています。

生存率50%と言われた5年を越えて、今9年目に入りました。「キャンサーギフト」という言葉はあまり好きではないのですが、がんになってわかったことはたくさんあります。

仕事に邁進しつつ、家族で一緒に過ごす当たり前の時間がこんなにも幸せと気づかせてくれたから......です。夫と娘に心からありがとうと言いたいです。

乳がんの体験を踏まえて、ファイナンシャル・プランナーの視点を取り入れたがん患者の生き方指南書とも言える『がんとお金の本』。自分の体、心、お金のことを書き込める『がんとわたしノート』も出版。

次回、後編では、「がん治療にかかるお金はどのようなものがあるの?」「がんに備えるお金はどのくらい準備すれば?」「がん保険には入っておいたほうがいいの?」など、がんになる前に知っておきたい具体的ながんとお金のアドバイスを伺います。