定例研究会レポート

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アジアにおける乳房観 Part4
モンゴル文化と女性
~モンゴル民族衣装の変容と下着観 ~ 
2018年6月9日(土)

アジアにおける乳房観 Part4

■ 講演
モンゴル文化と女性  家事と子育てをめぐって
 島村一平先生
     (滋賀県立大学 人間文化学部 国際コミュニケーション学科 准教授)

モンゴル人女性の下着の嗜好 (現地より中継)
 宮本百合子さん (モンゴル国立大学)
 ガンバートル・ゾルザヤさん (滋賀県立大学 研究生)

現代モンゴル女性の民族衣装の変容
 速見 綾さん (滋賀県立大学 人間文化学部 3回生)
 オトゴンバヤル・サロールさん (モンゴル国立大学 4回生)


■ パネルディスカッション
・コーディネータ :廣瀬 潤子 運営委員
           (滋賀県立大学 人間文化学部 生活栄養学科 准教授)
・パネリスト:島村先生、速見さん
        宮本さん、ゾルザヤさん、サロールさん (現地より中継)

アジアにおける乳房観Part4として、モンゴルの文化・社会環境・生活習慣について学び、多様な乳房観 ・身体観と現代日本の女性・母親を取り巻く社会環境の課題を探る研究会を開催しました。
まず、『モンゴル文化と女性~家事と子育てをめぐって』というテーマで島村一平先生に講演いただきました。モンゴル国の概況、遊牧民の暮らし、モンゴル人の家事や子育て、そして先生が行ってみて驚いた事をお話いただきました。100年前は99%が遊牧民でしたが、今では定住化が進み人口の約10%が遊牧民であること、顔つきは日本人に非常に似ていること、ものの考え方が個人主義でありながら非常に心が広いこと、その背景には遊牧文化があり、いじめに相当する単語がないなどを教えていただきました。また、モンゴルでは女性の社会的地位が高く、医者、弁護士、学校の先生の70%が女性であり、普段の日常生活は男性よりも女性の方が偉いことや家事に占めるお母さんの割合は21%と非常に低く、あとは全部子供が行うそうです。モンゴルでは1924年に社会主義国になる以前から女性の社会的地位が高く、社会主義によって女性解放が進み、社会進出がさらに進んだことが女性の社会的地位を高くしたのではないかという事でした。
次に『モンゴル人女性の下着の嗜好』というテーマで現在モンゴル国立大学の学生である宮本百合子さん、ガンバートル・ゾルゾヤさんにWeb会議システムを使ってモンゴルから下着販売状況の調査、下着に対するインタビュー調査、アンケート調査の結果を発表していただきました。モンゴルの女性はスラッと手足が長く、メリハリのあるボディで、歩く姿や姿勢が美しく、欧米型の体型の人が多いこと、主な下着の販売店はザハと呼ばれる市場、ショッピングモール、デパート、オンラインショップであり、ザハは1000円程度で購入できるが試着室もなく、物もあまり良くないこと、ショッピングモールやデパートは物も良く2000~4000円程度で売られているそうです。製品は中国や韓国メーカーが多いそうです。ブラジャーを購入する際に重視するポイントは、「素材」51%、「デザイン」24%であり、モンゴルの女性は素材を重視している人が多いこと、ブラジャーに求める補整機能の要望という質問には、「そのままでよい」31%、「胸にハリを出したい」20%、「バストアップ」15%、「大きく見せたい」15%であり、補整機能に対するこだわりがあまりないが、20代よりも40代の方が「バストアップ」の割合が高く、加齢による体型変化を気にしていることがわかりました。さらに、自分の体型に自信を持っている人は66%と非常に高いことがわかりました。流通面で中国・韓国への依存が大きく中国、韓国製品が多い中で、自社ブランドを立ちあげる女性などモンゴル製品が出てくる状況に変化してきていることやモンゴル女性の自己肯定感の高さから下着に対するこだわりがなくシンプルなものを好む傾向があるのではないかということでした。

次に『現代モンゴル女性の民族衣装の変容』というテーマで現在滋賀県立大学の学生である速見綾さん、オトゴンバヤル・サロールさんにモンゴルの伝統衣装であるデールの歴史、デールブランドのデザイナーへのインタビュー結果、現代女性のデールに対する意識調査の結果を発表していただきました。
サロールさんはWeb会議システムでモンゴルから発表していただきました。
デールは日本の着物のように伝統衣装ですが、着物よりも特別感がなく、気軽に着られているそうです。
匈奴(キョウド)時代のデールは前で留める形と襟をもつ右おくみの2種類あったそうで、様々な遊牧民族の時代を経てデザインが変化していったそうです。2000年代には比較的露出部分が多く、バストや腰のくびれなど体のラインを強調するものが多くなりました。2010年代は匈奴デールというデールが流行します。国民的歌手が匈奴時代の斜めがけの襟をもつデールを着用したのが注目を集め流行に火を点けたそうです。5社のメーカーのデザイナーにインタビューされた結果、伝統的なデールを維持しつつ、洋風のスタイルとミックスしたり、一見ドレスのような中にデール風の襟をデザインしたり、洋服のシャツとスカートのように上下に分離したデールや日本風の和柄の布を使ったデールなど、デールが洋服化しているそうです。中にはコスプレ的なものもあり、はたしてデールといえるのか感じるものもあるそうですが、洋服であろうとコスプレであろうと、ワンポイントの民族的シンボルを入れさせえすればデールだと主張しているそうです。
また意識調査から、ほとんど人がデールを持っており、モンゴル人にとってデールが手に入りやすい環境であること、デールを着ていると快適と答える人が多く、遊牧文化に適した実用性の高いものであること、デールがほしい理由は式典や祝日に着るため、伝統衣装だからという理由が多く、デールはモンゴル人の誇りであるということがわかったそうです。デールは伝統衣装でありながら今の時代の人々の好み合わせて大胆に変化し、若者からお年寄りまで幅広く受け入れられ、身近に、気軽に着用できるものになっているそうです。
パネルディスカッションは廣瀬潤子先生の司会進行で、モンコルの子育ての環境や遊牧民の下着、体型に対する肯定感と補整下着、洋服の嗜好、また、モンゴル女性に「勝負下着」という考えがあるのかなど様々な議論が行われました。参加者交流会ではモンゴル料理とモンゴルティーを楽しみながら、異文化に触れた刺激的な研究会でした。

(事務局長 岸本泰蔵)

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