定例研究会レポート

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授乳と女性のライフスタイル
~液体ミルク・母乳バンクをめぐって~
2018年 10月27日(土)

授乳と女性のライフスタイル

■ 講演テーマ・講師
液体ミルクの国内導入と普及への課題
 末永 恵理 先生
 (乳児用液体ミルクプロジェクト 代表)

母乳バンクの普及と課題 
 水野 克己 先生
 (昭和大学医学部 小児科学講座 教授)

■ パネルディスカッション
コーディネータ :市邊 昌史 運営委員
          (国際アロマセラピー科学研究所(ISA) 代表理事)
パネリスト: 末永先生、水野先生、
       三尾 幸司 先生
       (NPO法人コヂカラ・ニッポン コヂカラMBAプロジェクトリーダー)


日本での液体ミルクの製造販売・国の動き・震災時の対応やその普及と課題、母乳バンクの普及と課題について勉強し、液体ミルクや母乳バンクが女性のライフスタイルにどのような影響を与えるのかを考える会を開催しました。

まず、『液体ミルクの国内導入と普及への課題』というテーマで末永恵理先生に液体ミルクの概要、授乳全体のあり方、災害時の授乳のあり方について講演いただきました。液体ミルクは超高温で殺菌した上で滅菌の容器に詰められるので衛生的で、常温保存でき、調乳作業が発生しないため、使いやすく、欧米では1970年代から流通が始まり、多くの国ではスーパーで普通に買えることが多いが、日本では法律が古いままで、赤ちゃん用食品としては「粉ミルク」という項目しかなく、規格基準がなかったそうです。ようやく本年8月に法律に追加され、国内でも製造・流通できる準備ができたそうです。基本は母乳であり、世界的には、WHOコードと呼ばれる決まりで人工乳、母乳代替品の販売促進が規制されているそうです。日本では法整備化されていないため中立性を保つ仕組みが担保されていない点に問題を感じるとのことでした。「母乳VSミルク」 といった二項対立ではなく、基本は母乳であり、人工乳は赤ちゃんのためのセーフティネットであるというのが末永先生の考えだそうです。また、ご自身の体験から出産するまで母乳育児に関して学ぶ機会の重要性を感じる事、支援者同士で横の情報共有を広げて正しい情報の提供をして頂きたい事や公共の場で授乳しやすい社会環境をつくって欲しいとの事でした。災害時の授乳のあり方について、国際的なガイドラインでは、1番が母乳、次に母乳バンク、その次が人工乳で、人工乳を使う場合は液体ミルク、粉ミルクの順番が推奨されているそうです。また、人工乳をばらまくのではなく、きちんとアセスメントをした上で、本当に必要な赤ちゃんに集中的に使われるように、専門家が災害時避難所に駆けつけて支援できる体制が重要とのことでした。

次に『母乳バンクの普及と課題』というテーマで水野克己先生に講演いただきました。母乳バンクは低出生体重児にお母さんの母乳の代わりに別のお母さんから提供された母乳を与えるために、そのドナーミルクを低温殺菌して利用できるようにした施設で、現在、日本には水野先生が運営されている1か所しかないそうです。低出生体重児は体の機能が未熟なため病気にかかりやすく、中でも壊死性腸炎という命にかかわる病気があり、その対策に母乳が大変有効だそうです。できるだけ早期に母乳を与えることが大事ですが、母親の母乳がでないときに母乳バンクのドナーミルクが有効で、そのために血液検査で安全性を確認されてドナー登録された方の母乳を62.5度30分で低温殺菌処理し、無菌検査をしたミルクを赤ちゃんに与え、そのミルクを継続提供できるように20年間保存されているそうです。非常に費用のかかる取り組みですが、子供たちの健康とその家庭の一生やひいては病院の負担、医療費の負担にもつながるといった使命感を持って取り組まれているそうです。全国のNICU(新生児集中治療室)がある病院に調査すると75%の医師が『母乳バンクが必要』 と回答されているそうです。ヨーロッパでは100年も前から母乳バンクがあり、世界各国には沢山の施設がありますが、液体ミルクと同じで、日本にだけなかったそうです。
実は40年ほど前、1974年に厚生省が全国3か所に母乳バンク新設を決定したそうですが、何故か作られずに消えていったそうです。母乳バンクというシステム作りは「絶対必要である」とは言えないが、液体ミルクと同じで、困っているお母さん、子供がいて、そのために命を落とす子供を助けることができるものであり、使いたい時に使えればよいが、でも、ないと使えないしくみだということでした。とくに災害時に母親の母乳が得られない場合、最善の栄養はドナーミルクであり、認可された母乳バンクから提供される低温殺菌処理されたドナーミルクが被災地へ届けられることが望ましく、それが難しい場合に液体ミルク、粉ミルクの順で人工乳が与えられるべきとのことでした。

パネルディスカッションは市邊昌史運営委員の司会進行で、NPO法人コヂカラ・ニッポンの三尾幸司先生にも加わっていただき、子育てする男性目線から日常や災害時の授乳について意見をいただきました。また、フロアからも母親側の視点だけでなく赤ちゃんの視点で母乳を飲む行為の大事さや日本におけるWHOコード遵守の必要性など、活発な発言があり、大変、有意義な研究会でした。

(事務局長 岸本泰蔵)

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