定例研究会レポート

女性の「からだ」と「こころ」を科学する 乳房文化研究会 トップへ

身体知を共に考え、体験する
~こころ、からだ、乳房~
2019年2月16日(土)

身体知を共に考え、体験する

■講演テーマ・講師
非分析的判断に必要な身体知性とは?
 佐藤 友亮 先生
 (神戸松蔭女子学院大学 人間科学部 准教授)

ままならない体を生きる 
 伊藤 亜紗 先生
 (東京工業大学 リベラルアーツ研究教育院
       /大学院環境・社会理工学院 准教授)

~体験~身体と心をととのえる禅の作法
 藤井 隆英 先生
 (曹洞宗 一月院 副住職、整体師、zafu代表、身心堂 主宰)

■パネルディスカッション
コーディネーター :河田 光博 運営委員
          (佛教大学 保健医療技術学部 教授
          /京都府立医科大学 名誉教授)
パネリスト: 佐藤先生、伊藤先生、藤井先生
       

自分の身体の大きさは、何を基準に判断しているのであろうか、「足を肩幅に開く」とはどのくらいの幅なのだろうか、私たちが感じている身体=「身体知」とは、一体何なのか。その「身体知」について、医学的側面、感覚的側面から探り、こころとからだと乳房の関係について、共に考えて体験する研究会を開催しました。

まず、『非分析的判断に必要な身体知性とは?』というテーマで佐藤友亮先生に人間が身体をどのように捉えているのか、医師の立場から西洋医学的な身体のとらえ方の特徴と限界、それを補完するものとしての東洋医学的な身体の捉え方について講演いただきました。西洋医学の身体観の特徴は科学的な分析で病気の原因を見つけ、そこに対してピンポイントで治療する点であり、身体をパーツに分解して捉える方法で再現性や医師の交換性といった利点のある反面、完全に分析できないことや、どこまで進歩しても医師の経験や想像力が必要になってくる限界があり、一方で東洋医学は身体を全体として捉えて、統合的な個体として扱うという違いがあるそうです。そのときに大事なのが非分析的判断である近道思考であること、医師は頭だけでなく体を使って様々な判断を一瞬でしていること、身体を用いた非分析的判断は医師だけでなく社会生活一般でも不可欠であることを紹介いただきました。また、非分析的判断を行うポイントは身体経由で形成される感情を捉えることが大事で、そのための呼吸法が大事ということで、合気道で教えられている「中丹田の呼吸法」を指導、体験させていただきました。

次に『ままならない体を生きる』というテーマで伊藤亜紗先生に講演いただきました。実は身体知と乳房は結構相性が悪いという話から入られ、女性であっても自分の乳房を身体の内部から感じられないこと、自分で動かすことができないことから女性自身でも自分の身体とは感じにくい非常に変わったパーツであり、身体知とは相性が悪いと思うが、だからこそ重要という事でした。先生自身も殆ど乳房について考えたことがなく、唯一の体験は出産後に感じた「授乳する道具」としての衝撃や、大学の講義で最近の女子学生が感じている「持っている能力に対する戸惑い」のこと、自分の体に対する無知でどうしたらいいかわからないものに対する「ままならなさ」、障害のある方は体の「ままならなさ」に対して非常に詳しく、ままならない体にどうつき合っていくかを考えていること、体が持っている時間感覚と社会の時間とをすり合わせていくことが大事という話をしていただきました。まさに「ままならない乳房」という事が印象に残るお話でした。

最後に『身体と心をととのえる禅の作法』というテーマで藤井隆英先生に講演と簡単な禅の作法を指導いただきました。座禅というと苦行のイメージがあるが、実は「安楽の法門」であり、安らぎで幸せな状態にするものだそうです。「調身、調息、調心」という言葉があり、身体を調え、呼吸を調え、心を調えれば自分が安らかになり、幸せになると読めますが、実は違って、身体を安らかで適切な状態を問いながら深めていくと、勝手に呼吸も心も調っていくという事が本意だそうです。そのキーワードが「微笑(ほほえみ)」であり、マインドフルネスという自分の内面の感覚を深めることが大事というお話をいただきました。その後、「握る瞑想」というワークを教えていただき、調身と調息をすることで心が調う実体験をさせていただきました。

パネルディスカッションは河田光博運営委員の司会進行で、身体感覚と武道、アスリートが感じる「ゾーンに入る」という感覚のこと、視覚に障害がある方の身体感覚、心と体のバランスなど、フロアからも意見をいただいて幅広いディスカションをし、「ままならない体」を体験できた研究会でした。

(事務局長 岸本泰蔵)

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