定例研究会レポート

女性の「からだ」と「こころ」を科学する 乳房文化研究会 トップへ

見せることと隠すことの攻防 
---- 20世紀誘惑の技法
[シリーズ・ワコールポスターを見ながら 1]
2007年6月2日

見せることと隠すことの攻防 

■講演
「ワコールポスターにみる戦後日本の身体、乳房の表現1」
●北山 晴一委員

「見せることと隠すことの攻防」
●長澤 均先生(ながさわ ひとし)
アート・ディレクター

■パネルディスカッション(ポスター関係者を交えて)
  岩城賢作:元㈱ワコール宣伝部
  尾崎建一:元㈱ワコール宣伝部

●コーディネーター
北山 晴一 運営委員 立教大学大学院文学研究科比較文明学専攻 教授
実川 元子 運営委員 フリーランスライター・翻訳家
 
●実行委員
 北山晴一・実川元子・藤井孝子:㈱ワコール人間科学研究所 主席研究員

ファッションとは、あるいは、衣服とは、または、下着とは、単なる服飾研究ではない。
とりも直さず「身体」との関係を根底的に問い直してみる事が、なによりも必要な前提条件である。今回の研究会では、下着が、生理的あるいは生存維持の目的以上に女性にとって何を意味し、どのような事を象徴しているのかを、女性の「身体」という観点から問い直してみるものである。
 その手法は、「シリーズ・ワコールポスターを見ながら1」という論題として始まる。
まず、北山晴一先生により「衣服は、第2の皮膚と言われるがそれよりも大切な下着」という立場から「とりわけ女性は、ファッションと言う衣服の視点からどれほど身体を文明化(加工)してきたのか」、また「ワコールポスターが戦後日本の身体と乳房をどのように表現してきたか」が端的に論じられた。
 次に長澤均先生は、日本の歴史に限定するのではなく海外における「下着のアウター化と身体」に関係する論題(今回の研究テーマ『見せることと隠す事の攻防―20世紀誘惑の技法』)をグラフィックと言う斬新な視点から多角的に示唆する。そして「印象に残ったワコールポスターはどれですか」と言う参加者による人気ランキングアンケート結果をもとにしてのディスカッション。惜しくも熱い議論は尽きる事なく、次回に引き継がれることになった。
 私が、下着にいちばん関心がある世代の女子短期大学生45名にアンケートした所、女性は、「女性のアイデンティティ確立の為、下着は、見えるところも見えない所も完璧でありたい」という回答が圧倒的多数を占め、改めて女性の身体意識における下着の重要性を再認識させられた。
 周知の如く、ファッションは経済現象でもあり、下着もその範囲に含まれるものと定義するならば、ワコール・ポスターが商業広告として日本の女性の身体、とりわけ乳房に影響を与えてきた功績がどれほど大きく意味あることか再認識出来た。しかし、単なる経済現象だけにとどまらず、女性にとっては「身体」の中でも「お尻」(パンティー)よりも「乳房」(ブラジャー)がなによりも女性自身を、自己をアピールする手段として重要であり、商品の選択には内面的心理(欲望を喚起されること)をどれほど必要とするかを改めて問い直してみるのに、大変意義ある研究会であった。われわれはこのような課題に着手したばかりである。次回研究会でのさらなる深化を期待したい。

乳房文化研究会 会員 直江 道愛
ファッション研究家

▲ 上に戻る