定例研究会レポート

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女の目・男の目
---- 人間の目から見る身体と乳房
[シリーズ・ワコールポスターを見ながら2]
2007年10月13日

女の目・男の目

■講演
「ワコールポスターにみる戦後日本の身体、乳房の表現2」
●北山 晴一委員

「女の目・男の目・人間から見る身体と乳房」
●笠原 美智子先生(かさはら みちこ)
東京都写真美術館 事業企画課長

■パネルディスカッション(ポスター関係者を交えて)
  岩城賢作:元㈱ワコール宣伝部

●コーディネーター
北山 晴一 運営委員 立教大学大学院文学研究科比較文明学専攻 教授
実川 元子 運営委員 フリーランスライター・翻訳家
 
●実行委員
 北山晴一・実川元子・藤井孝子:㈱ワコール人間科学研究所 主席研究員

目から入ってくる情報は、実生活での周囲の人々・風景だけではなく、写真・ポスター・映画・テレビなどを通して伝えられ、さらに最近ではインターネットの普及によりパソコンの前に座っているだけで瞬時に世界中のあらゆる情報を目にすることができるようになった。しかし、このように情報が氾濫する世の中で、もう一度原点に立ち返り、一枚の写真やポスターがもたらすインパクトやその背景を見つめ直すことも非常に興味あるテーマである。

今回の研究会ではまず、北山晴一先生が前回に続いてワコールのポスターを取り上げながら、戦後から現代に至る身体と乳房表現の変遷について解説された。一枚一枚のポスターがその時代を映し出しており、懐かしさを感じると共にポスター作成における裏話も拝聴し興味深かった。
 次に笠原美智子先生は、女性のヌード写真を提示しながらフェミニズムやジェンダーの観点から女性の意識の変遷と表現について解説された。
女性のヌードに代表されるように写真を用いた身体表現は、社会通念的には男性が撮り、観賞も男性を想定して行われている。従って、男性の理想とするエロスを感じるヌードが名作として語られてきた。しかし、フェミニズムが台頭してきて、写真を用いた身体表現においても、誰が表現するのか、誰を表現するのか、誰が観賞するのかによってジェンダーによる軋轢や確執が生じてきた。つまり、写真を用いた身体表現もその美しさは普遍的なものではなく、多様な価値がるのだと再認識させられた。笠原先生の講演を聴いて、改めてワコールのポスターを振り返るとモデルが全て若くて美しい女性であることに違和感を覚えた。もう少し年月を重ねて下垂した乳房を有する普通のおばちゃんが、おしゃれなブラジャーをしている構図も斬新でおもしろいように思われた。女の目、男の目、人間の目など多角的視点から捉える身体や乳房は決して一定の基準に照らし合わせて、優劣や美醜が決められるものではなく、そういった価値基準を一旦取り払って考える必要があるかもしれない。
私は医療従事者で、特に乳癌術後の乳房再建を専門としており、多くの患者さんの乳房を目にする。どの患者さんの乳房もその方の人生を映し出しており、年齢を重ねた下垂した乳房であってもガンに冒された乳房であっても、その人生と相まって輝いて見えることがある。そのような身体意識の多様性を改めて感じさせてくれたという意味で大変有意義な会であった。
今後の研究会の更なる発展に期待し、共に考えていきたいと思う。

乳房文化研究会 会員 矢野 健二
大阪大学大学院医学系研究科 美容医療学寄附講座 教授

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