定例研究会レポート

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現代親子のおかれる環境と子育て支援
--子育てから 子育ち・親育ちへ
2009年8月8日

現代親子のおかれる環境と子育て支援

8月8日(土)ワコール本社ビル2階会議室にて、70名の方にご参加いただき開催いたしました。
 
■講 師   柏木 惠子 先生(東京女子大学 名誉教授)

■定例研究会レポート
(医)康生会 ラクトクリニック・ラクト健診センター 看護部長
助産師・家族心理士
乳房文化研究会 運営委員
オルガナイザー 田代 明美

 わが国における少子化対策として、「子育て支援」が叫ばれて久しい。その一方で、児童虐待によって死に至る最悪な事故や事件が頻繁に報道され、子どもを取り巻く環境は深刻さを増してきている。親の子どもへの虐待、就学児童の不登校やいじめなどその背景には、経済的な問題や社会から孤立した環境での育児、母親の育児不安やストレスなどの要因を指摘されている。今だ"育児は母の手で"と家族から言われた女性は、積み上げた知識や技術を生かしての仕事や活動を辞めざるを得ない。近年、仕事と育児の両立を希望する従業員に対して、育児休業や育児時間の取得や『ワーク・ライフ・バランス』を推進する企業もあるが、その取得は女性がほとんどであり、子育ては母親がすることを前提としたものではないかと疑問を持つ。父親の役割は何か、子を持つ親のおかれる現代家族の環境を考察しながら、社会全体で子育てを支援するのに必要なことは何かを考えてみたいと思った。
 そこで今回は、家族心理学の第一人者である柏木惠子先生を講師にお招きした。先生の研究テーマで確定していることの一つに、育児不安は文明がもたらした病理であり日本の特産であると指摘された。時代の変遷は女性の一生に深く関わり、母としてだけではなく個としての生き方を問うこととなった。子を産み育てることに専念することは、親の資源(体力、経済力、精神力など)を子どもに全て投資する活動であり、また女性が固有名詞で生きる空間と時間がない環境におかれる。仕事を続けたいのに、夫や家族から育児は母の手でと言われ仕事を辞めた女性に、育児ストレスが大きい。さらに育児をしない父親が母親の育児不安を増強させている。一方、仕事と育児を両立する女性は、仕事を通して自分の資源を自身へ投資し、また個人としての体験に活性化が図られ、自らも成長し充実感や幸福感をもたらすので精神的に安定し育児ストレスは少ない。
 このことから、子育てをする女性には自分自身が成長するための時間や空間、活動などを保障し、男性には育児や家事に関わる時間や環境を整えることが、子育て支援への重要なポイントではないかとの考えに至った。また子ども自身が育つ力を持っていることを忘れてはならない。ご講演後の交流会では、子育てを妻に任せきりだったと反省する男性の声も出た。子育て支援活動の実践者からは具体的な支援方法などの質問や、お産現場での医療問題が要因の一つとの意見もあった。今回の研究会をきっかけにこの話題が、家庭や職場、地域社会に広がり発展していけたら幸いである。

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