定例研究会 レポート

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定例研究会レポート: 2015年

人工乳と栄養
--ヒト母乳中の機能成分
2016年 1月23日(土)

■講師・講演テーマ

●上田 木綿子先生(うえだ ゆうこ)
赤ちゃんとお母さんの健やかな明日の為に ~人工乳開発の立場から~

アイクレオ株式会社 マーケティング部 研究開発課

●片山 高嶺 先生(かたやま たかね)
母乳中のオリゴ糖の働き ~ビフィズス因子としての機能~

京都大学大学院生命科学研究科 教授 / 石川県立大学 特任教授

■パネルディスカッション
●コーディネーター
廣瀬 潤子 運営委員(滋賀県立大学人間文化学部 生活栄養学科 准教授)
●パネラー 上田先生、片山先生

赤ちゃんにとって母乳栄養が"いちばん"ですが、人工乳が必要な方や、必要な時があります。人工乳をより良くするために、現在、どのような取り組みがなされているのでしょうか?人工乳開発の歴史や最先端の研究を通して人工乳を考える研究会を開催しました。

開会にあたり、コーディネーターである滋賀県立大学の廣瀬潤子先生より母乳のネット販売の問題を事例に、必要な場合には人工乳を正しく使う、そのために人工乳のことを正しく知る研究会にしたいという主旨説明をいただきました。
最初に「赤ちゃんとお母さんの健やかな明日のために」というタイトルでアイクレオ株式会社の上田木綿子先生より開発の立場から人工乳についてお話をいただきました。粉ミルクとは法律上は特別用途食品のひとつで、乳等省令では調整粉乳と呼ばれるものであり、国やメーカーが安全性を非常に重視し、品質管理を徹底していることの説明がありました。人工乳の歴史は、1835年の加糖練乳から始まり、1913年にガステンバーガー博士という方が現在の原点となる人工乳を開発して飛躍的に進化したこと、その後、幾つかの悲しい事件がありながら、それらを教訓に安全性、栄養面で進化していること、現在も日々、研究データをもとに、粉ミルクの成分を母乳に近づける工夫改良を積み重ねていることをお話いただきました。

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アジアにおける乳房観 Part3
--中国人女性の身体意識と文化・ファッション
2015年10月24日(土)

●田村容子 先生(タムラ ヨウコ)
男旦(おんながた)が脱ぐとき ~中国演劇における乳房の表現

   ※男旦:中国演劇で(女形)の意
福井大学 教育地域科学部 准教授

●徐 朝暉 先生(シュウ チャオ ホイ)
中国人女性の身体意識と下着の好み

 中国ワコール人間科学研究開発センター部長

●武田雅哉 先生(タケダ マサヤ)
「乳房〉の図像と記憶 ~中国・ロシア・日本の表象比較研究」 からの中間報告

 北海道大学大学院文学研究科・文学部(中国文化論講座) 教授

■パネルディスカッション
●コーディネーター : 実川元子 運営委員
 (フリーランスライター・翻訳家)
●パネリスト
 田村先生、徐 先生、武田先生


アジアにおける文化・価値観と乳房観の違いを探る会の第三弾として、今回は中国に注目し、中国における女性史、文化史や中国人女性の身体美、乳房に対する願望から乳房観 ・身体観について理解を深める研究会を開催しました。
まず、「男旦(おんながた)が脱ぐとき」とのタイトルで福井大学の田村容子先生からお話をいただきました。中国の演劇や映画の中で、男性が女性の役を演じるとき、あるいはその逆に女性が男性を演じるとき、乳房をどのように表現してきたか、中国の歴史の流れに沿って、具体的に映像を見せていただきながら説明くださいました。京劇の女役を男旦(おんながた)と呼ぶこと、清の時代は女優が舞台に立つことが禁じられていたこと、1912年の中華民国以降は、その禁が解かれて女優劇ブームが起こり男旦は衰退していったこと、1949年の中華人民共和国以降は、国の政策として女性の役は女優がする方針がだされたこと、1966~76年の文化大革命には中国共産党による京劇改革が進められ、女性性が抑圧されていたことを教えていただきました。20世紀初頭に女優が登場し、危機を感じた男旦が自ら衣服を脱いで、足から腰へ、そして乳房を見せることで存在感を残そうとしたことや時代と共に薄幸でやせ型の美人から健康的な女性、さらには武装して国のために戦う活発な女性へ女性像が変化していったことが印象的でした。

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美術解剖学と乳房
--動きの中での解剖学
2015年6月20日 (土)

■「美術解剖学からみた乳房」
 宮永美知代 先生
(東京藝術大学 美術教育(美術解剖学Ⅱ)研究室 助教)
■乳房の視覚的表現
 佐藤良孝 先生
(メディカルイラストレーター/有限会社 彩考 代表取締役)
■パネルディスカッション
・コーディネータ :山口久美子運営委員
 (東京医科歯科大学 先駆的医療人材育成分野 講師)
・パネリスト:宮永先生 佐藤先生


解剖によって人体の内部構造を学び、それを美術制作に活かす美術解剖学。その歴史・研究活動・実技への理解を深め、乳房を含めた人体の美しさを考える機会として研究会を開催しました。
まず、「美術解剖学から見た乳房」というタイトルで東京藝術大学の宮永美知代先生からお話をいただきました。
哺乳類の特徴として乳房の数が必ずしも偶数ではない、乳房の場所も胸とは限らず脇下の場合もあること、元々、乳房は汗腺で皮膚由来であること、乳房に方向性や動作姿勢によって形状が変化し、それを美術作品に作家がどのような意図で表現してきたのかを実例を紹介いただきながら、分かりやすく説明してくださいました。「狩りをするディアナ」のように美しい身体は男性の中にあると考えられていた時代があること、ドミニカ・アングルの作品(グランド・オダリスク)のように現実にはありえないポーズや実際には見えない乳房を空想の中で作り上げて見る人に自然に届くようにデフォルメして描いていること、ゴヤの作品(裸のマハ)もまた現実のポーズではありえない乳房の形を描くことで重力に逆らう若々しい女性の乳房の形を私達に自然に伝えていることなどを説明していただきました。また、洋画とは対照的に日本画では乳房の方向軸が並行的で、例えば歌麿の絵画は乳房が正面を向いていることが印象に残りました。乳房とお尻が似ていること、現代美術で乳房がどう描かれているかなどの話も伺い、乳房は作家の好みや「女性」性が顕著に現われることを教えていただきました。

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