定例研究会レポート

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人工乳と栄養
--ヒト母乳中の機能成分
2016年 1月23日(土)

人工乳と栄養

■講師・講演テーマ

●上田 木綿子先生(うえだ ゆうこ)
赤ちゃんとお母さんの健やかな明日の為に ~人工乳開発の立場から~

アイクレオ株式会社 マーケティング部 研究開発課

●片山 高嶺 先生(かたやま たかね)
母乳中のオリゴ糖の働き ~ビフィズス因子としての機能~

京都大学大学院生命科学研究科 教授 / 石川県立大学 特任教授

■パネルディスカッション
●コーディネーター
廣瀬 潤子 運営委員(滋賀県立大学人間文化学部 生活栄養学科 准教授)
●パネラー 上田先生、片山先生

赤ちゃんにとって母乳栄養が"いちばん"ですが、人工乳が必要な方や、必要な時があります。人工乳をより良くするために、現在、どのような取り組みがなされているのでしょうか?人工乳開発の歴史や最先端の研究を通して人工乳を考える研究会を開催しました。

開会にあたり、コーディネーターである滋賀県立大学の廣瀬潤子先生より母乳のネット販売の問題を事例に、必要な場合には人工乳を正しく使う、そのために人工乳のことを正しく知る研究会にしたいという主旨説明をいただきました。
最初に「赤ちゃんとお母さんの健やかな明日のために」というタイトルでアイクレオ株式会社の上田木綿子先生より開発の立場から人工乳についてお話をいただきました。粉ミルクとは法律上は特別用途食品のひとつで、乳等省令では調整粉乳と呼ばれるものであり、国やメーカーが安全性を非常に重視し、品質管理を徹底していることの説明がありました。人工乳の歴史は、1835年の加糖練乳から始まり、1913年にガステンバーガー博士という方が現在の原点となる人工乳を開発して飛躍的に進化したこと、その後、幾つかの悲しい事件がありながら、それらを教訓に安全性、栄養面で進化していること、現在も日々、研究データをもとに、粉ミルクの成分を母乳に近づける工夫改良を積み重ねていることをお話いただきました。

次に「母乳中のオリゴ糖の働き」というタイトルで京都大学の片山高嶺先生からオリゴ糖とビフィズス菌との関係について説明をいただきました。母乳中にはオリゴ糖という成分があるが、実は、このオリゴ糖は赤ちゃんの栄養にはならないものであり、それを乳房で作って赤ちゃんに与えているのはなぜかというお話でした。腸内細菌であるビフィズス菌には整腸作用があり、ビフィズス菌はオリゴ糖を食べて増殖するそうです。このオリゴ糖をヒトは栄養にできず、他の細菌も栄養にできないが、ビフィズス菌だけが栄養にすることができ、効率よく腸の中で増やすことができるそうです。ビフィズス菌がどのようにしてオリゴ糖を分解して食べるのかを化学式で説明いただきました。また、生まれた時は基本的には腸内は無菌状態だそうで、そこから授乳を開始すると一気にビフィズス菌が増えるそうです。
パネルディスカッションでは、人工乳の味や匂いはどのように母乳に近づけているのかといったことや人工乳の選び方、何歳まで飲ませたらよいのかといったこと、腸内細菌がどこから来るのか、ビフィズス菌は大人になるとどうなるのかといった質問に回答をいただきました。また、母乳が、お母さんの食べた食品によって味と匂いが変化する研究結果があり、お母さんの食事は、とても大事であるとの提言がありました。田代会長からは母乳が「お母さんが赤ちゃんに栄養を与える場」という見方だけでなく、「お母さんが変なものを摂った場合にそれを捨てる場」になっていることを、ぜひ認識してほしいという指摘がありました。母乳の栄養成分の機能性と、その母乳の代わりとして人工乳を母乳に近づけるために国やメーカーが努力し、かつ、安全性重視の姿勢、そして赤ちゃんだけでなく大人も含めて人工乳の可能性を考える会になりました。

(事務局長 岸本泰蔵)

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