定例研究会レポート

女性の「からだ」と「こころ」を科学する 乳房文化研究会 トップへ

乳がんの検診とサポートを考える
2016年7月23日(土)

乳がんの検診とサポートを考える

■講師・講演テーマ

●阪口 晃一先生(さかぐち こういち)
乳がん検診の基礎知識

京都府立医科大学 内分泌・乳腺外科 講師

●飯嶋 由香里 先生(いいじま ゆかり)
乳がんの検診とサポートを考える

沢井記念乳腺クリニック 乳がん看護認定看護師

●八木 彌生先生(やぎ やよい)
乳がんを生きる ~日米の診療とサポート、そして語り

元 佛教大学 保健医療技術学部 看護学科 教授

■パネルディスカッション
●コーディネーター
鳥屋尾 優子 運営委員
(株)ワコール 総合企画室 広報・宣伝部 スクール企画課長
●パネラー 阪口先生、飯嶋先生、八木先生

これまで乳房文化研究会では乳がん罹患患者のQOLのための治療や乳房再建、 罹患患者の体験談を聞いてきました。 今回は、乳がんの検診から治療、サポートまでを「ブレストケア」と考え、乳がん検診の基礎知識とサポートについて考える会を開催しました。著名なタレントが乳がんに罹患し、検診や乳がんに関して意識が高まる一方、SNSなどから手軽に自分で情報が発信できる社会になり、ネット上には様々な情報が流れています。検診技術が発達しているものの、実際に、どのような検診が自分に合っているのか、正しい知識が不足しているのではないかと思われます。そういった正しい知識を勉強し、また、日米の診療・サポートの比較から乳がんについて考える会を開催しました。
最初に「乳がん検診の基礎知識」として京都府立医科大学の阪口晃一先生と沢井記念乳腺クリニックの飯嶋由香里先生からお話をいただきました。阪口先生からは乳がん罹患者数、検診率、好発年齢、10年無再発生存率などを質問形式でお話いただいた上で、乳がん検診の種類や検査方法の特徴、乳がんの種類、最新の検査方法、生存率、再発率について詳しく教えていただきました。マンモグラフィは石灰化を見つけるもので超音波エコーは「しこり」を見つけるもの、前者は地図で全体像が見える、後者は街の風景写真で部分的に詳しく見ることができるが撮り方が難しいという喩えがとても分かりやすかったです。また、乳がんは5年、10年生存率が悪い、再発率が高いと思われているが、実際には非常におとなしいがんであり、生存率が低いわけではなく、結構たくさんの方が元気でいらっしゃるということでした。

続いて飯嶋先生からは、ご自身も乳がん罹患者であり、その経験から乳がん看護認定看護師の資格をとられたことや乳がん学会が出している治療の教科書から乳がんの原因・予防についての知識と乳がんの自己触診方法、そして乳がん看護認定看護師についてお話をいただきました。乳がん看護認定看護師の役割は個別的に患者の方に応じたケアを提供したり、治療の意思選択をサポートしていくことであり、一人ひとりの患者の方の相談に専門知識を持って対応する必要があるが、全国で300人少し、京都では5人しかおらず、認定看護師を増やす活動もされているとのことでした。
次に、元・佛教大学の八木彌生先生から「乳がんを生きる~日米の診療とサポート、そして語り」というテーマでお話をいただきました。まず、先生が日米の比較研究をされる経緯についてお話をいただきました。患者会での体験、一人一人へのインタビューを通じて日本における診療と支援体制を知り、その現状と疑問から、日本よりも罹患率が高い米国の現状が知りたいという思いから米国の病院の研修に参加し、診療やサポート体制、米国在住の日本人患者へのインタビューをされたそうです。日米では診療、診察台、家族の座る場所の有無、椅子に違いがあり、米国は待ち時間がほとんどなく、診察時間はたっぷりあること、統合医療に門を開いていることなど米国のサポートグループは日本の患者会ほど大きな組織ではなく、2、3人のグループであり、ファシリテーターは専門職で教育訓練を受けた人で、プログラムが豊富であり、夜に開催されるという特徴があるそうです。そういった環境によって日米で乳房切除術を経験した日本人女性の語りも受診期、術後期、回復期で違いがあることを紹介されました。日米で保険制度の違いがあるので、一概にどちらの診療、サポート体制が良いとは言えない事は当然ですが、医療関係者だけでなく、社会の一員としてサポート体制のあり方を考える話でした。
パネルディスカッションでは、事前に会場から収集した沢山の質問の一部を三人の先生方に丁寧に回答いただきました。時間の関係で、全ての質問に回答はできませんでしたが、その後に開催した参加者交流会にも沢山の方が出席され活発な意見交換が行われました。
乳がんに罹患された方、治療中の方も出席され、スタッフを労っていただいている姿が印象的でした。

(事務局長 岸本泰蔵)

▲ 上に戻る