定例研究会レポート

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オキシトシンと乳房
2017年1月21日(土)

オキシトシンと乳房

■オキシトシン--周産期の現場から--
●大田 康江先生(おおた やすえ)
順天堂大学 医療看護学部 助教

 

■行動や感情も変える! オキシトシンの不思議
●兼子 将敏先生(かねこ まさとし)
NHK制作局 科学・環境番組部 チーフディレクター

■パネルディスカッション
●コーディネーター 河田 光博 運営委員
佛教大学 保健医療技術学部 教授 / 京都府立医科大学 名誉教授
●パネラー 大田先生、兼子先生

乳房や妊娠・出産・育児と密接な関係のホルモンである「オキシトシン」。最新の科学研究により、それは、私たちの感情や行動を変化させることが分かってきました。「オキシトシン」の不思議な機能、その役割や最新の研究について、また、出産現場におけるケアについて勉強する会を開催いたしました。

まず、「オキシトシン-周産期の現場から-」というタイトルで順天堂大学の大田康江先生から、オキシトシンは恥ずかしがり屋のシャイホルモンであり、環境やストレスに影響されやすく、助産師として妊婦のもともと備わっている内分泌の機能を促進してオキシトシンを促すようにプロモートすることが大事というお話をしていただきました。妊娠初期から後期にかけて、オキシトシンの受容体数が増加し、妊娠後期になると日内変動で真夜中に一番分泌が高くなり、陣痛が真夜中から明け方に多くなること、分娩時、内因性のオキシトシンはパルス状に血中に分泌され、規則的な子宮収縮、陣痛を起こす一方、脳内のオキシトシンも高くなり、恐怖や痛みの軽減やパートナー・医療者への信頼感の増幅、母親行動のスイッチが入るといった作用があるそうです。陣痛中のオキシトシン分泌を抑制するものは、1つは陣痛中の恐怖や不安、もう一つは脳の働きであり、促進するためには緊張感を与えず、安心感を与えること、そのためにお産の場所が十分に暖かいこと、リラックスする環境であること、立ち会う助産師自身が冷静沈着で緊張感を与えないことが大事だそうです。産後直ぐは、早期の母子接触によってオキシトシンの急上昇が起こり、養育行動のスイッチが入り母子関係の促進に寄与し、授乳中はパルス状のオキシトシン分泌が射乳反射を調節するが、授乳中のストレスによってオキシトシンの分泌が減少するといった研究結果もあるそうです。妊娠、分娩、授乳においてオキシトシンは重要な役割をしており、その分泌を抑制・疎外するような環境から守ってあげることが助産師の役割であるとのお話でした。

次に「行動や感情も変える!オキシトシンの不思議」というタイトルでNHKの兼子将敏先生から、制作された番組の映像を見せていただきながらオキシトシンの最新研究についてをお話くださいました。まず、最初にホルモンの働きについて、ドミニカ共和国のサリナース村で起こっている性別が突然変わる不思議な現象が、思春期の性ホルモンの分泌によって体が劇的に変化することが原因であることを衝撃的な映像で見せていただきました。そういったホルモンのひとつであるオキシトシンについて陣痛促進や射乳の働きだけでなく、最近の研究でオキシトシン細胞が血管だけでなく脳にもつながっていることがわかり、脳への働きや感情・行動に対する影響が注目されているそうです。例えば、ペアを作ったりする愛着行動が生まれることがネズミの実験で証明され、ネズミだけでなく、人間でも、男女のカップルにオキシトシンスプレーを吸引させると攻撃的な発言が減って理解を示す発言が増え、人間同士の心の交流を深める働きがあることがわかってきたそうです。こうした行動実験によって、オキシトシンは、母性、父性、夫婦・男女の愛情、仲間との信頼感を生み出すだけでなく、浮気防止効果もあることがわかってきたそうですが、全ては、子供を育て上げ、子孫を残すという一つの目的のためであり、愛情を深める一方で、育児を邪魔する、あるいはネガティブな感情を抱いたものに対して攻撃性を高めるという特性があり、「夫へのイライラが止まらない」といった感情も、そのためだそうです。実はオキシトシンが高い状態というのは、感情の振れ幅が大きくなるということが正しい理解だそうです。また、自分の意思や行動でオキシトシンは増やすことができるので、触れる行為によるセラピーや自閉症の治療薬、PTSDの予防・治療の研究といった医学的な利用も始まっているそうです。

パネルディスカッションでは、フロアから産院や小児科、内分泌科の先生からのお話もあり、オキシトシンの多様な働きが勉強できる、大変、充実した研究会になりました。

(事務局長 岸本泰蔵)

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