定例研究会レポート

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身体改造と乳房
2011年1月22日 (土)

身体改造と乳房

■ 美容整形の社会学  身体改造に向う女性の心理
 谷本 奈穂 先生
(関西大学 総合情報学部 准教授)
■ 乳房lの美容医療
 吉村 浩太郎 先生
(東京大学 医学部形成外科 講師)
■ 身体改造--"美しくなる"ことの意味と価値
  時代はどんな美を求めているのか?
 倉田 真由美 先生
(美容ジャーナリスト)

■パネルディスカッション
・コーディネータ :実川 元子運営委員
 (フリーランスライター・翻訳家)
・パネリスト:谷本先生 吉村先生 倉田先生

二重まぶたにする、レーザーでシミをとる、注射でシワをとるといった美容整形が技術の進歩により手軽にできるようになったことで、近年とくに女性たちの間で増えていると報じられています。一時間ほどの施術で日帰りできる「プチ整形」が広まったおかげで、豊胸などの外科手術についても、かつてよりもはるかに心理的にハードルが低くなりました。

しかし、いくらお手軽に、気軽に美容整形をする時代になったとは言っても、身体にメスを入れることのリスクに日本ではまだ逡巡する人が多いと思います。そのリスクを乗り越えても美容整形をしよう、と踏み切らせる力は何なのか? 深くて複雑なこのテーマに、社会学者、形成外科医、美容ジャーナリストというまったく立場のちがう三人の先生方に語っていただきました。

 関西大学総合情報学部准教授の谷本奈穂さんは、美容整形についてのアンケートをとり、また実際に施術を経験した人たちへのインタビューをもとに『美容整形と化粧の社会学』を著しておられます。講演で印象的だったのは、美容整形をする動機として日本人女性が挙げる第一が「自己満足のため」と言った点でした。谷本さんはこの動機を他国(台湾や韓国でのインタビュー調査)や男性の意見と比較しながら分析され、「きれいになりたい」という欲望の日本人独特の心理にふれられました。「(異性に)もてたい」「いい仕事につきたいので印象を良くしたい」といったわかりやすい動機ではなく、「自己満足」というとらえどころのない動機で整形に踏み切るのはなぜなのか。非常に興味深いところです。

 東京大学医学部で美容整形に携わっていらっしゃる吉村浩太郎さんは、実際に診察なさっている立場から身体改造の現状を語られました。美容整形で多い豊胸手術の最新の技術や現状の紹介もさることながら、米国や南米とアジア諸国の美容整形との比較は興味深いものでした。「美しくなることは人間の根源的な欲望なのか? それとも社会的な必然効果なのか?」という問題提起は、美にかかわる仕事をする人たちにはぜひとも自分なりの答えを見つけていただきたいところです。

 美容ジャーナリストの倉田真由美さんには「美しくなることの意味と価値。時代はどんな美を求めているか?」というテーマで実川のインタビューでお話しいただきました。具体的な美容法も会場の方々の関心をかきたてたようですが、メディアが流す美に関する情報との接し方、年齢を重ねることと美しくあることをどう重ね合わせていくか、といった奥の深い話がうかがえた点が収穫でした。最後に「ワインも女性も時間を経て熟成を重ねることで得られる美しさがある」という一言には重みがありました。

フリーランスライター・翻訳家

実川 元子(運営委員)

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