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#医療従事者インタビュー

乳房の形成外科医 草野太郎先生に伺いました
「おっぱいを失っても取り戻せる!進化している乳房再建の現状とは?」

2019.01.24

乳房再建とは、乳がん手術によって失われた乳房をもとの形に近づける手術です。私たち女性にとって、乳房とは単なる臓器ではありません。心のあり様や自分らしさにもかかわる大切なもの。そんな女性たちの思いもあり、乳房再建手術に健康保険が導入されるなど、ここ数年で大きく進化してきています。乳房再建手術の症例数が多い、昭和大学病院ブレストセンターで形成外科医として携わる草野太郎先生に、日本の乳房再建の現状を伺いました。

取材・執筆/増田美加(女性医療ジャーナリスト)
プロフィールはこちらから

草野 太郎先生

Taro Kusano
昭和大学病院 形成外科医(2019.02.21時点)
【ご略歴】
2001年、帝京大学医学部卒業。同年昭和大学形成外科入局。その後各地で研鑽を積む。
2008年、千葉県救急医療センター 形成外科医長。
2013年、昭和大学形成外科 助教。
2017年 、昭和大学江東豊洲病院 講師。
2019年 「くさのたろう クリニック」開業。
昭和大学形成外科 兼任講師。
医学博士/一般形成外科・美容外科/日本形成外科学会専門医/小児形成外科専門医。

【昭和大学病院 ブレストセンター】
http://showa-breast.com/

前編  ~乳房再建について

Q1

増田

今、日本で行われている乳房再建手術とは、どのようなものでしょうか?

A1

草野先生

乳がんの手術で失った乳房を取り戻すことができるのが乳房再建手術。さまざまな精神的、身体的な問題が改善することがあります。

乳房再建手術は、乳がんの手術によって失われた乳房を形成外科の技術で、再建する手術方法です。

乳房を失うことで、左右のバランスが悪く肩こりや腰痛が起こる、乳房の痛みが残った、合う下着が減ってしまった、子どもたちとお風呂に入りにくい、女性としての象徴を失った気がするといった不便さや不自由さを感じる女性が多くいます。
乳房を再建することで、これらさまざまな問題が改善することも少なくないのです。

Q2

増田

乳房再建手術にはさまざまな方法があります。
おもにどのような手術法があるか教えていただけますでしょうか?

A2

草野先生

大きく分けると自分のお腹(なか)などの組織を使う方法と、シリコンインプラントなど人工の物を使う方法があります。

【自家組織による乳房再建】

自家組織による再建は、患者さんご自身の体の一部の組織を胸に移植する方法です。おもに①お腹の組織を移植する方法と、②背中の組織を移植する方法のふたつがあります

①お腹の組織を移植する方法

お腹の組織を移植する方法には、お腹の皮膚や脂肪、筋肉に血管をつけたまま、胸に移植して乳房をつくる方法(腹直筋皮弁法(ふくちょくきんひべんほう))と、お腹の脂肪とそこに栄養を送る血管だけを移植して乳房をつくる方法(穿通枝皮弁法(せんつうしひべんほう)があります。

腹直筋皮弁法も、穿通枝皮弁法も、どちらの方法も下腹部に傷が残ることは同じです。

②背中の組織を移植する方法

背中の組織を移植する場合は、背中の皮膚、脂肪、筋肉に血管をつけたままで、
胸に移植して、乳房をつくる広背筋皮弁法(こうはいきんひべんほう)です。
背中の組織を切り取るので、背中に傷が残ります。背中の筋肉は、切り取っても、ほかの筋肉が補うので、日常生活への支障はほとんどありません。

この方法は乳房のボリュームが比較的小さい人、おなかの手術を受けた人、将来妊娠・出産を予定されている人に適した方法です。

けれども、この方法は移植した乳房の主体が筋肉であるため、しばらく使われなくなった筋肉が時間とともに萎縮して、再建した乳房が小さくなってしまうことがあります。

【人工乳房(インプラント)による乳房再建】

インプラントを使う乳房再建法は、はじめにティッシュ・エキスパンダーという皮膚を伸ばす袋を胸の筋肉の下に入れます。

その袋の中に、生理食塩水を徐々に入れていき、皮膚を伸ばして乳房の形にふくらませます。その後、ティッシュ・エキスパンダーをインプラントに入れ替えるという方法です。

乳がんの手術のときにできた傷で、乳房再建の手術を行うため、新たな傷ができません。インプラントは、シリコンでできています。その後の乳房の検査では、マンモグラフィでも行えますが、超音波も併せて行います。


しずく型の人工乳房
(シリコンインプラント)

ティッシュ・エキスパンダー

【自家組織と人工乳房の乳房再建方法の特徴】

ここで紹介した、自家組織の乳房再建法と、人工物(シリコンインプラント)の乳房再建法の特徴をまとめました。

自家組織を使う方法
乳房再建法 腹直筋皮弁法、
穿通枝皮弁法
広背筋皮弁法
手術のための入院 2週間程度
手術時間 腹直筋皮弁法:
4時間前後
穿通枝皮弁法:
6~8時間
4時間前後
手術の体への負担 大きい
傷あと 組織を取った
腹部に残る
組織を取った
背中に残る
通院での治療 数週に1度の診察のみ
仕上がり後の手ざわり 自然 自然(ただし脂肪が少ないので
ボリュームが
足りないことがある)
放射線療法後の適応 可能
費用 保険適用
メリット
  • しなやかで、より自然な乳房に近づける
  • 乳房自体が、あお向けになれば横に広がり、体重の増減で大きさも変化する
  • 手術をしていない反対側の乳房と同様に、加齢によって自然に下垂し、自分の組織と感じやすい
  • 感染のリスクが少なく、人工物のように、将来入れ替えの必要がない
デメリット
  • 自分の体のほかの部分の犠牲をともなう
  • 手術の方法にもよるが、入院期間がやや長くなる
  • 手術法によって、入院中に安静が必要になることも。その人の条件によっては、複数回の手術が必要になることもある

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シリコンインプラントを使う方法
乳房再建法 エキスパンダー+人工乳房
手術のための入院 最低数日
手術時間 エキスパンダーの挿入:30分~1時間
人工乳房への入れ替え:30分~1時間
手術の体への負担 小さい
傷あと 乳房切除術の傷のみ
通院での治療 エキスパンダーへの生理食塩水の注入のため
数週に1回の診察を約3~6か月間
仕上がり後の手ざわり 人工乳房なのでやや硬い感じ
放射線療法後の適応 症例による
費用 保険適用
メリット
  • 新たに体のほかの部分を傷つけることがなく、比較的、簡便に手術が行える。
デメリット
  • 基本的には、乳がん切除の手術に加えて、手術がもう1回必要になる
  • 限られた形のインプラントを使うので、形には限界がある。特に、下垂した乳房をつくることは難しくなり、左右差ができがち。左右差をなくして整えるために、健康なほうの乳房をつり上げる手術*などを組み合わせるという方法も。
  • インプラントの破損や老朽化にともなって、将来、入れ替えが必要になることがある。

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*健常側(健康なほうの乳房)乳房つり上げ法
乳がんではない健常側の乳房が下垂している患者さんの場合、再建した乳房に合わせて乳房をつり上げる手術を行います。健康保険は使えず、自費診療になります。

自家組織とインプラントの再建の両方を組み合わせる場合もあります。例えば、インプラントだけではきれいに再建できない場合や、逆に自家組織だけでは乳房のボリュームが足りない場合です。
上記以外に、脂肪注入の再建法も少しずつ進んできました。

【脂肪注入による方法】

乳房が中程度の大きさの方、もしくは条件が整った方の場合は、脂肪注入だけでふくらみをつくることも可能です。

さらに乳房全摘ではなく、乳房温存の人でも、乳房部分切除によって一部分に凹みがある場合も脂肪注入が可能なこともあります。

また、自家組織の再建と組み合わせて、部分的にボリュームが足りない場合などにも、対応できますが、いずれも、健康保険は使えず、自費診療になります。

乳がんのショックと乳がんの治療で、頭がいっぱいになるなかで、乳房再建の手術について整理して考えることはなかなか難しいという患者さんの声もあります。

「少しでも早く退院したい」「時間はかかってもきれいな乳房を取り戻したい」「将来、赤ちゃんが欲しいのでお腹は傷つけたくない」など、患者さん一人ひとりライフスタイルや価値観が異なります。

形成外科医としては、何よりも患者さんの話をしっかり聞いて、それぞれ一人ひとりに合った方法を提案していくことが役割だと思っています。最終的には患者さん本人が決めることですが、迷ったらどうぞ医師に相談してください。

Q3

増田

乳房再建手術を行うタイミングも、選択が可能です。
乳がんの手術と同時に行う場合と、乳がん手術のあと落ち着いてから行う場合など、いろいろなタイミングがあります。乳房再建手術を受ける時期は、どのような選択ができるのでしょうか?

A3

草野先生

乳房再建手術を行うタイミングには、一次再建、二次再建というものがあります。
また、別の意味として、1回の手術で終わる(一期再建)か、2回手術が必要(二期再建)という選択肢もあります

まずは、言葉の説明をします。

再建を行なう時期
一次再建最初の再建手術を乳がんの手術と
同時に行う
二次再建乳がんの手術後、しばらくしてから
最初の再建手術を行う
再建を行なう回数
一期再建1回の手術で終わる
二期再建手術が2回必要

これらの再建を行なう時期と回数を組み合わせて、患者さんによって、どの方法が適しているのかを考えます。

当院で行っている方法の多くは、一次再建による二期再建です。

これは、まず乳がんの手術と同時に、ティッシュ・エキスパンダーを挿入します。皮膚を十分に伸ばしてから、その後、6か月から1年おいて2回目の手術を行います。2回目の手術では、シリコンインプラントに入れ替える手術を行います。これを「一次二期再建」と言います。

また、「一次一期再建」とは、乳がんの手術と同時に、シリコンインプラントを入れて1回で手術を終わらせる方法です。この場合はティッシュ・エキスパンダーを使わないので、乳房のボリュームが小さい人に限られます。あまり一般的な方法ではありません。

また、「一次一期再建」で、自家組織による再建も、乳がん手術と同時に行うことも可能です。これも多く行われている方法ではありません。

「二次一期再建」は、乳がんの手術からしばらく経ってから、再建の手術を1回で終わらせる方法です。ティッシュ・エキスパンダーを使わずすぐにシリコンインプラントを入れる、または乳がんの手術とは別に、自家組織再建を行なう場合などです。

「二次二期再建」は、乳がんの手術からしばらく経ってから、ティッシュ・エキスパンダーを使った手術をして、その後6か月から1年おいてシリコンインプラントに入れ替える方法です。

患者さんの立場で考えると、1回の手術で乳がんの治療と再建が同時に行えるという点では、一次再建が望ましいと思います。

近年、再建に理解ある乳腺外科医が増えてきたことと、早期で発見されることが増えてきたので、乳がんの手術と同時に、ティッシュ・エキスパンダーを入れることが非常に増えてきました。

けれども、乳がん治療のことで頭がいっぱいで、乳房再建まで気持ちが回らないという患者さんもいます。

また、病院として一期再建をやっていない、乳がんの再発の不安があるなど乳がんの進行によって、二次再建のほうが望ましいこともあります。

さまざまなことを考えて、形成外科医、乳腺外科医と手術前によく話し合って、手術時期を選択することをおすすめします。

Q4

増田

乳房再建が保険適用になって、患者さんが乳房再建を行いやすくなりました。
保険適用になった乳房再建の実質の負担額は、それぞれいくらぐらいになりますか?
乳輪、乳頭の再建の費用についても教えてください

A4

草野先生

乳房再建は、保険診療で行えるものが増えてきましたが、自費診療として行われる場合もあります。施設によって異なりますので、医師に十分話を聞くことが大切です。

2006年に、乳房切除術後の自家組織による乳房再建は、一部保険適用が認められました。

そして、2013年には人工乳房(インプラント)による乳房再建に関しての保険適用が認められました。

また、再建した乳房への乳頭、乳輪を作る手術も保険診療の対象になっています。

保険は扱えませんが、人工物のシリコン性の乳輪や乳頭で、接着剤によって貼りつけるものもあります。複数のメーカーの製品があり、3万から10万円程度です。

けれども、それぞれの費用は手術の内容によって異なり、施設によっては自費診療として行っている場合もあります。

いずれの場合も、必ず手術前に形成外科医に相談して、入院日数や費用などについて十分確認しておくことが大切です。

【乳房再建、乳頭乳輪の再建手術の費用】
(保険3割負担の場合)
手術内容 費用(片側)
ティッシュ・エキスパンダー
挿入手術
15~20万円
インプラント(人工乳房)による
乳房再建術
17~22万円
自家組織(穿通枝皮弁)による
乳房再建術
40~45万円
自家組織(広背筋皮弁や腹直筋皮弁)
による乳房再建術
33~40万円
乳頭再建術+植皮による乳輪形成術 12~14万円

参考資料/一般社団法人日本乳房オンコプラスティックサージャリー学会(2015 年 5 月 某大学病院での調査)より
*費用は入院期間、麻酔法、手術内容によって違います。
*乳房再建では、高額療養費制度を適用できます(年齢や所得に応じて患者さんが支払う医療費の上限があります)。
*乳房再建に関連して行われる脂肪注入、乳輪や乳頭への刺青は、健康保険の適応がなく、自費診療として行われることが一般的です。

Q5

増田

乳がん手術をする人の
どのくらいが乳房を全て取る全摘手術を行って、さらに再建を行なう人はどのくらいの割合でしょうか?

A5

草野先生

乳房全摘した人がどのくらい再建を行なうかは、全国の施設によって差が大きいのが現状です。
昭和大学では乳房を再建する人は、乳房全摘した人の約半数です

これまでは、乳がんだけを取り除いて、できるだけ乳房を残す乳房温存療法が増えてきていました。

けれども、乳房再建の手術が保険適応になった2013年ころから、乳房を全て取る乳房全摘術の数は増えてきています。

これは、乳房再建ができるようになったことで、無理に乳房を残して変形してしまうよりは、きれいに再建したいと希望する人が徐々に増えてきたからではないかと思います。

当院では、乳がん手術をする方の約50%が乳房全摘手術を行い、そのうちの約半数が乳房再建手術を希望されています。この再建率は、全国でも高いほうだと思います。

私の印象では、全国平均は35%くらいではないかと思います。

けれども、これは全国の地域や施設によって、大きな開きがあります。地方によっては、乳房再建ができる施設が少ない現状もあります。

今後は、今以上に乳房再建手術ができる施設や形成外科医師が増えていくと思います。患者さんが希望すれば、受けられる環境に近づいていくのでは、と思っています。

Q6

増田

乳房再建という方法があることで、乳がん治療で乳房を失っても、取り戻すことができるという希望をもてることは、乳がんにかかったとき、女性にとってとても重要だと思います。ただ、一方で乳房再建は全員が行うべき治療ではありません。どのように考えて、選択したらよいのでしょうか?

A6

草野先生

乳房再建が自分自身に本当に必要な手術かを、
もしものときには冷静に考えることも大切です

もしも、乳がんになったときに、みなさんにお願いしたいのは、自分が「本当に再建したいのか」をもう一度しっかり考えてみてほしいと思っています。

事前に今回紹介したような、ある程度の知識をもっていれば、冷静に考えることができるのではないでしょうか。

インプラントによる乳房再建が保険適用になったことで、医師も再建をすすめやすくなりました。そして、患者さんたちも乳房再建のハードルが大きく下がりました。

それはとても良いことなのですが、「インプラントを入れれば、きれいな胸になる」という良い面だけをみて、乳房再建を選択することが最善なのかどうか、家族や友人、医療者とも相談して、じっくり考えてみることが大切だと思います。
健康保険が適用されるようにはなっても、再建手術は気軽なものではありません。費用も時間もかかり、体や生活面へのリスクもあります。

インプラントは、継続的なメンテナンスも必要で、入れ替え手術を将来することも考えておかなければなりません。

再建しないで、下着などでカバーするという選択肢もあることを知っておいていただけたらと思います。

取材を終えて

最後に草野先生が話されたように、乳房再建のメリット、デメリットをよく考えて、乳房再建を選択することが大切だと思います。乳房再建が保険適用になる前よりも私たち女性にとって、選択肢が格段に広がりました。乳房再建を選ぶこともできる、あえて選ばないこともできる、乳房再建の方法もいろいろあって自分に合った方法が選べる、このことが重要です。草野先生が紹介してくださった乳房再建の知識が頭の隅にあれば、もしものときに助けになると思います。

次回後編では、実際に乳房再建を考えている患者さんによく質問されることをQ&A方式で、草野太郎先生にお答えいただきます。

増田美加(女性医療ジャーナリスト)

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