記事一覧ページへ

読 む乳がん体験者・医師インタビューなど配信中。New 03/14UP

29
#医療従事者インタビュー

乳房の形成外科医 草野太郎先生に伺いました
「Q&A 乳房再建を考えている患者さんに、よく聞かれることとは?」

2019.02.21

乳房再建を考えている患者さんからよくある質問を、乳房再建を行う形成外科医の草野太郎先生に伺いました。乳がん治療を行ううえで、乳房再建を選択するかどうかを考えるとき、さまざまな不安や疑問があります。ホルモン療法や抗がん剤など、ほかの治療との兼ね合いや、将来、子どもを産む希望をもつ場合や年齢的な問題についての疑問にもお答えいただきました。

取材・執筆/増田美加(女性医療ジャーナリスト)
プロフィールはこちらから

草野 太郎先生

Tarou Kusano
昭和大学病院 形成外科医
【ご略歴】
2001年、帝京大学医学部卒業。同年昭和大学形成外科入局。その後各地で研鑽を積む。
2008年、千葉県救急医療センター 形成外科医長。
2013年、昭和大学形成外科 助教。
2017年 昭和大学江東豊洲病院 講師。現在に至る。
医学博士/一般形成外科・美容外科/日本形成外科学会専門医/日本手の外科学会専門医/小児形成外科専門医。

【昭和大学病院 ブレストセンター】
http://showa-breast.com/

後編  ~ Q&A 乳房再建

Q1

増田

ホルモン療法、抗がん剤治療中でも、乳房再建手術は受けられるのでしょうか?

A1

草野先生

ホルモン療法中でも乳房再建は可能です。抗がん剤治療を行う場合は、抗がん剤治療が終わって、白血球の数が正常範囲に落ち着いたところで、再建手術が可能になります。

乳がんは手術後に、乳がんの再発を予防するために、ホルモン療法、抗がん剤(化学療法)、分子標的治療(ハーセプチンなど)を行う場合があります。

がんの進行状況、がんの性格(ホルモン陽性かどうか、HER2 という因子をもっているかどうか)によって使うお薬が異なります。

●ホルモン療法

閉経前の場合は、ホルモン療法としてタモキシフェンを内服し、必要に応じて排卵を止める注射もします。閉経後の場合は、アロマターゼ阻害剤やタモキシフェンを内服します。

これらのホルモン療法は、乳房再建に影響を全く与えないわけではありません。

ホルモン剤で血栓ができやすくなるという報告があるため、また自家組織で行う穿通枝皮弁法の再建を選ぶ場合は、リスクは上がる可能性があります。

また、健常側(乳がんでないほう)の乳房は、ホルモン療法で小さくなる可能性があります。

●抗がん剤(化学療法)

抗がん剤治療は、いろいろな種類があり、術後の再発の予防のためには 3ヶ月~6ヶ月、治療を行います。

抗がん剤の副作用として、白血球減少、吐き気や脱毛、しびれ感、口内炎、倦怠感、爪や肌のトラブルなど、さまざまな症状が起こる場合があります。

乳房再建手術は、緊急を要する手術ではありません。むしろ、乳房再建によって、感染を起こさないことが重要です。

抗がん剤が終了して、体調の良い時期に受けるほうがよいのではないでしょうか。副作用で白血球が減少しやすく、感染症のリスクが高まりますので、治療を優先することをおすすめします。ほかの副作用も精神的に負担になることが多いので、主治医と相談して、無理のない予定を組んでください。

また、すでにティッシュ・エキスパンダーが挿入されている患者さんの場合、抗がん剤中は、基本的にしばらく注水を中止して、抗がん剤治療終了後に行います。終了後に十分に乳房組織を拡張して、インプラントへ入れ替えをすれば、問題ありません。

●分子標的治療(ハーセプチンなど)

抗がん剤と併用して分子標的治療を行う場合は、抗がん剤の場合と同様です。

分子標的治療を単独で行う場合は、再建手術には影響しません。ただし、ハーセプチンは、心機能を低下させる危険もあります。手術では、必要に応じて心電図や心エコーなどで確認することも必要です。

いずれにしても、乳腺外科医、薬物療法の担当医、形成外科医と相談をして、再建時期、方法を決めていくことが大切です。

Q2

増田

患者さんからとても多い質問です。
放射線治療をしたあとでも、乳房再建はできますか?

A2

草野先生

放射線治療後、インプラントの再建はおすすめできません。
自家組織の再建方法のほうが向いていると思いますが、傷の治りが悪いこともあります。

乳房全摘手術を受けた人でも、わきの下のリンパ節転移が多数ある場合は、胸壁に放射線照射をすることがあります。

放射線治療は、皮膚にダメージを与え、皮膚が弱くなったり、伸びにくくなったりします。そのために、放射線治療を受けたあとに、インプラント(人工乳房)を使っての再建は、うまくいかないことがあります。

そのため、放射線療法後のインプラントによる再建はおすすめできません。

自家組織を使った再建のほうが血流がよいため、放射線治療後に再建する場合には向いています。

また、当院で使っているティッシュ・エキスパンダーは、金属のパーツが含まれているため、基本的には放射線照射ができません。

放射線照射後に再建を望まれる場合は、1年くらい期間をあけて、乳房再建手術を行うほうが、感染のリスクが少なくなります。

けれども、放射線照射をしていない人と比較すると、感染症の危険性が高くなってしまいます。

ですから放射線治療を受ける人で、再建を希望する人は、治療開始前に主治医と十分に相談することをおすすめします。

Q3

増田

乳房再建手術を受けるときに知っておくべき、
合併症にはどのようなものがありますか?

A3

草野先生

感染症が問題になることが多いです。
ほかにはインプラントのズレや破損などです

乳房再建手術の合併症は、感染症が問題になることがあります。その状況によっては、挿入したインプラント(人工乳房)を取り出す必要があります。

また、インプラントの位置がずれたり、破損したりすることもあります。

けれども、現在はかなり確立された安全な治療法です。多くの患者さんがシリコンインプラントによる再建を行っています。

乳房再建後(特にシリコンインプラントによる再建)のおもな合併症を紹介します(日本乳房オンコプラスティックサージャリー学会2017年度)。

乳房再建のティッシュ・エキスパンダー挿入術後の合併症は、約10%の650件。そのうち取り除き、入れ替えを要した症例は124件です。

合併症の内容は、感染、 皮膚壊死・傷が開く、 出血・血腫・体液貯留、その他でした。

インプラント(人工乳房)の挿入後の合併症は、3.6%で232件。そのうち取り除き、入れ替えを要した症例は43件。

インプラントによる合併症の内容は、感染、術後の出血・血腫、皮膚壊死・傷が開く、インプラントの位置異常や回転、その他でした。

このように、乳房再建手術では、合併症も起こる可能性があるため、メリット・デメリットをよく理解したうえで、再建を受けるかどうか決めることが大切です。

Q4

増田

乳房再建手術を受けることが、乳がんの再発に何らかの悪影響を与えるということはありますか?

A4

草野先生

再発に影響する可能性はないと考えられています

乳房再建手術を受けることが、乳がんの再発のリスクを上げるというエビデンス(科学的証拠)はありません。

また、乳房再建手術を受けたことで、乳がんが再発したときに見つけにくくなるということもありません。

万が一、乳房内に再発(局所再発)があっても、超音波やCT検査で発見することができます。

インプラントを入れたことが乳がん発見の妨げになるということもありません。再発はインプラントよりも体の表面に近い場所に起こるので、その場合も容易に発見することができます。

乳房全摘手術を行うときに、乳がんがしっかり切除されていないと、再発のリスクが高まりますが、乳房再建手術との間には直接的な関係はありません。

Q5

増田

乳がん治療中に再発や転移がわかった場合、乳房再建手術を受けることはできますか?

A5

草野先生

免疫力を下げないようにして、再発や転移の治療を優先しましょう

乳房再建手術のときに、全身麻酔をかけると、どうしてもある程度、免疫力が低下します。万一、術後に合併症が起きたら、乳がん治療にも影響が及びます。

抗がん剤治療中は、免疫力を下げないほうがよいので、再発や転移がわかったら、再建を先送りにして、治療を優先したほうがよいと思います。

それでも、どうしても再建を希望する場合は、必ず乳腺外科医と形成外科医が緊密な連携を取れる体制の整った医療施設で、医師とよく相談したうえで再建手術を受けるようにしてください。

Q6

増田

乳房再建手術を受けるリミットはありますか?
昔、手術をした女性が年齢を経て再建にチャレンジしたいという人もいます。

A6

草野先生

70代でも乳房再建できる可能性は大いにあります

乳房再建手術を受ける患者さんの平均年齢は40代~50代です。65歳以上で乳房再建手術を受ける人もいらっしゃいます。

また、若いころに乳がんを経験された患者さんで、大胸筋から脇の下のリンパ節まで広範囲に患部を切除する手術(ハルステッド法)を受けた人がいます。年齢を経て、乳房を再建したいという希望を持たれる方もいます。

その場合は、手術による皮膚や筋肉の欠損が大きく、インプラントによる再建が難しいため、自家組織による再建が適していると言われています。

Q7

増田

34歳以下の若年性乳がんが増えています。
乳房を全摘する治療を受け、できれば将来、
子どもを産みたいと考えている女性も少なくありません。乳房再建手術を受ける場合どのような点に注意すればよいでしょうか?

A7

草野先生

もちろん乳房再建は可能です。乳房再建手術が将来の妊娠、出産のさまたげになることはありません

妊娠、出産を前提としている患者さんも、もちろん乳房再建を行えます。乳房再建手術が妊娠、出産のさまたげになると、考える必要はありません。

妊娠、出産を希望される場合、そちらを優先されても良いと思います。ホルモン剤をやめないと生理がこないので、妊娠ご希望の場合は、乳腺外科の先生とよく相談をする必要があると思います。

治療がない方に関しては、妊娠中はもちろんできませんが、妊娠していない時期に関しては基本的には再建が可能です。

●自家組織による乳房再建

背中の組織を使う(広背筋皮弁)再建は、おなかの組織を用いないので、妊娠、出産に影響することはありません。

けれども、おなかの組織を使う(腹直筋皮弁、穿通枝皮弁)の場合は、おなかに傷ができるので、妊娠、出産を希望している人には行いません。

 

●インプラント(人工乳房)による乳房再建

インプラントは、大胸筋の下に挿入しますから、妊娠、出産にインプラントが影響することはありません。

しかし、年齢が若いほど、長くインプラントを入れることになるので、将来、インプラントの入れ替え手術をする可能性が高まります。

乳がんの治療で抗がん剤、ホルモン療法、放射線療法などをどのくらい行うのかは、個人によって異なります。

どの時期に再建を行うのがベストかは、乳腺外科の主治医とよく相談してください。その後、乳腺外科の医師と再建を行う形成外科医が相談して、あなたに適した手術の時期を提案してくれると思います。

Q8

増田

最後に、これから乳房再建を考えている患者さんに向けて、草野先生からアドバイスをお願いします。

A8

草野先生

再建の方法は選択肢がいろいろあります。ぜひ担当医と相談して一緒に最善の方法を考え選択してください

「長く入院したくない。少しでも早く退院できる方法で」「時間はかかってもよいので、できるだけきれいな乳房にしてほしい」などなど。患者さんは一人ひとり価値観やライフスタイルが異なります。乳房再建手術に期待するものも千差万別です。

形成外科医として心がけているのは、患者さんの気持ちや要望をしっかり聞くことです。

そのうえで、それぞれに合った方法を適切に提案し、説明していくことが、医師の役割だと思っています。

できれば、事前に知識をもって、来ていただけるに越したことはありませんが、乳がん告知を受けて、精神的にも混乱している状態で、再建のことまで学んできてというのは難しいことです。

今、情報が溢れていますが、根拠のない間違った情報に踊らされず、正しい情報を見極めることは、大切だと思います。

乳房再建の手術方法は、選択肢がいろいろあり、できるだけベストな時期や方法を組み立てることもできます。担当医とじっくり相談して、最善の方法を一緒に考えていっていただけたらと思います。

取材を終えて

 草野先生は、患者さんの話をよく聞いて、できるだけ希望にそった乳房再建手術を目ざしている医師です。乳房再建の形成外科医とも上手にコミュニケーションをとっていくことが、自分の望む治療ができるコツだと思います。地域の差もありますが、治療の選択肢は増えてきています。選択に迷ったら、率直に相談していいと思います。また、乳腺外科医や看護師さんにも相談にのってもらうなど、いろいろな立場の医療者の話を聞くことも大切です。正しい情報がとれるサイトなども医師に聞いてみてもいいと思います。草野先生も話されているように、最善の方法を医師と一緒に決めて行けたら、きっと満足できる乳房再建になると思います。

増田美加(女性医療ジャーナリスト)

■乳房を手術された方への下着の紹介はこちらから
リマンマ https://www.wacoal.jp/remamma/

前編はこちら