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#医療従事者インタビュー

石木先生に伺いました。
乳がんとわかったときから利用できる新しい「緩和ケア」(かんわケア)とは?

2020.1.9

「緩和ケア」という医療を聞いたことがありますか? 知っている人でも、「緩和ケアは、進行がんの人や末期がんの人のためのもの」と思っている方が多いのではないでしょうか? ところが今、「緩和ケア」の内容は、以前と大きく変わっています。今は、進行がんだけでなく、がんの告知(診断)を受けたそのときから、体や心の苦痛を和らげてくれるアプローチとなっています。その現状をお聞きしました。

取材・執筆/増田美加(女性医療ジャーナリスト)
プロフィールはこちらから

いしき ひろと

石木 寛人先生

国立がん研究センター中央病院 緩和医療科医員

2003年東京大学医学部医学科卒業語、東京大学医学部附属病院 耳鼻咽喉科研修医。静岡県立静岡がんセンター頭頸科、国立がん研究センター中央病院 頭頸科がん、国立がん研究センター東病院 頭頸部内科、先端医療科医員、東京大学医科学研究所附属病院 緩和医療科特任助教を経て、2017年より、国立がん研究センター中央病院 緩和医療科医員。
緩和ケア研修会指導者研修会修了。日本耳鼻咽喉科学会認定専門医。がん治療認定医機構がん治療認定医(指導責任者)。Certification in Medical Oncology, European Society for Medical Oncology

緩和ケアとは、どのようなもので、
どんな目的がありますか?

緩和ケアとは、重い病を抱える患者さんやその家族の体や心のさまざまなつらさや痛みを和らげて、より豊かな人生を送ることができるように支えていくケア*1のことです。

緩和ケアを進行がんや末期がんの方に対するケアと誤解して、「緩和ケアは治療がなくなった人が受けるもの」と思っている人も少なくありません。
けれども今、緩和ケアは、以前とずいぶん変わってきています。

がんが進行してからだけでなく、がんと告知(診断)されたときから、ご本人やご家族の必要に応じて行われる医療になっています。

従来のがん医療の考え方では、"がんを治す"ことだけに注力していました。医療機関では、患者さんのさまざまな心や体の苦痛や不安、生活の質に十分な対応ができていなかったと思います。

しかし、最近は、患者さんやそのご家族がどのように治療中や治療後、生活していくのかという療養生活の質も、"がんを治すことと同じように大切"と考えられるようになってきています。

*1 特定非営利活動法人日本緩和医療学会による『市民に向けた緩和ケアの説明文』

緩和ケアは、いつごろから受けられるのでしょうか?

さきほどお話したように、緩和ケアをがんの進行した患者さんに対するケアと誤解し、「まだ緩和ケアを受ける時期ではない」と思い込んでしまう方は少なくありません。

確かに、これまでの緩和ケア(A)の考え方は、がん治療後に行うためのものでした。
しかし現在、緩和ケア(B)の考え方は、がんが進行してからだけではなく、がんと告知(診断)されたときから、必要に応じて行わるものになっています。

自分らしい生活ができるように、緩和ケアでは医療面に限らず、幅広い対応がなされています。

がんの治療と緩和ケアの関係

(A:これまでの考え方  B:新しい考え方)

たとえば、どのような症状や問題を相談できますか?

がんの治療中は、治療の副作用により、痛みや吐き気、食欲低下、息苦しさ、だるさなどの体の不調が起こることもあります。
これらの症状を軽くするための対応もします。西洋薬の他に漢方薬も処方しますし、鍼灸治療、カウンセリング、心理療法、場合によっては神経ブロックなどの処置を行うこともあります。

また、がんと診断されたことで、気分の落ち込みや絶望感、落ち着かなかったり、眠れないなどの心の問題が日常生活を妨げることもあります。
これらの相談にのり、軽減できるようなケアをし、患者さんが自分らしい生活を送ることができるような手助けもします。

これらの問題は、程度の差はあれ、がんの早い時期にも、進んだ時期にも見られる症状で、多くの患者さんが経験します。
「がんの治療のことではないから...」とひとりで抱え込んだり、「がんが治るわけではないから...」と症状緩和に消極的な人もいらっしゃいます。

しかし、現在の緩和ケアは、医療面のサポートだけでなく、身体的・精神的・社会的・スピリチュアルな(人生観、死生観への悩みなど)苦痛についても、つらさを和らげる治療やケアを積極的に行います。

たとえば、いくつかの例を紹介します。

がんと診断、告知された直後は不安や落ち込み、混乱...などの心の揺れ動きは、多くの人が経験します。「告知されたあとの医師の説明をほとんど覚えていなかった...」という方も少なくありません。

告知直後は、多くの不安が一気に押し寄せます。患者さんには、家庭があり、お子さんもいて、仕事をしている女性も少なくありません。

すると例えば、「入院中は仕事を休むとしても、退院後、通院しながらの抗がん剤治療中も仕事を休むことになりますか? そんなに長く仕事を休めない...。治療費も生活費も心配になります。仕事はやめなければならないのでしょうか? それに子どもがまだ小さいので、子どものことも気になります。両親は離れて住んでいるので、協力も得にくいし...。夫も仕事で精一杯。いったいどうしたらいいのか?」と"さまざまな問題"が一気に押し寄せ、途方に暮れる方も少なくありません。

このように、今後の治療の不安に加えて、治療費、仕事の継続、子育て、日常生活の維持など、さまざまな思いが錯綜することもあります。

肝心な治療の方針を冷静に判断できない心理状態だと、今後の治療にも差し支えます。そんなとき、緩和ケア外来に相談してください。
緩和ケアチームの心のケアの専門家が主治医、看護師と協力してサポートします。また、仕事の問題、経済的な問題もソーシャルワーカーや場合によっては、ファイナンシャルプランナーの相談へつなげることもできます。さまざまな職種の専門家がサポートするよう努力します。

また、がん治療中、体の痛みがつらいときなど、主治医から緩和ケア外来を紹介されて、受診されるケースがよくあります。
痛みは治療中の患者さんの半数以上、進行がんの患者さんの3分の2の人が経験するという統計があります。私たち緩和ケアチームが対応する症状として、最も多い身体的症状です。
緩和ケア外来では、痛みの原因を診察や検査結果を通じて評価し、痛みに対する治療の提案をします。鎮痛剤を用いることが多いですが、痛みの緩和のための放射線治療、鍼灸治療、神経ブロック注射などを提案することもあります。

緩和ケアを適切な時期から取り入れていくことで、生活の質をよりよいものにします。がんと告知(診断)されたときから、いつでも緩和ケア外来を訪ねてご相談ください。

緩和ケアはどこで受けられますか?

緩和ケアは、全国のがん診療連携拠点病院で受けられます。

がん治療中、入院中、外来通院、在宅療養などを問わずに受けられるようになってきています。

おもに、緩和ケア病棟への入院と緩和ケアチームによる外来の診療、在宅での緩和ケアもあります。

全国のがん診療連携拠点病院には、対応できる機能があり、がん相談支援センターでも緩和ケアについて聞くことができます。

● 全国のがん診療連携拠点病院はこちらから

● 全国の緩和ケア病棟のある病院はこちらから

緩和ケアの費用はどれくらいですか?

緩和ケアは、保険診療で受けられます。たとえば、入院中の一般病棟での場合、緩和ケア病棟に入院する場合、通院や在宅で受ける場合の例をあくまで概算ですが、参考までにご紹介します。

①  治療中の病院に入院して緩和ケアを受ける場合【入院・一般病棟】

一般病棟でがんの治療を続けながら、同時に緩和ケアを受ける場合です。厚生労働省から認可を受けた院内の緩和ケアチームが、これまで治療を行っていた主治医とともに治療にあたります。

その場合、緩和ケアチームの診療・援助には、「緩和ケア診療加算」が加算され、この加算を含めた医療費には医療保険が適用されます。「緩和ケア診療加算」は、緩和ケアチームによる診療・援助が開始された時点から中止もしくは退院まで、1日3,900円が加算されます。3割負担の方なら、1,170円/日です。

② 緩和ケア病棟に入院して緩和ケアを受ける場合【入院・緩和ケア病棟】

厚生労働省から「緩和ケア病棟」として承認を受けた病棟に入院して緩和ケアを受ける場合です。医療費は定額制です(治療内容に関わらず1日の医療費が一定額に決められている)。

入院30日以内の場合、医療費は1日約50,000円ですが、医療保険が適用されます。

③ 自宅で生活しながら緩和ケアを受ける場合【通院・訪問診療】

自宅で生活をしながら、治療を受けている病院や緩和ケア外来を受診したり、自宅に訪問診療や訪問看護に来てもらって、緩和ケアを受けることができます。

医師や看護師が訪問して行うケアには、医療保険が適用されますが、衛生材料費や交通費など保険適用外の費用が必要となることがあります。1回/日・週3回訪問3割負担の方は40,000円程度です。

あくまで概算ですので、詳しくは、利用される訪問看護ステーションに尋ねてください。

①~③の医療費(医療保険適用の費用)は、高額療養費制度の対象となりますので、一定額を超えた費用は返金されます。

●緩和ケアの費用などに関する情報はこちらから
緩和ケア.net

(2019年11月現在)

石木寛人先生からのメッセージ

「緩和ケアに対して、終末期ケアやモルヒネのイメージを持っている方も少なくないと思います。しかし、現在の緩和ケアのことを正しく知ってもらえれば、きっと多くの方に役立つ情報になります。緩和ケアはがんだけでなく、命を脅かす疾患によって、さまざまなつらさを抱えていらっしゃる患者さんやそのご家族のケアを行います。もしも必要なときがあったら、この情報を思い出して、つらさを和らげ、治療を楽にして、自分らしい生活を送るために、ぜひ、緩和ケアをご利用ください。
私たちは、患者さんが希望をもって生活していくために、何ができるのかを一緒に考えることを大事にしています。体のつらさはもちろんですが、それだけでなく、心のつらさや社会的なつらさも含めて、困ったことはなんでもご相談ください」