「乳がん検診」と「正しい知識」こそ
乳房と命を守ります。
2016.10.17

2006年に乳がんの告知を受けた、女性医療ジャーナリストの増田美加さん。自分の「乳房」と「命」を守れたのは、乳がん検診のおかげだという。医療現場を取材し、乳がんを克服した立場から、「乳がんに対する正しい知識と検診の重要性」について話を伺った。
2006年5月、乳がんが見つかりました。その時の状況やお気持ちを聞かせください。
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ちょうど10年前の5月に乳がんの告知を受け、「まさか、私が!」と驚きました。何の根拠もないですが、がん家系でもないし、「自分は乳がんにならない」と思っていたのです。
病気になる前から医療ジャーナリストとして、乳がんの治療現場を取材し、乳がん患者の方にもインタビューしていました。実際に手術で乳房を切除された女性の方にお話を伺い、多くの女性にぜひ早期発見の大切さを伝えなければと、「乳がんは早期発見で助かる病気なので怖がることはありません。検診を受けましょう」と原稿にも書いていた。私自身も40歳から年1回、検診を受けていたんです。でも実際がん告知を受けたときは、「まさか自分が患者の立場になるなんて...」とショックを受けました。
発見時の乳がんの状態は?
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毎年検診を受けていたことから、幸いなことに"超"早期でした。マンモグラフィと超音波を受け、マンモグラフィに5粒の白い点が映し出されました。「石灰化」と言われる段階で見つかったのですが、良性の場合もあるので精密検査を行い、その結果、がんだと判明しました。
しこりはなかったのでしょうか?
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しこりや痛み、体調不良もありませんでした。ですから早期で発見するには、マンモグラフィや超音波の画像検査が大事になるんですね。
石灰化を放置すると、いずれ、しこりになる可能性があります。多くの場合、自分でさわって分かるしこりの大きさは、直径2cm以上です。それはもう早期でない可能性の方が高く、さわって分かる前に検診で見つけることが早期発見に繋がります。
「正しい知識」を持てば、納得できる
治療を選択できる
乳がんを発見されてから、何をされましたか。
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それまでの取材活動で、ある程度の乳がんの知識はありましたが、あらためて勉強し直したいと思いました。「正しい知識」を持つことが、目に見えない不安から脱却し、メンタルを落ち着かせ、自分にとって正しい選択ができる"武器"になると考えたからです。
乳がん1つとっても、治療方法はさまざまです。医師によって異なる治療を提案された時、最終的に選択するのは患者本人。そのためにも、患者が「正しい知識」を持つことは大事になります。
「正しい知識」と言っても、あらゆる情報が錯綜する中で何が正しいのか、その基準が分からないですよね。
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そうなんです。今は日本乳癌学会が監修する「患者さんのための乳がん診療ガイドライン」という冊子があり、6月に2016年版が発行されました。治療方法や治療による副作用はもちろん、手術後の乳房再建について、髪が抜けた後について、肌が黒ずんで荒れてしまった時にどうするかなど、乳がんに関する情報が充実しています。インターネットには乳がんに関する間違った情報も掲載されています。変な情報に惑わされないためにも、患者がまず参考にすべきは、このガイドラインであり、乳がんについて調べたいと思ったら、ぜひ読んでいただきたいです。読んだ上で疑問に思ったことは、遠慮なく医師に聞きましょう。「ガイドラインではこのように書かれているけど、あなたの場合はこうだから、こういう治療法もありますよ」といった建設的なアドバイスにつながります。
私が乳がんになった時は、そんな便利なガイドラインがなかったので、「標準治療とは何か」について調べ直すことにしました。
標準治療とは?
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科学的根拠に基づいた観点で、現在使用できる最良の治療であることが証明されている治療です。すなわち、それが最もエビデンス(科学的根拠)の高い治療と言えます。医学は日々進歩していますから、最新・最先端治療と聞くと、そこに飛びつきたい気持ちになります。でもそれは、これからエビデンス(科学的根拠)を積み重ねていく過程での治療であり、その結果次第で、新たな標準治療へと昇格するわけです。私は当時の標準治療を知った上で、セカンドオピニオンを含めて病院を3カ所ほど周り、各医師から提案される治療方法を聞きました。それぞれ違う治療法を提案され、自分が納得できるものを選びました。

家族や友人らのサポートが不安を軽減させる
複数の病院に行かれた理由は?
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乳がんのステージ(進行度合い)によっては長期間の治療を行い、再発の可能性から、5年、10年という長いスパンで治療を受け続ける可能性があります。そうなると、相談しやすいなど、医師との相性は大切になりますし、通いやすさも大事になるでしょう。何よりも、医師から提案される治療に納得できないと前に進めません。口コミだけで病院を決めず、実際に足を運んで自分で確かめることも大切だと思います。セカンドオピニオンとして聞くことも、納得度や安心感につながります。
私の場合は早期発見により、ホルモン剤も抗がん剤も使用することなく、たった3泊の入院で治療が終了しました。悪性の部分を切っただけで、手術から1年後には乳房の傷はなくなりました。
病院には1人で行かれたのでしょうか。
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検査結果や治療法を聞くような、医師との重要な面談の時は、必ず夫についてきてもらいました。
がんを告知された時、「医師の話しを覚えていない」「何を言われたか理解できなかった」という患者さんは少なくありません。早期で発見できれば90%以上治ると言われますが、それでもまだ「がん=死」というイメージは拭いきれず、冷静になれなくなるんです。医療現場に携わる私ですら不安になり、「食生活が悪かったのではないか」「仕事や人間関係でストレスが溜まっていたのではないか」「仕事は続けられるのか...」「私が何か悪いことをしたのではないか」とまで、ネガティブに考える時間を過ごしました。そんな時に自分を助けてくれるのは、先ほどもお話した「正しい知識」と「家族や友人からのサポート」です。
医師から診断結果や治療法を聞く場に、家族がいて共有できれば、第三者の視点から意見をもらえます。私自身も家に帰ってから、「先生のお話について私はこう思った」と言うと、夫は「いや、僕はこういう意味だと捉えたよ」といったコミュニケーションを取ることができました。"病気について話せる理解者がいる"ことは、安心につながりました。
乳がんになって、日々の生活は変わりましたか。
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食生活に原因があって乳がんになったわけではないですが、やはり健康でいたいので、なるべく食品添加物や化学調味料が使われたものは摂取せず、家ではバランスの良い食事を心がけました。ストイックになりすぎるとストレスになるので、友人らとの外食では好きなものをたくさん食べています。
また、乳がんになるまでは、原稿の〆切に追われるなどの多忙を理由に、運動を全くしていなかったんです。でも病気を経験してからは、ウォーキングや、呼吸法で心を落ち着かせるためにヨガを始めました。運動を始めたら思いのほか、段々楽しくなってきて、インナーマッスルを鍛えるためにピラティスを習い、さらにはランニングも始めました。今ではホノルルマラソンを完走するまでになってしまいました(笑)。今も週5日は運動しています。

誰もが乳がんになる可能性がある
乳がんを克服されたことで、意識の変化から、今は健康的で充実した生活を実現されています。そのためにも、早期で発見することが大事であり、「自分は乳がんにならない」という漠然とした思い込みを取っ払うことも必要かと思いました。私たちが乳がんになるリスクについて教えて頂けますか。
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日本では年間約1万3000人の方が乳がんで亡くなり*1、1年で約7万人*2の方が新たに乳がんにかかっています。11人に1人*2が乳がんになると言われ、20年前に比べると日本の乳がん罹患率は急増しています。
乳がんになる人は、35歳から増え、40~50代がピークになります。「出産経験がない」あるいは「初産が30歳以上」「閉経年齢が55歳以降」の患者が多く、この点から乳がんは女性ホルモンと関係していると言えます。
先ほど11人に1人が乳がんになると言いましたが、これは全ての年齢においての統計なので、40代、50代の割合はもっと多くなります。ハリウッド女優のアンジェリーナ・ジョリーさんが遺伝性乳がん・卵巣がん症候群(HBOC)だと発表されたことは記憶に新しいですが、こうしたケースは稀で、90~95%の乳がんは遺伝性ではありません。ですから、誰もが乳がんになる可能性はあるんです。
でも、怖がることはありません。繰り返しますが、乳がんは検診を定期的に受けていれば早期に発見できます。ただし、乳がんにかかった近親者がいる場合を除き、40歳未満は乳がん検診を受ける必要はありません。年代によって適した検診は異なるのです。
乳がんを克服した経験から始めた増田さんのライフワークや、「乳がん検診」について知っておいた方がいい知識について、次回後編でご紹介します。(10月末公開予定)


増田 美加さん
女性の健康と医療の執筆、講演を行う。2006年、乳がんの乳房温存手術を行う。NPO法人女性医療ネットワーク理事「マンマチアー委員会(乳房の健康を守る会)」を主宰。NPO法人乳がん画像診断ネットワーク副理事長。NPO法人みんなの漢方○R理事長。CNJ認定乳がん体験者コーディネーター。著書に『患者力』(講談社)、『乳がんの早期発見と治療』(小学館)ほか多数。公式サイト