治療を継続しながら前向きに生きるにはアピアランス(外見)ケアが大切です!
2017.06.08

治療を続けながら前向きに生きるために、治療による外見の副作用をカバーしたい。社会から孤立せず仕事を続けるためにも、治療以外の時間は普通の女性でいたい。山崎多賀子さんは、そんな自らの体験をもとに、全国のがん患者さんにアピアランス(外見)ケアを行っています。後編では、治療中も元気に見えるメイクの技を伺いました。



やまざきたかこ/美容ジャーナリスト。永年に渡って美容と健康に関する取材、執筆を続ける。2005年に乳がんが発覚し、右乳房全摘出、化学療法、ホルモン療法などを行い2012年治療終了。NPO法人CNJ 認定乳がん体験者コーディネーター。NPO法人キャンサーリボンズ理事。NPO法人女性医療ネットワーク マンマチアー委員会を毎月銀座で開催。WEB『がんサポート』で「いきいきキレイ塾」連載。WEB『もっと知ってほしいがんと生活のこと』で「治療中でも元気に見えるメイクのコツ」http://www.cancernet.jp/seikatsu/appearance/を動画配信中。
闘病中も美しくいることの大切さを伝えたい
山崎さんはご自身の乳がんの治療経験をもとに、全国のがん治療施設や患者会で、元気に見えるメイクセミナーを行い、アピアランス(外見)の悩みに向き合う重要性を訴え、多くの患者さんの共感を得ています。治療後、患者さんを支える活動をしたのは、いつごろからで、どういった経緯からですか?
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2006年3月から抗がん剤、分子標的薬の治療を含めて約1年間行いました。女性誌で乳がん体験の連載を写真入りで始めたのも、そのころからです。
一度抜けてしまった髪の毛も半年後には生え始め、まだ髪が2センチくらいしか生えていないときに、初めて人前で乳がん体験の講演をしました。私は、がんを隠して生きるのはイヤでした。もちろん、仕事や家の関係で、がんを隠さないといけない人はたくさんいます。単純に知られたくないという人もいる。言う言わないは個人の自由なのでどちらでもいいんです。
ただ、私は、人前に出ることも多い仕事。がんを体験した私が元気な姿を見せることで、勇気をもってくださる人がひとりでもいれば...。がんという病気に偏見をもつのでなく、正しいがんの知識を知ってもらうことに役立てば...。そんな思いからでした。
ちょうど2008年にNPO法人キャンサーリボンズ理事に就任し、患者さんにウィッグを贈る「キレイの力プロジェクト」担当になりました。乳がんの正しい知識を学び直すために、NPO法人CNJ乳がん体験者コーディネーターの認定を取得して、そのころからです、本格的に患者さん向けメイクセミナーや乳がん啓発のための講演を始めたのは。
乳がん治療の副作用の外見ケアというと、脱毛に対するウィッグが真っ先に浮かびますが、それだけでなく、治療中の外見の変化と心の問題に着目して、"元気に見えるメイク"の必要性を伝えたセミナーは、患者さんをとても励ましたと思います。
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抗がん剤で髪が抜けると、個人差はありますが眉もまつ毛も抜けます。顔色も黒っぽくなって、爪も黒ずみます。特に、眉とまつ毛がなくなったときは、「人相が変わってしまったなぁ」と、ショックでした。

私は「ウィッグだけでは普通に戻れないと治療経験から実感し、これまで知っていたメイク理論をもとに、元気に見えるメイクに少し修正していきました。眉毛を描いて、目の周りのくすみを取るだけで、顔の印象は大きく変わります。

見た目が大きく変化するのがイヤで、治療をしたくないという方や、うつのようになってしまう方もいます。
そんな方々に「私の経験が役に立つかな?」と、がん患者さんが闘病中も美しくいることの大切さを伝えていければと思いました。
アピアランス(外見)ケアは
副作用のない治療です!
山崎さんのメイクセミナーで、メイクを教えてあげて、印象に残った患者さんはいらっしゃいますか?
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「抗がん剤治療を行いながら仕事も続けたいので、なんとか会社にがん治療中とわからないようにしたい...」とメイクセミナーに足を運んでくれた女性がいました。半年後、再びセミナー会場に顔を出し、「同僚にも知られることなく、働き続けられた」とわざわざお礼を言いに来てくれました。「これから就職の面接をするから、治療中とわからないようにしたい」という方もいらっしゃいました。
また、フライトアテンダントの女性は、抗がん剤治療後の外見の変化のために、復職を迷っていました。メイクセミナーに来てくださって、自分に合うメイクのコツを覚えて帰って、翌月復職して、アメリカに旅立ったそうです。
ほかにも「親に心配をかけるから、病気のことを話していない」という一人暮らしの方は結構多いです。仕事を続けないと、治療は継続できません。「生活を守るために元気に見えるメイクを習いたい」とおっしゃってくださいます。
それから、病院で、一度も笑ったことがない患者さんが、メイクセミナーで満面の笑顔になったのを見て、担当の看護師さんが涙ぐんでしまう...というエピソードは何度も経験しました。
メイクはがん患者さんにとって、自分を守る武器なのですね?
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人の第一印象の9割は、見た目で判断すると言われています。眉やまつ毛がないと、笑っていてもあまり笑っているように見えません。だから、相手も笑いかけにくいのです。元気に見えると人は話しかけやすく、コミュニケーションもとりやすい。ウイッグやメイクは、治療中、社会の目から守る鎧であり、コミュニケーションツールになるのです。
また、家族や周囲もメイクで元気に見える患者さんを見ると安心します。子どもはお母さんがキレイだと喜びます。夫のなかには「家でもウイッグをはずさないで...」という人もいるそうです。
メイクはセンスより、理論なので、知れば誰にでもできます。一生使える理論なので、治療が終わって、髪や眉がもとに戻ったら、もっともっとキレイになれます。
つい先日、抗がん剤を扱う医師が「元気に見えるメイクは、副作用のない治療」だと言ってくれました。

元気に見せるメイクのポイントは
6つあります!
元気に見えるメイクの技を教えてくださいますか?
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はい! ポイントは6つあります。
①メイク前にたっぷり保湿すること。
肌の色つやは水分だけではなく、油分が大事です。保湿は、夜よりも朝のメイク前にクリームなどでしっかり油分補給をしておくことが重要です。
②肌全体や目の周りのくすみは、色つき下地で補正する。
コントロールカラーを厚づきにならないように、顔全体につけます。目の周りのクマや目尻の下のくすみにもコントロールカラーまたは、コンシーラーで対応します。抗がん剤治療で起こる肌の赤黒さを消すと元気に見えます。
③特に重要なのは眉頭。眉頭を描くことが大事。
眉頭がないと無表情に見えます。眉は表情筋とリンクしているので、眉がないと相手が表情を読み取りにくくなるので、コミュニケーションにも影響しますね。
④まつ毛の脱毛中、黒のアイラインで目元の印象を復活させる。
まつ毛がないと目力が落ちます。「爬虫類の目のようになってしまった...」と表現する人も結構いらっしゃるくらいです。黒のアイラインや濃い色のアイシャドウをまつ毛の代わりに入れると、目力が復活します。
⑤元気な笑顔をつくるための頬紅の位置は、アンパンマンのホッペ。
笑ったときに、頬が出っ張ったところにチークを入れます。アンパンマンのホッペの位置です。そこから頬骨に沿ってぼかしていきます。そうすると、少しの笑顔でもすごく笑っているように見えます。プラスして、目頭の下から目尻の下まで、ハイライトをスッと入れるとさらに透明感とツヤが出て、美しい笑顔が強調されます。
⑥リップは顔色がよく見える明るい色を。
グロスでくちびるにツヤを出すと、みずみずしい人に見えます。つややか=元気に見えるのです。
これら①~⑥の全行程を行っても、慣れれば10分以内で完成します。もちろん全部やらなくても構いません。自分に必要なポイントから試してみてください。
(⇒山崎多賀子さんの元気に見えるメイクの技は、こちらでも詳しくご紹介しています。)
抗がん剤の治療による脱毛は、個人差がありますが通常、治療開始2〜3週間後に始まって、治療が終わると1~2か月で再生が始まり、その後3~6か月でおおかた回復すると言われています。脱毛期間のためのウイッグ選びのポイントを教えてください。
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会社や周囲にがん治療中と知られたくない人は、抗がん剤治療前の髪があるときに購入しておくといいですね。自分の髪と似た毛質、毛色でボリュームも同じくらいのものを選びます。髪が抜けると2サイズくらい頭が小さくなるので、サイズ調整できるものか、やや小さめのものがいいでしょう。
抗がん剤治療前に、髪をウイッグと同じヘアスタイルにカットしておくと、なおよし。
それから、サイドの髪がもみあげより前にくるものを選ぶことも大切。でも何より重要なのは長時間つけていて不快でないもの、自分に似合うもの、経済的に負担にならないものですね。
ウイッグは必ずしも医療用と唱われる製品である必要はありませんが、今は3万円くらいからおしゃれなファッションウイッグも手に入ります。また、ヘアスタイルを変えて楽しむのもいいと思います。夏は帽子やヘアバンドにつけ毛をつけたものを作っておくと、暑さやムレ防止になります。
髪が元のように生え揃うまでには、約1年~1年半くらいかかります。ウイッグ、帽子、つけ毛、とバリエーションをもっておくと役立ちます。

今を大切に生きている人は美しい!
アピアランス(外見)ケアにおける山崎さんの功績は大きくて、社会で仕事を続けながらがん治療を継続するには、外見ケアで心を支えることがいかに重要かを今、医療者が認識し、ケアの重要な柱となっていますね。2013年に国立がん研究センターにアピアランス支援センターが設立され、2016年には医療者向け「がん患者に対するアピアランスケアの手引き」が出版されるまでになりました。活動をする中で、山崎さんにとって「美しさとは?」の考え方は変わりましたか?
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「美」という言葉の意味が、がんを経験して確かに変わりました。美は、人と比べるものじゃない。その人らしさ、その人の魅力です。華やかかどうかも関係なく本来の自分をかもし出すエネルギーが、美しさなのだと思います。
メイクをしていて気づいたのですが、その人らしさを引き出せたときに、「美しい、キレイ」と思えるのです。生命の力ってすごくて、がんの進行状況にかかわらず、今を大切に生きている人は、とても美しいです。いろいろなことを受け入れて一生懸命に生きている人は、輝いています。いのちのエネルギーってすごいです!
