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#インタビュー

がんに備えるお金はどれくらい必要か...
乳がんになったファイナンシャル・プランナーからのアドバイス

2018.03.15

がん治療は高額というイメージがあります。病気の不安に加え、お金の不安が重なると、治療に前向きになれないことも少なくありません...。ファイナンシャル・プランナーの黒田尚子さんは、ご自身の治療経験から患者視点で、がんとお金について啓発活動を行っています。インタビューの後編では、がんに備えるためのお金と保険について、伺いました。がんを経験した人にも、経験していない人にも、もしものために役立つ情報を伺いました。

インタビュー・執筆/増田美加(女性医療ジャーナリスト)

黒田尚子さん

くろだなおこ/ファイナンシャル・プランナー CFP
CFP® 1級ファイナンシャルプランニング技能士
CNJ認定 乳がん体験者コーディネーター
消費生活専門相談員資格
立命館大学法学部修了後、1992年(株)日本総合研究所に入社、在職中に、自己啓発の目的でFP資格を取得後に同社退社。1998年、独立系FPとして転身を図る。現在は、各種セミナーや講演・講座の講師、新聞・書籍・雑誌・Webサイト上での執筆、個人相談を中心に幅広く行う。
2010年1月、消費生活専門相談員資格を取得し、消費者問題にも注力。また、2009年12月の乳がん告知を受け、2011年3月に乳がん体験者コーディネーター資格を取得するなど、自らの実体験をもとに、がんをはじめとした病気に対する経済的備えの重要性を訴える活動を行う。著書に、「がんとお金の本」(Bkc)など多数。
黒田尚子FPオフィスhttp://www.naoko-kuroda.com/

お金の知識は、病気の不安を軽減してくれます!

前回のインタビュー(前編)で、「がん告知のときには精神的にショックでしたが、もっと恐怖を感じたのは、お金のことでした」と話された黒田尚子さん。具体的に、どのような費用を負担に感じたのでしょうか?

とにかく、色々なことに、お金がどんどん出て行くんです。入院、手術、検査、薬、乳房同時再建などの病院に支払う医療費だけでなく、術後すぐのブラジャーなどの下着や日用品(たとえば胸帯やT字帯、パジャマやタオル、スリッパなど)、交通費、私が入院している間の家族の外食費などなど。さらに私は受けていませんが、抗がん剤治療の脱毛時に使うウィッグ代やリンパ浮腫対策のためのサポーター代、健康食品やサプリメントなどがかかる患者さんも少なくありません。治療で働けない時期に、医療費だけではない出費が膨らむこと、それがいつまで続くか分からないことに、人生で初めての不安を感じました。

さらに、私が痛感したのは、働けずに収入が入ってこないという恐怖でした。がんになると支出が増えるだけではなく、収入も減ってしまうのですが、最初は、がんにかかるお金にばかり気を取られて、そのことに思い至りませんでした。治療に専念しなければと仕事を辞めてしまう気持ちがよくわかりました。とにかく、その当時は、がん患者がお金について相談できるところは少なく、医療費や医療保険や医療費助成制度についてまとめた情報もありませんでした。

がんを経験したお金のプロとして、がんとお金の正しい情報を伝えていくことを考えたのです。お金は、病気の不安を軽減させる役割があることも伝えたいと思いました。

がんの医療費はどのくらいかかるのでしょうか?

やはり、がんは高額な医療費がかかるというイメージをもった方がたくさんいます。おおよそ、がんの医療費はどのくらいかかるという目安はあるのでしょうか?

がん医療費は、がんの種類と進行度で大きく異なります。あくまで目安ですが、たとえば乳がんの場合、早期のⅠ期なら、手術と放射線治療だけで済みます。
しかし、進行した乳がんのⅡ期では、抗がん剤など、効果があると考えられる治療をその都度行うため、費用や治療期間の予想が立てにくいという状況があります。

あくまで一例ですが、

  • 乳がん病期(ステージⅠ期)
    「乳房温存手術+放射線治療 総額 約¥328,000」
  • 乳がん病期(ステージⅡ期)
    「乳房全摘手術+抗がん剤+ホルモン療法+乳房再建 総額 約¥1,180,000」

*保険3割の自己負担に高額療養費を考慮したもの。ただし、これは医療費(=病院に支払う診察・検査・治療)で、治療費(=医療費などの直接費用に交通費や諸々の間接費用をプラス)となるともう少し高くなります。

「がん治療費.com」http://www.ganchiryohi.com/では、がんの部位別、進行期(ステージ)別に医療費の目安が検索できますので参考にしてみるといいでしょう。

がんや病気にかかるお金の目安は3つに分けられます

病院に支払うのが医療費、それ以外にもさまざまな出費がありますね。医療費と治療費、分けて考えたほうがよいのでしょうか?

その通りです。"医療費"とは、純粋に病院に支払う費用。

それ以外に、差額ベッド代や診断書の作成費用は、医療費以外になります。さらに、交通費やウィッグ代、下着代などもあります。これら医療費以外の費用も含めた"治療費"が、病気のときにかかるお金全体の目安になると思います。

病院に支払う純粋な"医療費"以外にかかる費用を含めた"治療費"という枠組みで考えることが大切です。

【かかるお金の目安は3つ】
1. 病院に支払う医療費
2. 病院に支払うその他のお金
〈差額ベッド代、先進医療の技術料、診断書の作成費用など〉
3. 病院以外に支払うお金
(交通費、宿泊費、健康食品代、外食費、ウィッグ代、育児・家事代行代など)

1の医療費は、高額療養費制度が利用できるため、1か月最大約9万円と考えると、予想外に膨らむのが、その他の2や3のお金です。

確かに、がん治療費は、数百万の高額...というイメージがあります。がん患者さんに対する調査では、がん治療全般にかかる費用(入院、食事、交通費を含む治療費)は50万円~100万円と答えた人が約6割にのぼりました。がん治療費は、とにかくケースバイケース。本人やご家族がどのような治療を希望するかによって、費用はさまざまですが、目安としては100万円程度とアドバイスしています。

これはすべてのステージ(がん進行期)の人からの調査なので、早期発見ならさらに少ない費用で済むと考えられます。

さらに、医療費は、高額療養費制度があるため、70歳未満で一般的な所得(約370万~約770万円)の人なら、1か月の支払い限度額は約9万円以内で済みます。ひと月支払う医療費が約9万円を超えると、高額療養費制度が適用になり、約9万円を越えた金額が戻ってきます。

がんの保障は、公的保険+預貯金+民間保険の3段構えで

がんになったときのために、何をどのくらい備えておけばよいのでしょうか?

日本では病気の保障のために、「健康保険などの公的保険」があります。日本ではがんの標準治療(最もエビデンス(科学的証拠)の高い治療)は、健康保険が使えますので、これは基本となる大きな安心材料だと思います。

さらに、「お金がないから、がん家系でないから、保険に入らない。怖いから検診を受けない」そんな人がいかに多いか...ということも実感しました。

病気に備える預貯金としては、毎月の生活費の半年から1年分を目安に。要するにこの間、収入がなくても生活しながら、家計を立て直す費用ということです。仮に月30万円の生活費の方ならば、180万円~360万円になります。

さらに心配な方は、その上に「民間の医療保険(医療保険、がん保険、生命保険など)」を加えれば盤石です。

民間の保険を選ぶときのポイントは自分のリスクです

いつも疑問に思うのは、どんな保険に入ったらいいかです。医療保険とがん保険、どちらに入るべきでしょうか?

民間の医療保険を選ぶときには、自分の生活習慣を考えて、必要な保障だけに絞ったほうがよいと思います。民間の保険商品は、数限りないほどありますので、どれが一番いいかは単純には、決められません。

ですから民間の医療保険は、自分ががんなどの病気になったときに、誰がどのくらい困るのかを考えて、保障内容を選ぶといいと思います。

「がん保険」は、がんの診断一時金・入院・手術・通院・抗がん剤・放射線など、がん治療のトレンドに合わせた保障が充実しています。

「医療保険」は、がんも含めた病気・ケガの入院・手術の保障が基本です。その他の保障は、特約で上乗せする必要があります。

血縁にがんが多く、リスクが高く心配という人は、がんに手厚いがん保険に入るのもいいですが、がん以外の病気保障がありません。

最近は「医療保険」に、がん、脳卒中、急性心筋梗塞など特定疾病に手厚い保障をプラスするタイプもあります。

掛け金の高い、手厚い保障を選ぶかどうかは、ご自身の生活習慣を鑑みて決めます。定期的な検診と、規則正しい生活習慣の方なら、万が一、がんに罹患しても早期発見の可能性が高いです。そのため、医療保険やがん保険は最低限でいいという考え方もあります。

その逆なら、掛け金は高額でも、手厚い保障を選ぶという選択肢もあるでしょう。

いずれにしても、保険は、がんになってからでは入れない、あるいは健康体と同じ条件で契約できません。健康なうちに検討しておくことをおすすめします。

とにかく、保険は万能ではなく、過剰な期待は禁物です。私は、高額な保険にばかり頼るより、検診で早期発見して、早期治療をすることこそ、体にも心にも、経済的にも優しい方法だと思っています。

がんとお金の公的助成、支援の仕組みを知りたいなら...

インタビューを終えて

黒田尚子さんとお話をしていて、がん治療はお金がかかるというイメージは、もう捨ててもいいのかなと思いました。日本のがん治療は、健康保険や高額療養費制度で賄えることがほとんどです。今の日本は、新しい薬や治療法もエビデンス(科学的証拠)の高いものは、どんどん健康保険が使えるようになっています。最善、最適ながん治療は、標準治療やガイドライン内の治療でできるものです。最先端、最新治療などで高額な自由診療で行われているがん治療は、逆にエビデンスに乏しく、危ういものも少なくありません。そう考えると、定期的にがん検診を受け、生活習慣に気をつけていれば、多少の預貯金と最低限の医療保険(あるいは、がん保険)があれば、心配することはないのでは、と安心しました。