記事一覧ページへ

読 む乳がん体験者・医師インタビューなど配信中。New 11/21UP

21
#体験レポート

男性だから、家族だから伝えられること。
清水健氏講演会レポート

2018.4.19

男性だから、家族だから伝えられること。清水健氏講演会レポート

元・讀賣テレビ放送アナウンサー、清水健さん。関西の売れっ子アナウンサーとして活躍、結婚、そして妊娠のしらせ......、順風満帆な毎日はずっとつづくはずでした。しかし2014年、清水さんと家族に、悲しすぎる現実が突きつけられました。小さな命を授かったばかりの妻・奈緒さんの乳がん発覚ーー。

乳がんの正しい知識を広め、乳がん検診の早期受診の大切さなどを伝える、ワコール「ピンクリボン活動」。今回は讀賣テレビ放送を退社後、全国で講演活動をつづける清水健さんをワコール本社へお招きし、女性の乳がんについて男性目線、家族目線でお話いただきました。

乳がんは女性だけの問題では決してないから。今回はトークセッションへの参加も、当日の写真撮影も、レポート記事の原稿作成も、男性スタッフによる特別編でお届けします。

清水健さん

大阪府堺市出身。讀賣テレビ放送アナウンサーとして「シミケン」の愛称で親しまれる。
報道番組「かんさい情報ネット ten.」を担当し、6年間メインキャスターを務めたが、2017年、キャスターを自ら降板、読売テレビを退社。

現在は、一般社団法人清水健基金の代表理事として、多くの方々からの温かい「想い」を、地道に活動されている団体様などに助成活動を行うとともに、日本全国で講演会活動を積極的に行なっている。すでに200回以上の講演会の舞台で「大切な人のために」を主なテーマにマイクを握り続け、新聞・雑誌への寄稿など含め、時間の許す限りメディア出演も徐々に再開し始めている。

2013年5月に、妻・奈緒さんと結婚、妊娠中に乳がん(トリプルネガティブ)と診断されたが、「3人で生きる選択」をし、2014年10月にご長男が誕生。幸せ絶頂の中ではあったが、2015年2月、妻・奈緒さんは乳がんのため逝去(享年29)。ご長男の出産後3か月、結婚生活はわずか1年9か月だった。

著書『112日間のママ』、『笑顔のママと僕と息子の973日間』(小学館)など
一般社団法人清水健基金

何度も繰り返された、「悔しい」の言葉

「みなさん、盛大な拍手でお迎えください」

司会者の合図とともにステージに現れた清水健さん。客席に向かって丁寧に頭を下げたあと、マイクを握り締めました。

清水さん「ステージに上がって、皆さまからいただく温かい拍手。自分だけのものと思ったことは一度もありません。

今現在、病や、そのほかにも様々なことに向き合っていらっしゃる方が、全国に大勢います。こうして皆さまの前に立ち、皆さまからいただく拍手は、そんな全国の方たちへきっと届くはず。そう信じて、今日もマイクを握らせていただきます。

こんな風にお話ができる機会をいただけて、本当に光栄です。光栄ですが......、正直、思いだしたくないことも含め、いろんなことを思い出します。

辛いことも、「悔しい」こともいっぱい。悔しいなんて言うと、格好悪いな、3年も経ったのにまだ言っているの?と思われるかもしれません。でも、それでもいいんです。これが「今」の僕だから。

皆様と一緒に、ほんとにそれぞれなので、決して同じ悲しみ、苦しみ、悩みはないですが、今と向き合っていらっしゃる方々に少しでも寄り添うことができるのであれば、マイクを握っていこうって、僕は決めました。」

小柄な体からあふれでる強いエネルギーを言葉に乗せて、一人ひとりの目を見るように語りかける清水さん。つづいて、約15分のVTRが上映されました。

そこにあったのは人気アナウンサー清水さんとスタイリスト奈緒さんの出会い、いつも交わされていたふたりだけの本番前の会話、結婚、妊娠、乳がんの発覚、命の選択、出産、そして今、父と子ふたりで過ごす日々......。

暗く、照明が落とされた客席からは、すすり泣く声が聞こえてきます。

「悲しむ人が一人でも減ってほしい...、笑顔の人が一人でも増えてほしい...」

そのような言葉で結ばれたVTRが終わり、再びステージに現れた清水さん。演台も、メモも用意せず、マイク一本で声を振り絞って語りかけます。

今、ここにその言葉のすべてを記すことはできませんが、特に印象的だったことを、いくつかあげたいと思います。

まずひとつが、「悔しい」という言葉。わずか30分の講演時間の中で、清水さんは何度も何度も「悔しい」と繰り返されました。

「どうして、自分たち家族がこんなことに...」、「どうして、妻が29歳という若さで...」。

その想いは運命だけに向けられたものではありません。

「どうして、一緒に検査結果を聞きに行ってあげなかったのか」、そして「どうして、守ってあげられなかったのか」......。

自分自身に向けられた数々の「悔しい」想い。時間は決して巻き戻せないから、大切なひとのためにできることは決して手を抜いてはいけない。

そんな当たり前で、だけどつい忘れそうになることを、清水さんのむき出しの感情から改めて思い出せてもらうことができました。

想いを、希望を、つなげていくために

そしてもうひとつが、病や様々なことから悲しむひとを減らしたいという想い、そしてそのために自分の体験を振り返り、伝えつづけていくという清水さんの覚悟でした。

清水さん「講演で全国を回ることで、いろんな場所に本当の悲しさ、本当の悔しさがたくさんあることを知りました。

その方々に少しでも寄り添うことができるなら、僕はどんな風に思われてもいい。いつまで過去のことを言って格好悪いと感じられてもいい。

こうしてマイクを持ち、ありのままにあの時を、今を話していこう。そんな風に思っています。

振り返ることは、もしかしたら良くないのかもしれません。だけど、あの時があるから今がある。しっかりと向き合っていこうと思っています。

(中略)多くの方々から「頑張れ、シミケン」のお言葉をかけていただき、嬉しかったな...。こんなにも温かい言葉なんだって。

でも、その言葉って難しくて、時には酷な時もあるかわかりません。でも、心からの「頑張れ」はわかるんです、届くんです。僕はそう信じています。だから「一緒に、頑張っていきましょう」って。

今日集まってくださった皆様の"がんばれ"は届くんだと思います。どうか悲しみだったり、不安だったり、多くの悩み、そういった方々の心に寄り添ってあげてください。

僕も小さい力ですがその一員でいることができれば嬉しく思っています。一緒に頑張りましょう、笑っていきましょうと声をかけてあげてください。」

きっと、この場にいたワコール社員の誰もが、清水さんの言葉に耳を傾けながら、大切なひとを思い浮かべていたはず。もしもそのひとを失ったら......、そんな恐怖や不安や悲しみが胸の中にありありと浮かび上がってきて、とても胸が苦しくなりました。

講演会の前半、清水さんはこんな言葉で締めくくりました。

「どうか今日、家に帰ったら、大切なひとを抱きしめてください。心の中の大切なひとも...」

トークセッション、
ワコール男性社員から清水さんへ

この日の後半は、清水さんとワコール男性社員によるトークセッション。
ワコールからは生産管理部のK.S、ワコールブランド事業本部のY.H、国際本部のM.K、ウイングブランドIW企画商品部のS.S、人事部S.F、広報・宣伝部のR.Tが参加し、清水さんへ様々な質問を投げかけました。 (※社員の在籍部門は2018年2月取材時のものを記載)

私たちがトークセッションに参加しました
Y.H

清水さんのお話を聞いて、乳がんについて自分事のように真剣に考えなきゃ、そして大切なひとを大切にしなきゃと考えるきっかけになりました。ありがとうございました。
清水さんが奥さまから乳がんを患ったと告げられた際の気持ち、そのときどんな行動を取られたのか、教えていただけますでしょうか。

清水さん

あえて笑顔で喋りますね。検査結果がわかる日、病院について行きませんでした。僕も自分事ではなかったんだと思います。"大丈夫だろう、まさか妻が"と思っていました。だから僕はそれを電話で聞いてしまったんです。そして結果を聞いて、夫として、父親になる人間として、ごめんなって思いました。

先生から結果を聞かされたとき、どんなに怖かっただろうか。それを思うと、今でもすごく悔しくて、悲しい。会社も理解してくれていて、休もうと思えば休めたんです。どうして休んで一緒に行かなかったんだろう。
だから、もし皆さんが同じような立場になったら、僕は一緒にいてあげてほしいなと思います。

H.Y

ありがとうございます......。

清水さん

あ、僕の言ってること、全然正しいことばかりじゃないですからね!今日は本当にざっくばらんにいきましょう!

司会

次は一昨日、お子さんが生まれたM.Kから。

清水さん

え、そうなんですか!まずはおめでとうございます!

M.K

ありがとうございます(笑)。自分も父親になったばかりというタイミングでお話を聞かせていただいて、とても心に響きました。
奥さまを看病する際に、大切にしていたことはどんなことですか?

清水さん

やっぱり、格好つけてましたよね......。あいつがいつも笑顔でいてくれるから、余計に自分が泣いてはいけないと思っていました。病室の外で先生にいくらきついことを言われても、涙を隠して大丈夫大丈夫って。

妻は僕の顔を見れば察しはついていたと思うのですが、それでも素直に弱い感情を吐き出せなかった。

でも、今振り返ると、あえていっぱい泣く看病があってもいいんじゃないかなと思うんです。家族も辛いですもん。

もちろん、本人が間違いなく一番しんどい。病と向き合っているのは、本人です。だけど自分の愛する人が、大切な人がどんどん悪くなっていく。たまったもんじゃないんです。だから僕は家族も一緒になって悔しい!悲しい!って...、それぞれですが、そんな病への向き合い方もあっていいのかなと思います。

S.F

本を読ませていただいて、予備知識はあったのですが、実際に直接お言葉を頂戴すると、本当に圧というか、エネルギーがすごい。胸に迫るものがありました。
家族もしんどい、ということですが、清水さんはその折れそうな心をどうやって保っていらっしゃったんでしょうか?

清水さん

おそらく保てていなかったと思います。まったく笑えていなかった。ギリギリまでキャスター席に座らせていただいていましたが、当時の映像は怖くて見れません。
もしかしたら、弱い自分が画面からも出ていたかもしれないと思うと視聴者の皆様に申し訳なくて。

でも本当の仲間、本音を語れる相手がいると思うんです。10人はいないかもしれないけど、必ず周りにいるはず。

昔からの友だちでも、職場の同僚でも、そういった方の前で"悔しい""なんでやねん"って言い合える世の中になればいいなと思います。これは、言えなかった僕の反省もこめてのお答えですね。

S.S

さっきから泣きすぎてちゃんと喋れないんですけど、僕、娘がふたりいまして、長女が奥さまと同じ名前、年が息子さんと同じで、勝手に親近感を持って、お話をお伺いしていました。
今は妻が元気で子どもたちを育ててくれていますが、もしも妻に先立たれてしまったら、育てていける自信がありません。
子育てをしていると、本当は一番大好きなのについ怒ってしまったり、うまくいかないことがありますよね。そんなときはどう向き合っていますか?

清水さん

その答えは僕の中では簡単で、妻だったらどうするだろう?あいつだったらどうしているだろう?と考えるようにしています。こんなことを言うと、またいつまでぐじぐじ言っていると思われるかもしれませんが。

そして、周りのひとたちの温かさにも、とても助けられています。マンションの隣の部屋のママは、いつも気にかけてくださいます。僕の母や姉も近くにいて、いつも協力をしてくれます。そういう意味では、恵まれたシングルファーザーなのではないでしょうか。

正直に言います、ひとりでは無理でした。いろんなひとの助けを得て、弱音を吐いて、もう無理やって言うと、手を差し伸べてくれるひとがいた。そんな皆さんのおかげだと思っています。

まさか、はある。
だから「今」を大切に。

K.S

僕はまだ結婚していないので、母ががんになったら自分はどういう気持ちになるんだろうと考えながら映像を拝見していました。
心の支えでもあった奥さまに対して心情をストレートに言えない中、何を活力に闘病の時期を過ごされていましたか?

清水さん

すごく難しい質問......。僕の場合は逆かもしれません。
あいつが笑ってくれていた、それに尽きると思います。これも正解はわかりませんが、もっともっと一緒に、悔しいなって叫べば、違った向き合い方ができていたのかもわかりません。

息子が生まれてすぐに病院行き、ずっとできなかったCTを撮りました。全身転移がわかって。何にもできない悔しさ......、僕は友だちやテレビの前ではなかなか見せれませんでしたが、涙の意味を分かってくれる方が必ず近くにいることを、みなさんと一緒に伝えていければいいですね。

R.T

こういう機会をいただけたので、今朝は妻に優しくしようと思っていたんです。しかし私が昨日の夜に牛乳を買い忘れたことが原因で、険悪な雰囲気のまま家を出てきてしまったんです。まあ、どこにでもある日常というか、それ自体が幸せなことだと思うのですが......。

清水さん

喧嘩はしますよね。

R.T

最後に質問というか、お願いなのですが良いでしょうか?

清水さん

もちろんもちろん。

R.T

今日、お話を聞かせていただいた社員みんな、今は"よし、家に帰ったら妻に優しくしよう"って心に決めていると思います。だけど、きっと電車に乗る頃には心が折れそうに......。

清水さん

いやいや!そこは約束してください!

R.T

わかるんです。わかるんですが、そこをなんとかもうひと押しする言葉を最後にいただけないでしょうか。たとえば、今日地球が終わりだったら感謝を伝えます。

清水さん

そうですよね。でも終わりじゃないですもんね。

R.T

まあ今日じゃなくてもいいか。もっともっと後でも言えるかなって思ってしまいます。そこを心折れずに、今日しか言えない覚悟で帰れる勇気をください。

清水さん

日常って、それがずっと続くと思うんです。でもこれだけは言わせてください。

今は、今しかないんです。この瞬間は、この瞬間しかないんです。

まさかということが、僕には起こりました。誰も悪くないのに...。でも、今がある。どうか今この瞬間を、家に帰ってからのその瞬間を、大事にしてください。どうか今日、大切なひとをぎゅっと抱きしめてください。

R.Tさんは、どうか牛乳を買い忘れたことを謝ってください。そして、抱きしめてあげてくださいね。

R.T

牛乳だけにぎゅうっと......。

清水さん

あ、そうきましたか(笑)

\清水さん、貴重なご機会をありがとうございました!/

まとめ

どこまでも真っ直ぐで熱い、それでいて終始和やかに進んだ、清水さんとワコール男性社員によるトークセッション。

清水さんは時折マイクさえも使わずに、地声だけで客席に語りかけるなど、全身全霊を注いで家族を失うことの悔しさ、だからこそ今をおろそかにしないことの大切さを訴えてくださいました。そして、女性の乳がんは女性だけの問題ではないことを改めて気づくことができました。

もしも、自分の妻や母、恋人や娘が罹患したら......。

今がずっとつづいてほしいけれど、今日と違う明日は突然やってくるかもしれないから。いつも心残りのないように、大切なひととの時間を過ごす。

女性の皆さん。検診、行きましょう。セルフチェック、やりましょう。
男性の皆さん。声、かけましょう。いつもありがとうって、伝えましょう。

母の日をきっかけにして
乳がんのことを一緒に考え、
乳がん検診をすすめてみませんか。


母の日スペシャルコンテンツへ ▶