WACOAL STUDYHALL KYOTO

「Blue Birds/Blue Ceramics」

作家・桝本佳子さんインタビュー

ワコールスタディホール京都では2021年5月6日より桝本佳子個展「Blue Birds/Blue Ceramics」を開催しています。
桝本佳子さんは京都市立芸術大学 陶磁器専攻を卒業、現在滋賀県の信楽にて制作活動をしています。
彼女は「器であって器でないもの」という一貫したテーマのもと、伝統的な陶芸の技法を応用しながら、絵皿から鳥や植物が飛び出していたり、蛸唐草紋様の壷からタコが飛び出していたりと実用とはかけ離れていますが、ユーモアと親しみやすさのある作品を発表しています。

今回のインタビューでは、あらためて彼女のこれまでの経歴や作品制作、本展の話などをお聞きしました。

聞き手:鈴木千恵子(ワコールスタディホール京都 キュレーター)

600_gallery_main20210506.jpg左 《トンビ/壺》2021年|陶磁器 右 《カモメ/壺》2021年|陶磁器 写真:越智信喜


―大学で陶磁器専攻を選んだ理由を教えてください。

「幼い頃に茶道を習っていて器にふれることが多く、器を作りたいと思って陶磁器専攻のある京都市立芸術大学に進学して、大学に入ってから本格的に陶芸をはじめました。
はじめは器を作りたくて、大学に入るまではアートの事などわからなかったのですが、周りの環境や友人と話をしているうちにアートピースとしての作品作りを考えるようになり今のスタイルができあがりました。」

―作品の制作に使う素材について、それからスタジオの場所や制作環境のことを聞かせてもらえますか。

「現在、滋賀県立陶芸の森でゲストアーティストとして制作をしています。大きい窯があるので大きい作品も制作することが可能です。素材は作品やモチーフによって磁器や陶器を使います。染付けをする際には目が細かい(粒子が細かい)土がよいので、半磁器〜磁器を使用しています。半磁器は磁器土と陶土の混合土で磁器土よりも作りやすく、陶土よりも白く※貫入も入りにくく、絵付けがスッキリ見えるので今回の展示ではすべて半磁器を使用しています。」 ※貫入 釉薬(うわぐすり)の部分にできる細かいひび

―京都から滋賀県の信楽へ行き、生活環境がかわって制作活動に影響がありましたか?作品を見ているといつも良い意味で変わらず作品を作られているなと思っているのですが。

「昔から生活環境などで、作品のスタイルやテーマが変わることがないので、あまり変わらないですね。もちろんコロナ過になって生活のスタイルは変わりましたが、家族とのかかわり方や制作にはあまり支障がないので。でも、信楽にせっかく住んでいるので今後、信楽焼の作品に挑戦してみようと思っています」

―桝本さんの作品を見ているとユーモアがあって、いつ見ても明るく気持ちの良い気分にさせてくれます。最初に見たときに「面白いな」というのからはじまって、「どうやって作っているのだろう?」「構造はどうなっているのだろう?」と、そこから色々、器と装飾の繫がりに気付いたりして、見る人それぞれの想像力を膨らませてくれますね。

「 そうですね、ユーモアと親しみやすさというのはいつも大事にしていて、意識しています。美術や工芸の愛好家だけではなく、より多くの人々に親しみを持って見てもらえる陶磁器という素材で、ユーモアを大切にしながら新しいかたちを生み出していきたいと思っています。」

―桝本さんが作品を制作するときのイメージ(インスピレーションになるもの)やアイディアはどこから生まれることが多いですか?

「日常で気になるものだったり、古典的な陶磁器の本、特に明治輸出工芸時の本が多いですね、あとは百貨店の食器コーナーも。 今回の展示では、陶磁器の展示風景からアイディアが出ています。」

―作品によっていろいろな古典的な技法や伝統的な紋様を使用していますが、作品を作るにあたってのイメージの順番をお聞きしたいのですが。先に装飾になるモチーフのイメージから関連する紋様や形がつくられるのですが?それとも古典的な技法や紋様からモチーフのイメージが湧くのですか?

「どちらともですね。鉢から鹿の角が生えている「落とし角(飛鉋鉢)」(※写真1)は大分県の小鹿田焼(おんたやき)の特徴の一つの飛び鉋の作品なのですが、飛鉋鉢を作ろうと思って小鹿田焼の鹿という文字からイメージを膨らませて作ったので技法や紋様が先ですし、壺から蛸が出ている「蛸/壷」(※写真2)は蛸が作りたくて壺に蛸唐草の祥瑞という細かい紋様を描いたのでモチーフが先です。」

tsuno1-1024x683.jpg(写真1)

img_20_a.jpg(写真2)


―自分のイメージを形にするには、たくさんの技法と技術が必要ですね。

「わからない事は、陶芸の本をみたり周りの方に教えてもらったりして試行錯誤しながら作っています。」

―それができるのも、根本的な陶芸の技術があってこそだと思います。桝本さんの作品で「よくこの造形で重心のバランスが保てているな」と感じる作品がたくさんあります。

「失敗することもありますが、経験を積んでだいぶ上達してきました。」

今回の展示 「Blue Birds / Blue Ceramics」について

―今回の展示ではギャラリーの壁一面を使用して新作75点を展示しますが、作品のコンセプトや展示でイメージしているのはどんなことですか?

「ヨーロッパをぶらぶらしている時、東洋磁器のコレクションがずらりと並べて飾り付けられているのをよく目にしたのですが、その中でも強烈だったのがドイツのシャルロッテンブルク宮殿の磁器の間でした(中国や日本の膨大な磁器コレクションを飾った広間)青い染付けの器が、床から天井までと所狭しと並べられているのを見てこの迫力に立ち向かうモチーフで大型のインスタレーションができれば面白いものになるだろうと思い、今回青い染付の作品に海鳥をイメージして制作しました。」

―今回の展示は今までの展示とは違い全て染付の作品で特徴的ですね。

「今までいろいろな釉薬を使用していましたが、染付は普段はお皿の作品ぐらいにしかやっていませんでした。お皿でやっていてもお皿以外の立体の装飾は別の釉薬を使用したりしていて、壺もどちらかというとモチーフによせた色合いにしていたのですが、今回は染付の青と白の色にしたかったので鳥のモチーフもすべて染付で表現しています。今まであまりしていない事に挑戦してみました。」

―2017年に一度個展を企画していたのですが、(お子さんの出産と重なり延期に)最初にお話しした時にも、部屋全体を使用して染付の器で鳥の群れなどを表現したいとおっしゃっていましたよね。4年越しに個展を開催することになりましたがいかがですか?

「前から壁一面を使用した染付の作品を作りたいと思っていて構想から10余年を経てようやく実現することができました。最初は琵琶湖の水鳥でイメージしていたのですが、コロナで瀬戸内の実家に帰省できず海が恋しくなって、海鳥になりました。すべて新作で展示をするのは久しぶりで、今までで一番の大掛かりな作品になりました。皆さんに楽しんでいただければ幸いです。」

BlueBirds_BlueCeramics_1.jpg

桝本佳子 | Blue Birds/Blue Ceramics
会 期:2021年5月6日(木)~6月25日(金)月曜~金曜 10:00-20:00 
休 館:土曜・日曜・祝日
会 場:ワコールスタディホール京都
入場料:無料
主催:ワコールスタディホール京都

桝本佳子の個展「 Blue Birds/Blue Ceramics」について詳しくはこちらから

―「器であって器でない」―
彼女の作品は器と装飾どちらが主とも従ともつかず、「器や彫刻」でもなく、「工芸やアート」ともいえない、新しい形をつくりだしています。それは陶器を制作するきっかけが茶道だったことで、「物を本来のあるべき姿ではなく、別の物としてみる」というものの見方、見立てが染みついているのではないかと思います。世間の色々な価値観や、飾るという事、使うという事の枠組みにとらわれることない自由な作品は、見る人を思わず笑顔にし、目にした人の気持ちを明るくしてくれます。
本展をぜひこの機会にご覧ください。
文:ワコールスタディホール京都 キュレーター 鈴木千恵子