WACOAL STUDYHALL KYOTO

これは父を撮影した作品です。
一五年前、父が病と闘う中で、わたしは父の死と向き合うことが出来ず、父に寄り添った母の姿を撮っていました。 けれど、母の写真が残ったことにより、父を撮れなかったということが、 また父と向き合えなかったということが、大きな後悔として自分の中に残りました。
父と向き合えなかったのには理由があります。 家の中での父は、いつも怖い存在でした。常に何かにイライラとしていて、理不尽に怒鳴り散らし、 母はそんな父親から子供達を遠ざけ、子供達もまた父親というものを避けてきました。
ただひとつだけ、わたしには父とのささやかな思い出があります。 幼い頃、わたしは父に連れられて日曜日のミサへよく出かけていました。 キリスト教徒ではなかった父が、何故わたしだけを連れて礼拝に通っていたのか、 その理由を聞いたことはありません。 父が亡くなってから、外国へ行く度に教会を訪れるようになったのも、そうした体験からなのだと思います。
二〇一四年、アイスランドを旅した時に、圧倒的な自然の中にぽつねんと建つ教会の姿を見て、 その風景がわたしの中の父親像と重なっていくのを感じました。
アイスランドの旅から戻って、研究者の方とコンタクトを取っていく中で、 これまでの外国で見てきた多くの教会は人々が集まる街の中心地に建っているのに対し、 どうしてアイスランドの教会はぽつねんとした風景の中に建っているのか、その理由がわかりました。 それはアイスランドの定住方法自体が散居だったことが大きく関係しているということです。 そして、ぽつねんと建っているように見えたアイスランドの教会も、 実は人々のコミュニティーの要として存在しているということでした。
そのことから、わたしはアイスランドの教会が自分の父親像と何故結び付いていったのかがはっきりとしたように思えました。
わたしは父と向き合えなかったことから、ずっと父親というものから孤立していると思ってきましたが、 アイスランドの教会を訪れたことにより、 家族の要としての父が存在していたことを強く感じることが出来たからです。 そして、アイスランドの教会を撮影するために、再びこの国を訪れました。 幾つもの教会を撮影していく中で、わたしはやっと父と向き合う時間を得ることが出来たのだと思います。

※「Samskeyti」...アイスランド語で「合流点」、「接合点」、「つなぎ目」を意味する。

samskeyti ヨシダミナコ写真展

会期:2018年7月17日(火)-9月29日(土)
火曜~金曜 10:00-20:00/土曜 10:00-17:30
休廊:日曜・月曜・祝日
会場:ワコールスタディホール京都 ギャラリー
入場料:無料
主催:ワコールスタディホール京都
企画協力:gallery Main

[オープニングレセプション]※入場料ともに無料
日時:2018年7月20日(金)19:30-20:30
展覧会開催にあたり、作家を囲んだささやかなレセプションを行います。 皆様との交流の場になれば幸いです。

ヨシダミナコ Minako Yoshida
1981年 兵庫県神戸市生まれ
2002年 日本写真映像専門学校 卒業
2002年 第二五回キャノン写真新世紀 優秀賞 マルク・リブー選
2005年 富士フォトサロン新人賞 奨励賞

2002年 The Third Gallery Aya(大阪)での初個展以降、2007年までコンスタントに作品を制作発表。
2016年 約9年振りに作品制作を再開。

― 展覧会に寄せて ―

「私にとって写真は誰かに宛てた手紙です」とヨシダミナコは言いました。と、すると今展「samskeyti」は父に向けた手紙なのかもしれません。
ヨシダは過去に、病床の父をテーマとした作品「向かうところ」(2002年)を、父の看病する母を撮る事で綴りました。 その中で、父が旅立とうとする場所を"向かうところ"と言い、死の直接性を写すのではなく母や自身が受け持つ死という生を、 やわらかで刺さるような視線で写し撮りました。
それから十数年後に、ヨシダは旅先のアイスランドの空の下に立つ教会の姿に父を見出します。それは幼い頃に見た憧憬とのシンクロなのか、 天啓のように突然おとずれた感覚なのか。雄大な自然の中に立つ教会、町の中のある教会、ひっそりと人の暮らしに寄り添うような教会。 それらは時にはるか遠くに、時に触れられるほど近くに写されています(しかし決して教会の中の様子は作品には収録されていません)。 その距離感は父への距離感として読み取れます。時代や土着や歴史などの意味性ではなく、象徴や存在としての教会。 見るものはその静かな佇みを受け取ることになります。手紙、父性、死生、アイスランドの教会、それらが静かに並列する物語として語りかけます。
今展では「samskeyti」に加え「向かうところ」も展示いたします。ご高覧いただければ幸いです。

ギャラリー連動講座

samskeyti ヨシダミナコ写真展 届けない手紙~伝えたかったおもいを文字で綴るワークショップ~

届けない手紙 ~伝えたかったおもいを文字で綴るワークショップ~
【講師】ヨシダミナコ [写真家]、小檜山 貴裕 [写真家]
日時 2018年9月7日(金)19:00~20:30
料金 1,000円(税込)展示参加費、便箋、封筒、切手付き。参加者さま側で便箋などお持ち頂いても可。
https://www.wacoal.jp/studyhall/school/event/article86585