WACOAL STUDYHALL KYOTO

【本の語り場】

幅 允孝氏「美のライブラリーを語る」
<前編>

女性が生きるうえで役立つ本を8000冊そろえる

幅 允孝氏「美のライブラリーを語る」 <前編>
幅 允孝(はば・よしたか)
1976年愛知県津島市生まれ。有限会社BACH(バッハ)代表。ブックディレクター。未知なる本を手にしてもらう機会をつくるため、本屋と異業種を結びつけたり、病院や企業ライブラリーの制作をしている。代表的な場所として、国立新美術館『SOUVENIR FROM TOKYO』や『Brooklyn Parlor』、伊勢丹新宿店『ビューティアポセカリー』、『CIBONE』、『la kagu』など。その活動範囲は本の居場所と共に多岐にわたり、編集、執筆も手掛けている。著書に『本なんて読まなくたっていいのだけれど、』、『幅書店の88冊』、『つかう本』。『本の声を聴け ブックディレクター幅允孝の仕事』(著・高瀬毅/文藝春秋)も刊行中。愛知県立芸術大学非常勤講師。
「美」を考えるきっかけとしての本

「美をテーマにしたライブラリー」。
ワコールからこんなテーマをもらい、新京都ビルのライブラリー計画がスタートしたのは、2015年12月でした。「美」という大きなテーマを前にして、どこまでの範囲を、どう扱うべきか、考えることから始めました。ワコールに関するこれまでの書籍を読んで勉強するのはもちろん、ファッションアーカイブを見たり、KCI(京都服飾文化研究財団)に通ったり、社員みなさんがどんなものを求めているか、話し合いを重ねたり。

そうするうちに見えてきたのが、ワコールが女性の「からだ」だけでなく、生き方まで深く潜りながら考えている企業だということ。そこから、「女性が生きるうえで役立つ情報・本を、多角的にそろえる」とライブラリーのテーマを設定しました。ランジェリーやからだ、ファッションだけでなく、食や暮らし、アート、自然との触合い方...など、「美」を広くとらえているのが、何よりの特徴です。確固とした定義や答えがない「美」について考えるときに、そのきっかけとなる本を多種多様にそろえようとしました。

幅 允孝氏「美のライブラリーを語る」 <前編>

移動式の書棚の壁には、幅さんがつくった11のテーマとその説明がつけられた。テーマに合うものであれば、本のサイズや新旧、ジャンルにとらわれず、テーマからリンクする本を並べていくのが、幅さん流。

選書にあたってまず、11のテーマをつくりました。「美の在り方」「ファッションの来歴」「健やかな体」「自然と親しむ」「暮らし」「コミュニティ」「食べる」「芸術をめぐる」「次の旅先」「女の生き様」「日本という国」。棚の配置は、自然から始まって、暮らし、生き方、ファッションと流れていくイメージです。そして、目指したのは8000冊。これだけ女性のための本を選書し、集めるのは、僕にとっても初めての経験です。

本棚の中にフレームをつくる

女性に深く関係する本といっても、範囲が広く数が多いため、利用者は何を見たらいいかわからなくなってしまう恐れもあります。そこで、各テーマの本棚の中にフレームをつくって、小さな展示スペースをつくることにしました。名付けて「本の箱庭」。これも初めての試みでした。

幅 允孝氏「美のライブラリーを語る」 <前編>

真っ白い本棚の中で、木製の枠で囲まれた左上の部分が「箱庭」。数か月ごとに展示するテーマが変わる。木製のフレームは背面が磁石になっていて、簡単に移動できるのがユニーク。

たとえば、「食べる」のテーマの棚の箱庭には、「和菓子が好き」というタイトルで、京都の和菓子のガイド本や和菓子文化を感じるための本が置かれています(上の写真)。「ファッションの来歴」の箱庭は、「スタイリストの歴史」として、ルノアールの絵画から現代までのスタイリングの歴史をひも解く、という選書になっています。つまり、大きな本棚の中に、小さな本の展覧会が開かれているイメージですね。

僕の仕事はブックディレクターですが、自分の好きな本を選ぶだけでは、残念ながらお節介でひとりよがりになってしまいます。ワコールの社員をはじめさまざまな女性の声を反映していくことで、範囲が広がり、本当に役立つものになる。僕自身も女性のからだにずいぶん詳しくなりましたし(笑)。同時に、今回はスタッフ側に「本当によいものを見せたい」という強い思いがあったので、数を埋めるのではなく本の質にこだわることができました。こうして、2016年10月のライブラリーオープン時にそろえたのは、3000冊以上。でも、完成形はまだまだ。5年後には8000冊まで増やす予定です。(後編に続く)

幅 允孝氏「美のライブラリーを語る」 <前編>

ライブラリーに本が搬入されてから、装丁やバランスを見ながら最終的な配置を決めていく。その作業は4日間ほど続けられた。

<撮影:合田慎二  / 取材・文:南 ゆかり>