WACOAL STUDYHALL KYOTO

【本の語り場】

幅 允孝氏「美のライブラリーを語る」
<後編>

レアな海外雑誌から日本のマンガまで

幅 允孝氏「美のライブラリーを語る」 <後編>
幅 允孝(はば・よしたか)
1976年愛知県津島市生まれ。有限会社BACH(バッハ)代表。ブックディレクター。未知なる本を手にしてもらう機会をつくるため、本屋と異業種を結びつけたり、病院や企業ライブラリーの制作をしている。代表的な場所として、国立新美術館『SOUVENIR FROM TOKYO』や『Brooklyn Parlor』、伊勢丹新宿店『ビューティアポセカリー』、『CIBONE』、『la kagu』など。その活動範囲は本の居場所と共に多岐にわたり、編集、執筆も手掛けている。著書に『本なんて読まなくたっていいのだけれど、』、『幅書店の88冊』、『つかう本』。『本の声を聴け ブックディレクター幅允孝の仕事』(著・高瀬毅/文藝春秋)も刊行中。愛知県立芸術大学非常勤講師。
10年、20年先も価値ある本を

選書にかかったのは約半年。リストをつくっては何度も取捨選択を繰り返し、女性スタッフの意見も聞きながら、少しずつ進めていきました。女性の写真家やアーティスト、料理人など、女性にフィーチャーして選書するという初めての体験は、面白かったし新鮮でした。これで女心がわかるようになればいいですけど、まあそう簡単にはいきませんよね(笑)。

ワコールライブラリーならではの特徴は、ほかにもあります。たとえば、ふだんは手に取る機会がほとんどない貴重で美しいヴィンテージブックが多種そろったこと。1950年に1年間だけ発行された、伝説的なアメリカのファッション&ライフスタイル誌『Flair(フルール)』は全册を集めました。ほかにも、若き日のスティーブ・ジョブズが熱狂して読んでいたということでも知られる『Whole Earth Catalog』シリーズなども、しっかり取りそろえています。珍しいところでは、ファッション写真の世界を牽引したリチャード・アヴェドンが長年撮り下ろした女性ポートレイトをまとめた『Woman in the Mirror』という写真集のスペシャル版もあります。これは、フォトグラファー自身のフィルムやプリントへの書き込みもそのまま本になっている、面白いつくりです。

幅 允孝氏「美のライブラリーを語る」 <後編>
幅 允孝氏「美のライブラリーを語る」 <後編>

上/伝説のヴィンテージファッション誌『Flair』(1950年)。編集発行人フルール・コウルズ氏は作家であり、画家・イラストレーターでもあった。アート誌のような隅々まで凝ったつくり。
下/ネット時代の到来を予見したバイブルであり、ヒッピーカルチャーに影響を与えた『Whole Earth Epilog』『Whole Earth Catalog』(1960年代〜1970年代)。

生き方に関する本も幅広いのが特徴で、茨木のり子、新川和江、石垣りん...など女性の詩集があれば、岡崎京子のマンガもある。料理やレシピもあれば、健康や老いについて考える本も並んでいます。ちなみに、ワコールとの打ち合わせのとき、女性スタッフに石垣りんの詩のひとつ「儀式」を実際にお見せして、感想をもらったりもしました。この詩がすごくいいんですよ。

本というのは、やはり即効性ではなく遅効性の道具なので、古いものから新しいものまで、堅いものからやわらかいものまで、「結局、いいものはいい」と考えて集めました。そして気をつけなければならないのは、10年後、20年後もその価値が変わらない本であること。いっときのブームに乗ったものではなく、長く読まれる本を選ぶことは、今回に限らずライブラリーをつくる場合の共通点です。

配置はほぼアドリブ

本をどう配置し、表紙をどう見せるかは、棚が完成して、本がそろって、現場に来てから考えます。アドリブというかライブ感というか、バランスを見ながらならその場で決めていくのです。

ライブラリーは会員制ですが、外から見えるガラス張りの"パブリックスペース"は、だれでも無料で使えるコーナーです。ここには、ライブラリーの11テーマそれぞれからわかりやすい本をピックアップして、可動式の屋台のような棚に置いています。京都の本、動物の本...など、気軽に楽しめるものを中心に、中身は頻繁に入れ替える予定です。

本はすごく雄弁で、一冊ではなく集まって連なると独特の空間と雰囲気ができ上がる。読まずとも伝わるものがある。それを楽しんでいただきたいと思っています。また、研究や勉強ばかりでなく、女性がふらりとやってきて、"パブリックスペース"や"箱庭"を見て、また、何気なく目にとまった表紙から、「こんな面白い本がある」と気づいてくれたら。その投げかけをつくることが、僕の仕事なのだと思っています。

幅 允孝氏「美のライブラリーを語る」 <後編>

<撮影:合田慎二  / 取材・文:南 ゆかり>