広東ワコールに伺い、日本から出張中の技術支援担当の方にブラジャーの縫製工程を案内してもらっているとき、こんなことがありました。
レモンのような形のパーツのカーブをミシンで縫う工程に差し掛かったとき、「案内をちょっと中断させてください」と、案内をしてくれていた技術支援担当の方が急に足を止めました。しばらく腕時計の秒針と縫製担当者が縫っている手元を交互に見つめた後、技術支援担当者はブラジャーの縫製責任者とメカニック担当者をその場に呼びました。
あとで説明してもらったのですが、半円のカーブを縫うのに、ワコールで定めたルールとは異なる動作で縫っていたのに気付いたのだそうです。原因は、ミシンのほんの一部がルール通りに設定されていなかったからでした。(※とはいえ、探検隊にはその違いが最後まで理解できないような微妙な違いでした:汗)
そのときの様子を再現してみるとこんなやりとりでした。
技術支援担当者がミシンの前に座り、実際にパーツを縫ってみたところ…。
ミシンの様子を見る技術支援担当者。原因が究明される間、縫製責任者の女性とメカニック担当の男性は一緒にミシンを覗き込み、熱心にメモをとっています。
すぐに調整が行われ、まず縫製責任者が縫ってみて状態を確認。そして縫製担当者が再びミシンの前へ……。
ぽん!と肩をたたかれ、縫製担当さんの顔にぱぁ~っと笑顔が広がりました。
日本でも中国でも、ワコールの工場では、一つの商品をつくるときは、生地、レース、縫い糸までも同じ素材が使われています。それだけなく、商品を縫うときの手順や手さばき、縫い目の数、ミシンの設定までルールが決められているとのこと。しかもそのルールは品番ごと、工程ごとに全部違っているそうで、商品をつくるためにはものすごくたくさんのことを覚えなくてはなりません。
そして縫製担当者をはじめミシンを調整するメカニックさん、現場責任者まで、誰もがこの細かいルールを守り、それぞれの役割や責任を完璧に果たそうとしています。
縫う人や場所は違っても、同じ“ワコール品質基準”の商品をつくり出荷するために、すべてが徹底されていました。
「よい商品をつくる」という目的に向かって、全員が心を合わせて働く……。そこには“愛される商品づくり”に対する皆さんの思いが一杯にあふれているようです。
“ワコール品質基準”の商品をつくるには、高い“技術力”が必要!ということで、技術力のさらなる向上をめざして2009年秋からスタートしたのが、九州ワコール長崎工場での長期研修制度です。
研修期間はなんと3年間。大連ワコールでは、いま長崎で勉強している4人の写真を壁に飾っていて、工場のメンバー全員が期待し、応援している様子が伝わってきます。
研修の報告は、長崎と大連の工場の会議室を回線で結び、ウェブカメラと液晶モニターを使ってリアルタイムで行われます。ハイテクですね!
日本での研修に派遣されることは、中国で働く皆さんにとって大きなあこがれ。次回研修に派遣が決まっているメンバーを中心に、週3回の日本語教室も開かれています。
レッスン中のところ、ちょっとおじゃましちゃいました~。
ワコールの経営の基本方針のひとつに、“愛される商品をつくります”という言葉があるそうです。
“ブラジャーをつくる技術”と“愛される商品をつくる気持ち”は、世界のどこのワコールでも同じでした。
広東ワコール、大連ワコールでも、以前取材した九州ワコール長崎工場と同じように、布地の裁断、縫製、品質チェックなど、あらゆる工程に人の手がかかわり、商品が一つひとつていねいに仕上げられていきます。商品の規格、材料、設備、縫い方、そして検査まですべて日本と同じ。プロの真剣なまなざし、迷いのない手さばき、ぴんと張り詰めた空気の中にミシンの音だけが響く、まさに職人の仕事場です。
「この工場でつくったものがお店に並んだとき、ぴかぴかと光って見えるような商品をつくろう!」。大連ワコールのメンバーにいつもそう語りかけています。ワコールを好きな人がつくる商品には、その人の真心がこもり、輝くからです。中国製の商品をつくっているのは単に中国の人ではなく、“ワコールのものづくり”を心底から理解している中国のワコールの人です。メンバー全員が「技術と品質では決して日本の工場にひけをとらない!」という自信をもっています。
日本でも中国でも、ワコールのものづくりは全く同じ。本社でデザインしたパターンを正確に再現できる裁断、正確に立体にする縫製など、高い技術がワコールの工場では求められます。技術の習得のためには“何のため”という“考え方”の理解が必要で、それが“心”になります。“技術”と“心”が合わさってワコールのものづくりの核となる“お客様に愛される商品づくり”が可能になるのです。15年かけて築いた中国のメンバーとの相互信頼の上で、中国でワコールのものづくりを続けていくための努力を続け、“よい商品をつくる世界No.1の工場”をめざしていきます。
縫製責任者はメモをとっています