「中心」より「周縁」がおもしろい。
先日「ニッポンファッション最前線」と題する興味深いお話を聞きました。スパイラルとワコールが共同開催している「スパイラルスコレー」のプログラムのひとつで、講師はファッション研究者の蘆田裕史さん。「日本」のファッションといえば「東京」を指す状況の中、地方で展開する産地ブランドや、既存のシステムに乗らないファクトリーブランドなどの周縁的な動きに焦点を当て、これからのファッションの可能性を考える講座でした。
たとえば、かつてはファッションの中心地パリの周縁国であったベルギーの例。1980年代後半、アントワープの6人が発表したコレクションにより、世界からベルギーが注目を集めるに至ったように、中心と周縁は、常に入れ替わる可能性があるということ。日本でも近年、地方を拠点とする数々のブランドが健闘している実態を知り、今まさに「可能性のある周縁地域はどこか？」を判断するセンスが求められていることもわかりました。
この講座と前後して、フレンチランジェリーの代名詞といわれるシモーヌ ペレールの新作コレクションを見る機会がありました。1948年の創業から現在まで、ファッションに敏感なパリジェンヌから支持されてきたブランドです。2016年秋冬のテーマは「シルクロード」。いわゆる「周縁的な魅力」にあふれたコレクションで、世界の中心地のブランドも、さまざまな地域から触発されたデザインを展開しているのだなと思いました。
「セイロン」「ミューズ」「ビザンス」など、インドからギリシャ、トルコ辺りまでのイメージを網羅するコレクションの中で、ひときわ目を引いたのが「ジャイプール」。繊細なメッシュにハンドメイド刺繍を施したブラとショーツは、肌の上で咲く花のよう。オリエンタルな香りが漂うカラーを、3本の強いラインで引き締めたことで、スパイシー＆スポーティな仕上がりに。パリの国際ランジェリー展でも大好評だったようです。
手仕事も、機械も、進化している。
ブランディングの際は、土地の名前も重要になってきます。アントワープやジャイプールは、古都の風情を残した響きの美しさが印象的な地名ですね。ジャイプールといえば、カラフルな織物と宮殿。約300年前に建設された計画都市で、城壁に囲まれ、碁盤の目のように整備された道路は京都のようだといいます。インド出身のテキスタイルデザイナーがシアトルで立ち上げたチャイ（ミルクティー）のブランド「ジャイプール・アベニュー」も、こだわりのポイントは本場の味とネーミングだったそう。王宮の屋根のようなロゴマークで、とても美味しいです。
シモーヌ ペレールでもうひとつ、オリエンタルなモチーフで目を引いたのが、革新的な素材でフィット感と軽さを実現した3Dスペイサーブラ「ANDORA」の10周年記念モデルでした。シルバーと黒の豪華な刺繍レースで覆われたバックスタイルのインパクトは、ため息が出てしまうほど。ANDORAは2006年に発売され、1分に1枚売れているらしい世界的ベストセラーであるだけに、記念モデルのデザインにも力が入っています。
シモーヌ ペレールは、シンプルでベーシックなアイテムもいいと思います。たとえば、流れるようなラインに気品があふれるシルクのスリップ。とくに白はピュアシルクの美しさが映え、ワンピースやナイトドレスとして着こなせたら素敵でしょうね。「ジャイプール」のような装飾性の高いアイテムと、無垢なスリップの間で揺れ動いてしまいます。また、1分に1枚売れるようなベストセラー品と、ハンドメイドの限定品との間でも。
そのひとつの答えになりそうなのが、メトロポリタン美術館で5月から始まる「手仕事×機械：テクノロジー時代のファッション」という展覧会。私たちはオートクチュールVS大量生産品という2項対立で考えがちですが、どちらの良さも享受できるのが今の時代。インターネットや技術のみならず、人間の進化が中心をなくし、周縁の可能性を広げていくのです。消えていく仕事がある反面、新しい仕事が生まれ、1人で何でもやらなければならないケースも増えた今、必要なのは器用さかもしれません。手仕事も機械もネットも駆使して、タフに生きねば！ですね。
■スパイラルスコレー
https://www.spiralschole.com/
■Simone Pérèle（シモーヌ ペレール）
https://www.wacoal.jp/import/perele/
