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  • ものづくりの現場から〜パジャマができるまで〜vol.5 染色工場(ローラー捺染:前編)

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    ものづくりの現場から〜パジャマができるまで〜vol.5 染色工場(ローラー捺染:前編)

機械の生産力と精緻な職人技が融合した染色技術

前回までにご紹介してきた工程で織り上げられた生地に、色をつけたり柄やデザインを施したりしていく染色工程。快適な寝ごこちを目指して作られているワコールのパジャマは、染色工程においてもさまざまな工夫を施し、繊細な色使いや多様なデザインを実現しています。今回はその染色工場の現場に密着し、それぞれの工程でどのような工夫がなされているのかをご紹介します。

1898年に英国から日本にもたらされたローラー捺染

捺染技術を紹介する前に、ローラー捺染にいたる前の準備工程から説明していきます。まず最初にデザイナーによって考案された図柄を細かなサイズ調整やぼかし調整などを経てトレース(敷き写し)し、透明フィルムに転写します。その後、彫刻を担当する会社が、彫刻ロールと呼ばれる幅65インチ(または52インチ)の円柱形のロールに透明フィルムを焼き付けたものの表面に薬品を塗布して腐食させることで凹凸をつけて型版を作る、いわゆるエッチング作業を行います。彫刻ロールはもともと銅製でしたが、現在では鉄芯に銅メッキを施したものが使用されています。鉄は傷つきやすいため銅メッキすることで耐久性が高まり、長期の保存・使用に耐えうるからです。

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(写真:工場に保管されている彫刻ロール)

染色では顔料の調合だけでなく、このエッチングによる彫りの深度によって顔料の乗りかたが変わり、色の濃度を変えることができます。そのため、こうした微細な調整指示もこの染色工場から指示を出します。たとえば織物とニットでは彫る深度が異なるほか、伸縮性があり複雑な繊維の場合、捺染の際に10〜15%ほど幅が減ってしまうため、あらかじめ縦長に彫っておく必要があるからです。

こうして出来上がった彫刻ロールが染色工場に運ばれ、捺染ローラーと呼ばれる捺染機に設置していきます。彫刻ロールの重さは1本およそ50kg。1色につき1本使用し、5色印刷だと5本のロールを組み合わせます。ここで型合わせが必要となります。設置するロールの位置によって柄が変化するので、柄がズレることのないように注意しなければなりません。ズレの調整はこのあと刷りながら目視でもチェックし、微調整を繰り返していきます。ロールのセットが完了したら、ドクターブレードと呼ばれる刃の調整もここで行います。

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(写真:彫刻ロールをセッティングしている様子)

次に、同じく前行程から送られて来た「生地」をセット。最後に糊を混ぜてこの工場で作られる顔料を投入し、いよいよ捺染機を動かしていきます。捺染機は、1色の染色が終わり、色または柄などを変えるたびにきれいに洗浄しています。色が混ざらないように捺染機に付着した顔料をその都度、水できれいに洗い流し、そこへ次の顔料をまた流し込んでいきます。

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(写真:捺染機を洗浄している様子)

色の決め手は、顔料の配合比率と糊の粘度

それでは、さらに具体的な工程を流れに沿ってご紹介します。最初の工程では、発注された図案や配色が細かく指定された配色伝票をもとに顔料の配合を決めます。この配色伝票は伸縮性や凹凸の大きさなど素材の特徴や、複雑な色のリクエスト、グラデーションや風合いなど、ここに書かれている情報を読み解きながら、細やかな色調整をしていきます。作業場の棚には数十年分に及ぶ何十万色という配色伝票が保管され、必要な際にいつでも確認できるようになっています。

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(写真:工場に保管されている配色伝票)

また、顔料にはエマルジョン糊と呼ばれる染色や印刷などの際に使う特殊な糊を入れ、粘着性やとろみをつけています。これにより顔料がドクターブレードと呼ばれる顔料を掻きとる刃の縁に沿って、しっかり輪郭をかたどることにつながります。この糊の塗布量や粘度によって色の強弱を調節できるので、色調整には糊の量や粘度も重要な役割を果たしています。糊は1トンのタンクが常時4〜5個、ホースから必要量を取り出せるようになっていて、この量の調節も職人の経験により行われます。高速ミキサーを使ってエマルジョン糊と呼ばれる染色用の糊を作り、顔料と調合していきます。機械捺染というと全てがオートメーション化されているように思われるかもしれませんが、ローラー捺染においては、随所に職人にしかできない長年の経験と技術が生かされています。

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(写真:糊のタンク)

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(写真:糊と顔料を混ぜている様子)

最重要行程であるドクターの刃研ぎは捺染士の腕の見せ所

ローラー捺染でもっとも重要なのは、先ほど紹介しましたドクターブレードと呼ばれる鋼(はがね)の刃。このブレードは切断するためのものではなく、顔料を掻き取るためのものです。彫刻の深度、顔料の配合や糊の粘度に加え、このブレードによっても色の具合を調節しているのだといいます。 たとえば、ロール面に対して刃を立てると糊を掻き取る量が増え、色味は薄くなり、逆に刃を寝かせると糊が多く塗布され、色味は濃くなります。さらには刃の角度だけでなく研ぎ方によっても色味が変わってくるため、ドクターブレードの刃は柄が変わるたびに研ぐ必要があります。 職人は研磨機をほとんど使わず、自らの手で、日々ヤスリで研いだあと砥石を使ってさらに磨きをかけていきます。せっかく前工程でさまざまな色調整をしてきたにもかかわらず、ここで刃の具合によって色味が転んでしまってはすべてが台無しになってしまうからです。 こうした職人は「捺染士」と呼ばれています。職人の世界で「士」がつく仕事は少なく、捺染技術者に対する評価の高さが伺えます。

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(写真:ドクターブレードと呼ばれる刃)

こうして色彩計画から材料作り、ドクターブレードの刃研ぎにいたるまで、準備段階から精緻な職人技によって支えられたローラー捺染による染色行程は、いよいよ本刷りへと進んでいきます。

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