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産婦人科医・高尾美穂

働く女性におつかれさま。まだまだ男性ベースの社会で働くということ

※2023年3月8日改訂。「国際女性デー」にちなみ、記事を再編集し再掲します。

3月8日は国際女性デー。あらためて「女性が働くこと」について高尾美穂先生にお伺いしました。

「男女雇用機会均等法」が発布された1986年から36年。たとえば、4年制大学を出て新社会人となった人は、50代半ばです。本当に頑張って来られたと思います。
女性が結婚や出産を期にキャリアを断つのが当たり前だった時代にくらべ、現在はライフステージが変わっても働き続ける女性が増えました。でも「働きやすいか」と言われると疑問符がつきますよね。

私は産婦人科クリニックの医師であると同時に、産業医としていくつかの会社と関わっており、2022年は『内閣男女共同参画局』での講師のお仕事もお引き受けしています。

人口減少が進む日本の経済を維持するためには、女性にも長くしっかり働き続けてもらいたいという社会事情があります。女性の働きやすい環境をつくるために意見を求められたときは、行政や企業に対して、私はまずこんな話をしています。

働く女性の道は落とし穴だらけ

働き盛りの20代、30代、40代の女性には毎月毎月繰り返して不調がやってくる「月経随伴症状」。生理痛もありうるし、PMSもあります。さらに妊娠出産というライフイベントは、女性が担わなきゃいけない。不妊で悩むこともあるし、逆に思いがけず妊娠しちゃったということもあるだろうし、妊娠期の不調や流産や早期出産、出産の痛みや産後の不調…。そして子育てがあります。それらのイベントが終わりかける40代後半から50代には更年期症状が出る人もいます。さらに、女性特有の病気である子宮頸がんや、乳がんも起こりえます。女性は本当に落とし穴がいっぱいのなかでキャリアパスを歩むのです。一方、20代、30代の男性からは毎月くり返すからだの不調、といった悩みはあまり出ません。

命を脅かすほどのリスクとして女性は20代の子宮頸がん、30代からの乳がんがあります。その数と比べれば、男性の20代、30代の発がんは極めて少ないといえます。

女性には体調に関わる課題が20代、30代、40代という若い年代でも起こりうることを社会に知ってもらえると、「確かに、女性って大変だね」と理解していただけることが多いです。女性の活躍に期待される前に、女性の健康支援を仕組み化したいという思いを、しっかり社会に伝えて共有しないといけないと思います。

男性ベースの社会を一緒につくり直すには?

一方で、男性の場合は、20代でも30代でも40代でも脂質異常症の人が増えていく傾向にあります。だから、健康診断の脂質代謝に関する項目が充実しているのです。でも、女性の働き盛りの20代、30代、40代で脂質異常症の患者は、ほとんどいません。なぜかと言えば、女性ホルモンであるエストロゲンによって脂質代謝が守られているから。閉経後には必要度が上がりますが、働く年代の女性に必ずしも必須の検査項目とはいえません。

女性特有の子宮頸がんや乳がん検診はオプション扱いであるケースが多く、男性に多い「脂質異常」に関しては健康診断の血液検査の中で、4項目から6項目は男女問わず入っています。

つまり、今までの社会で準備されてきたことは、男性ベースで準備されてきた事柄が多いのです。でも、社会のデフォルトが、男性向けであるということに、男性も女性も気が付いていないことが多いようです。

よく「ジェンダー平等」といいますが、「平等」とは、すべての人に同じものを配るっていう意味です。たとえば、コロナ禍で、一律10万円をみんなに配ります、というのが「平等」ですね。一方で、私たちが求めたいのは平等ではなく、「公平」なのではないでしょうか。

たとえ話をすると、高い塀があって、その向こうで楽しそうな野球の試合をやっている。でも、塀が高すぎるから見えない。その時に、この人には50センチの脚立があれば見えるでしょう。でも、この人は80センチの脚立に乗らないと見えない、この人は1メートルないと見えない。だったら、それぞれ50センチ、80センチ、1メートルの脚立を配りましょう。これが、「公平」です。

女性の健康支援についてのお話を企業などでした際に、男性から、自分たちにはしてもらってない、「不平等だ」という意見がでます。確かにそうなのですが、女性のキャリアパスにおけるたくさんの落とし穴を、まずは埋める、これが「公平」なんだという話をさせていただいています。ここが伝われば、男性の協力も得やすいと思います。

しかし、女性の側もたくさんの課題があることに気づいていないし、何を必要としていて、何を求めればいいのかについても、あまりわかってないのかもしれませんね。だからこそ、日本の社会はこれからまだまだ成熟できる余地があると言えます。そんな日本の実情が、116位というジェンダー指数に出ているのではないでしょうか(2022年11月現在)。

キャリアを続けるために「からだの予習」を

さて、ここからは、働く女性に対してお話したいと思います

男性がベースになっている社会のなかで、頑張って働いて結果も出してきた女性は多いでしょう。しかし、妊娠・出産を経てうまくキャリアに戻っていくことができずに悩んだり、キャリアの中断が怖くて妊娠出産をあきらめたりした人もいます。輝かしい実績を築いても、更年期の不調でキャリアをあきらめる女性も見てきました。乳がんの心配や親の介護なども、更年期あたりから始まります。

一度キャリアを中断すると復活が難しいことが多いのも現実です。女性が働くうえでは、自分のからだにこの先起こりうることを把握して、キャリアを途絶えさせないように計画することも大切です。

私たちが自ら声をあげて理解を求めることも時には必要とはいえ、個々の対策だけではカバーしきれませんし、企業は個人の頑張りに依存すべきではありません。私は産業医として、働く女性を支える仕組みをみなさんと考え、しっかり整えていくことが大切な仕事だと思っています。女性が働きやすい職場は男性も働きやすいものです。とくに人材確保が難しくなっていく今後は、だれにとっても働きやすい環境を整えることは企業や組織の重要なテーマとなっていくでしょう。

そして、「頑張りすぎないで」

私はリアルボイスという音声の相談番組を持っており、リスナーからさまざまな相談が寄せられます。その中には女性のキャリア相談がとても多いです。「今までバリバリ仕事をしてきたけれども、管理職になれず人生が暗くなった」という方。あるいは「仕事が好きだったが子どもを産んだら優先順位が変わった」という方。

おそらく、仕事に夢中だったときには今の自分は想像できなかったでしょう。そういった方には、今の自分を責めないでいただきたいです。

頑張り方はひとそれぞれですが、そもそも社会が男性ベースのなかで、今まで無理を続けてきたのではないでしょうか。気づかぬうちにメンタルが疲れ、燃え尽きてしまっているかもしれません。今が納得いく状況ではないとしても、この後の人生は長いのです。これからは、更年期後に、次なるセカンドキャリアを考えられる時代です。子育てもいつか終わります。自分はどのように生きたいかを整理する時間と考えるのもよいと思います。健康に働き続けるうちに、環境や社会のほうが変わっていくこともありえますから。

そして、子育てなどプライベートを優先するのもよいのではないかと思います。そもそも、自分のプライベートが幸せな状態でなければ、仕事は頑張れません。私は、働くことが苦ではなく、タフな人間だと思いますが、誰もが私のように働くべきだとは思いません。そして、プライベートの時間もとても大切で、自分の生活が幸せでいられるように仕事を続けていることは、私も皆さんと同じです。オンとオフをうまく切り替えて、ライフワークバランスを整えていきましょう。