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産婦人科医・高尾美穂

低用量ピルを「月経にまつわる不調」などの悩みの選択肢に〈産婦人科医・高尾美穂〉

こんにちは、産婦人科医の高尾美穂です。

女性特有の困りごとには、生理痛やPMS、生理不順、望まない妊娠などがありますね。月経にまつわる不調は女性の人生に影響を及ぼすため、辛い、煩わしいと感じるのであれば、月経をコントロールすることを選択肢にいれてみても良いのではないでしょうか?

それを叶えてくれるのが低用量ピルです。

低用量ピルを飲むと月経周期が安定し、28日周期でやってくるのでスケジュールを立てやすくなります。排卵が起きなくなるので避妊できるわけですが、生理前という時期自体がなくなるのでPMSも起こらず、生理痛も改善します。経血量も減って月経が軽くなります。

ヨーロッパやアメリカでは一般的なお薬ですが、日本ではまだまだ。メリットとリスクを理解して、必要以上に恐れず、月経困難症や避妊などの課題解決のファーストチョイスにしていただけたらと思います。低用量ピルについて詳しく解説していきます。

低用量ピルとは?

低用量ピルは、卵胞ホルモン(エストロゲン)と黄体ホルモン(プロゲスチン)という女性ホルモンが配合された、月経周期をコントロールできる飲み薬です。
マイナートラブルを減らすためにホルモン量を低めにしていることから「低用量ピル」と呼ばれています。

避妊薬として用いられるほかに、月経周期をコントロールして月経にまつわる不快な症状の緩和を目的として処方されます。低用量ピルで排卵を止めると子宮内膜が厚くなるのを防ぐことができるので、月経困難症や子宮内膜症、過多月経などの治療にも使われます。また、多嚢胞性卵巣症候群が原因の無月経の治療にも用いられます。

低用量ピル以外にピルと呼ばれているものに、緊急経口避妊薬(アフターピル)、中用量ピル、ミニピルがあります。これらは、配合されるホルモン量による違いで用途や用法が変わります。以下は「低用量ピル」に絞って詳しく解説します。

低用量ピルの種類

低用量ピルに配合されている女性ホルモンのひとつ、プロゲスチン。これは人工的につくられたプロゲステロン(黄体ホルモン)です。この黄体ホルモンの種類によって低用量ピルの種類は、第1世代から第4世代まで分類されています。避妊と月経周期のコントロールができることは共通ですが、世代ごとに効能や副作用が違います。

第1世代:黄体ホルモン「ノルエチステロン」
子宮内膜症や月経困難症の治療に用いられます。副作用としては不正出血がみられます。

第2世代:黄体ホルモン「レボノルゲストレル」
第1世代の不正出血の副作用が押さえられ、避妊効果が高く生理不順の改善効果が期待できます。

第3世代:黄体ホルモン「デソゲストレル」
ニキビや多毛症など肌トラブルの改善効果があります。副作用としては、血栓症のリスクが他世代より高いことがあげられます。

第4世代:黄体ホルモン「ドロスピレノン」
ホルモン量が非常に少なくなるため、副作用はあまりなくおだやか。肌の改善効果はなく、月経困難症やPMSの治療に向いています。「ヤーズ」はPMSのなかでもイライラや落ち込みなどのメンタル症状がとくに強い場合やPMDD(月経前不快気分障害)に有効です。「ヤーズフレックス」は月経を3か月に1度に減らしてくれるものです。

第1世代 第2世代 第3世代 第4世代
黄体ホルモン ノルエチステロン レボノルゲストレル デソゲストレル ドロスピレノン
特性・効能 月経困難症
改善◎
PMS改善
子宮内膜症治療
避妊効果
PMS改善
月経周期の安定
肌荒れ/ニキビ治療に有効
PMS改善
生理痛緩和
副作用の心配なし
むくみにくい
PMS改善
子宮内膜症治療
副作用懸念 不正出血 血栓症
薬剤名 フリウェル トリキュラー マーベロン ヤーズ
シンフェーズ アンジュ ファボワール ヤーズフレックス
ルナベル ラベルフィーユ ドロエチ
ジェミーナ

ピルを飲むとなぜ避妊できるのか

ピルには2種類の女性ホルモン、エストロゲンとプロゲステロンが配合されています。ピルを飲むと、脳の視床下部が既にこの2つのホルモンが分泌されていると錯覚し、これ以上ホルモンを出す必要がないと判断し分泌を抑制します。エストロゲン分泌のピークもないので排卵も起きません。避妊できるのはそのためです。加えて、子宮内膜が厚くならないので、子宮内膜症の対策にもなります。

ピルを飲むと起こること

  • ①卵胞ホルモン(エストロゲン)と黄体ホルモン(プロゲスチン)の分泌を抑えて、排卵をストップさせます。受精するための卵子が排出されない状態になります。
  • ②子宮の入り口の粘膜が厚くなって精子が侵入しにくくなります。
  • ③子宮内膜が厚くならないように作用するので、受精卵が着床しにくくなります。

低用量ピルの副作用リスクと誤解
低用量ピルの副作用のリスクについて確認します。よくある誤解もありますので、正しい知識を身につけて判断してください。

マイナートラブル(不正出血・吐き気・倦怠感・頭痛)
ピルを服用することでホルモンバランスが変わるため、不正出血や吐き気、倦怠感といったマイナートラブルが起こることがあります。これも2~3か月すれば落ち着く人が多いです。これらのマイナートラブルによって、大きな後遺症が残るということもありません。ピルの種類によってはからだに合わないと感じる場合もあるので、トラブルが続く場合は医師に相談してみましょう。

血栓症
飲み始めの頃に血栓症のリスクが最も高くなります。年齢的に血栓症のリスクが高まる40歳を超えて、飲み始めることは慎重になる必要があります。

誤解①太りやすい?
そのほか、低用量ピルの服用をおすすめすると「ピルは太る」と心配される方がいらっしゃいますが、確かにピルの服用をスタートしたばかりのときは、一次的にむくみが出るため、からだが重く感じられるかもしれません。しかし、2~3か月服用を継続すれば、気にならなくなります。

誤解②妊娠しにくい?
ピルを飲んだことによって、妊娠しにくくなるということはありません。むしろ、不妊の原因となる子宮内膜症の悪化を防いでくれます。ただし、避妊薬なので服用している間は妊娠しません。

低用量ピルの価格

低用量ピルは、OC(Oral Contraceptive)とLEP(Low-dose Estrogen Progestin)の二種類があります。避妊目的で使われる低用量経口避妊薬はOC、月経困難症や子宮内膜症の治療に用いられるものはLEPと呼ばれます。どちらも、生理痛の改善、経血量減少、月経周期のコントロール、PMSの改善などに効果があるのは同じですが、LEPは保険適用になるのに対し、OCは保険適用がなく、全額自己負担になります。保険適用の場合は1か月1,000~3,000円弱、保険適用外の場合は2,000~5,000円が目安です。加えて、初診や医師の診断が入った場合は診断料がかかります。

保険適用外(OC)
避妊目的の場合は保険適用外です。避妊用に用いられる種類の低用量ピルの場合はすべて保険適用外となります。また、PMSやPMDDの改善目的で処方される場合も保険適用にはなりません。

保険適用(LEP)
避妊を目的とせず、子宮内膜症や月経困難症の治療のために低用量ピルを服用する場合は、保険適用となります。

どこで処方してもらえるの

どんなピルも婦人科医の診断が必要です。最近はオンライン診断でもピルを処方できるサービスもあります。

低用量ピルを処方できない人
乳がんや子宮体がんなどのエストロゲンによる病気がある人や血栓症のリスクが高い方(具体的には喫煙者やBMI25以上の肥満の方、高血圧、心疾患既往の方などです)は、ピルの処方ができません。まずは、婦人科医の診断で既往症などを正しく報告しましょう。妊娠中、出産後6か月以内の方も服用できません。40歳以上の方で初めてという方にも低用量ピルは処方されません。さらにホルモン量の小さいミニピルを処方されることもあります。

低用量ピルの飲み方

錠剤を21日飲んで7日休むというサイクルですが、飲み忘れを防ぐために最近は28錠タイプ(うち7日分は偽薬)が主流です。毎日、決まった時間に飲むのがおすすめです。

飲み忘れた場合
飲み忘れた場合は、1日~2日未満であれば気づいたときに飲みます。飲み忘れた場合は、避妊効果が落ちます。3日飲み忘れると月経が起こります。3日以上飲み忘れ期間がある場合は、翌月の月経初日まで低用量ピルの服用を休みます。

〈まとめ〉低用量ピルを活用して快適な人生を

低用量ピルは、避妊目的だけでなく、月経困難症や子宮内膜症、PMSの治療に使われている便利なお薬です。1960年にアメリカで認可された経口避妊薬に改良を加え、1973年に低用量ピルが誕生しました。約50年のエビデンスの積み重ねがあるわけです。しかし、日本では、「自然のままがよい」という価値観が強く、リスクもことさらに心配されてなかなか普及しませんでした。

スマホやパソコンが必需品だと思う方は多いと思いますが、これも「自然のまま」ではありませんよね。より快適にテクノロジーを活用することに罪悪感を覚える必要はないし、もう我慢が美徳とされる時代ではありません。

女性が能力を発揮しながら働き、気持ちよく人生を過ごすためには、痛みに耐えたり、望まない妊娠の不安を抱えたりといった困難を減らすことが必要です。そのために低用量ピルという便利なお薬があるのだから、これを活用しない手はありません。そのことを女性であるわたしたちが前向きに求めていくことで、社会全体の理解度が高まっていくと思います。

最近では、産婦人科医オンライン診断と低用量ピルの定期処方(サブスク)のセットサービスが生まれ、スマホひとつで気軽にオーダーできるようになりました。このようなサービスが企業の福利厚生に導入される実例もできました。

働く女性が健康の維持について所属する企業から「支えてもらえている」と感じることは、ビジネスの目標を達成するうえで有効である、と気づいた企業から変わり始めています。いずれは働くすべての人が女性の健康課題をある程度把握している社会を目指したいですね。

参考:
高尾美穂著『女性ホルモンにいいこと大全 オトナ女子をラクにする心とからだの本』(扶桑社BOOKS)
高尾美穂著『大丈夫だよ 女性ホルモンと人生のお話111』(講談社)

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