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【産後のからだとメンタルのこと。体型回復はできるの?】産婦人科医・高尾美穂先生✕ワコール人間科学研究開発センター

「一生を通じてわたしは、どのように変化していくのか?」女性の体型やホルモンによって起こる変化を追い続けている専門家によるディスカッション。

第4回目のテーマは「産後のからだとこころ」です。

妊娠で変化するからだや、産後多くの人が抱える「体型が戻らない」悩みにどう向き合えばいいのか。そして、さまざまな理由で増える帝王切開の実情と、妊娠出産のいろんなシーンに下着はどう寄り添えるのかを話し合いました。

→第1回【女性の一生、これからわたしの体型はどう変わる?】はこちら
→第2回【太りやすい?!更年期のからだは意識してつくって】はこちら
→第3回【初経(初経)前後で変化するからだ】親は初ブラを機会に性教育を積み重ねてはこちら


  • 撮影/藤沢大祐
  • プロフィール
    高尾美穂先生(産婦人科専門医・医学博士・婦人科スポーツドクター)
    /女性のための統合ヘルスクリニック イーク表参道 副院長。ワコールフェムケアポータルサイトのアドバイザー。近著に「更年期に効く美女ヂカラ」リベラル社刊がある。

  • 撮影/合田慎二
  • 坂本晶子さん(ワコール 人間科学研究開発センター 主席研究員)/ワコール入社以来、人間科学研究開発センターにて、乳幼児~成長期、妊娠期を含む成人女性の人体計測に取り組み、女性美やエイジングなどの研究からの情報発信や、研究成果を活用したブラジャーやガードルなど下着の製品開発を担当。2020年には、微小重力研究から「重力に負けないバストケアBra」を開発。

2カップもバストが変化する、妊娠期のからだ

___マタニティ期のからだについて考えるにあたり、妊娠から産後までどのようにからだは変化するのか教えてください。


出典:ワコールウェブストア「はじめてのママお役立ちガイド」

ワコール人間科学研究開発センター坂本さん(以下、ワコール坂本さん): この図は、妊娠から出産を経て、産後までのバストのボリューム変化をあらわしたものです。妊娠を期にだんだんバストボリュームがアップし、おなかも大きくなっていきます。

バストのボリューム変化では、妊娠初期の3ヶ月の時点では、3分の2(2/3)カップほど大きくなり普段つけているブラジャーがきつくなってきます。5ヶ月以降の妊娠後期になると2カップぐらい大きくなってきます。出産直後のバストは、乳腺の活動が活発になり、ますます大きく重くなります。やがて授乳前後での違いが大きくなり、だんだん張りなどが落ち着いてきます。

産後6ヶ月の人の約7割が、体型が戻らないことに悩みを抱えている

___妊娠・出産を経て大きく変わった体型を、産後どう戻していくのかというところに関しては多くの方が悩まれていると思いますが、いかがですか。

ワコール坂本さん: 産後における体重・体型の戻りに関しての意識調査では「できれば戻したい」「何としてでも戻したい」という意見を足し合わせると、ほぼ全員が「体型を妊娠前に戻したい」と回答する現状があります。


(資料提供/ワコール 人間科学研究開発センター「現代マタニティのからだ意識」)

ワコール坂本さん: 産後1〜6ヶ月の方の「体重と体型の戻りの実態」を調査した上記の円グラフ(左側)では、約半数(54%)の方が「体重が戻った」と答えています。

しかし、右側の円グラフを見てください。産後体重が戻ったという54%の方に、体型のことを聞くと「体型は戻らなかった」と感じている人が74%もいることがわかりました。つまり、「体重は戻ったけど、なんだか体型が戻っていないな」と悩む方が多いことがわかります。


(資料提供/ワコール 人間科学研究開発センター「現代マタニティのからだ意識」)

ワコール坂本さん: さらに産後期を1ヶ月、3ヶ月、6ヶ月と分けて、体型の戻りの実態と意識を追いかけていきますと、産後1ヶ月では「予想通りの変化」という人が約6割なんですが、産後6ヶ月になると「予想通り」という回答が3割を切ってしまうんです。

___産後6ヶ月の人の7割ぐらいが、体型が戻らないことに悩まれているんですね。

高尾美穂先生(以下、高尾先生): 産後1ヶ月くらいの人たちが「予想通りに体型が戻っている」と答えているのは、おなかが出っ張っていたのがへこんだぐらいの感覚ですよね。6ヶ月ぐらい経ったときに、自分の状態を見て、元に戻したいという思いをみんなが持つっていう結果が、本当に「なるほどな」と思います。

元に戻すという考えから「困っていることをなくす」意識チェンジを

___産後に骨盤の開きや体型を戻す対策は、早ければ早い方がいいんでしょうか?


撮影/藤沢大祐

高尾先生: そもそも、靭帯は妊娠前の状態には戻らないんですよね。「骨盤が開いたのを戻す」とよくいわれますが、実は完全に元通りになることはないんです。

なので、「元通りに戻すんじゃなくて、いま困っていることがよくなるといいね」という考え方を、出産を経た方には話すようにしています。

イメージとして、産後6ヶ月ぐらいまでの靭帯が、柔らかい紙粘土の状態だとして、それ以降は固まっちゃう。からだのゆがみやたるみなどが気になっていて何か対策をしたいんだったら、それまでにやっておいた方がいいよねということはあります。

だけど、生後4-5ヶ月くらいまでの時期って、赤ちゃんがちょこちょこ目を覚ますわけですよ。特に夜は。

産後、睡眠不足やメンタルの調子が悪い人だってたくさんいるし、そういう時期に痩せようとか、元通りにしようとか、実は本当に難しいことだと思っていただきたい。

産後9ヶ月や12ヶ月ぐらいの人だと、以前と同じように戻ったわけではないけど、体型や生活のスタイルが元に近づいてきたとか、夜寝られるようになったとか、仕事に復帰できたとか、いろんな要素を含めて、若干マシになってきたと思えたりするんじゃないでしょうか。

私は、産後の体型の変化は、妊娠で変化したのと同じくらいの時間がかかるよ、ということは伝えていますね。

___産後のからだについてワコールとしてはどんな提案をされているのでしょうか

ワコール坂本さん: ワコールとしては、妊娠出産で大きく変わるからだをいたわって、「マタニティの時期を快適に暮らしましょう」と提案しています。出産直後から約1年の間に3つのSTEPで、からだの変化とつけごこちの好みやご要望に合わせたアイテム選びをおすすめしています。

出産後の変化が大きいバストには、授乳のしやすさやサイズの変化に対応するブラジャーを用意しています。

下半身に関しても、産後1ヶ月ぐらいまでは動きやすく骨盤周りを少し支えるように、婦人科検診などが終わって、からだを動かしてもよくなれば、元の生活に徐々に戻れる手助けとなるように、そんな商品づくりをしています。
「骨盤をサポートしたい人はベルトで支えてあげる」とか「腹帯をまくのは大変だからガードルタイプを」というような、お悩みに合わせたアイテムを揃えています。

高尾先生: 骨盤周りをサポートするような下着であれば、歩いたり長時間立ちっぱなしになったりするときはとても楽ですよね。

妊娠期にはおなかの筋肉も、腹直筋離開(ふくちょくきんりかい:おなかを縦に走る筋肉を腹直筋といい、妊娠によりおなかが大きくなることで左右の腹直筋の間が開いていく状態)がたいてい起こっているので、産後は腹圧を高めにくいんです。当然アウターの筋肉もうまく使えないので、なかなかおなかを引き締めるのは難しいですね。下着などを使って上手におなか周りをギュッと寄せることで腹圧を高めやすくなるので、アウターマッスルが使いやすくなります。下着でできる産後サポートのひとつですよね。

___ほぼ全員が「体型を戻したい」と思っているけれども、難しいのでしょうか。


撮影/藤沢大祐

高尾先生: 体重が戻ったけれども体型が戻らないという状態というのは、簡単にいうと、大臀筋(だいでんきん)が伸びたり、太ももの骨の出っぱった部分である大転子(だいてんし)と大転子の間が開いたりして、骨盤の状態が変わったということだと思うんですね。そのため、体重が戻ったけどパンツのサイズが上がったままだといった声が出てくる。

ワコール坂本さん: 「ウエストの引き締まりがなくなった」「おなか周りのハリがもうちょっと戻るといいのに」といった不満の声も多いのですが、そのあたりは何かできることはあるんでしょうか?

高尾先生: そもそも、皮膚の面積自体が大きくならないとおなかが大きくなれないので、基本的には皮膚も引っ張られて伸びているんですよね。引っ張られた皮膚が余っているという状態は、産後のお母さんのおなかの状態としてはごく普通です。

たとえば産後、筋トレをしてしっかりと筋肉が皮膚の下に張ってくれば、引き締まってずいぶん印象も変わるかもしれません。けれども、産後のお母さんのおなかは基本的に柔らかい状態です。だから、「戻った」という気持ちになれないかもしれませんね。

つまり、自分のからだに対する満足度が低いんだろうなと思います。でも、いろんなものが元には戻らないということが大前提であることを知ってもらう方が、建設的なプラン、これから先の産後のプランというが立てられるんじゃないかなと思っています。

ワコール坂本さん: おなか周りの変化が気になる場合、産後用ガードルでシルエットをととのえることもできます。それによって、外出したり職場復帰する際の不安が和らいだり、気持ちの切り替えになることも。特にマタニティ期専用の下着だと、育児中の生活や姿勢を考慮してストレッチ性が高いものも多いので、うまく活用していただけるといいなと思います。

帝王切開の割合が増えているいま、産後専用の下着に求められることは?


撮影/石川奈都子

ワコール坂本さん: 最近、帝王切開で出産される方が多くなっているという声も聞いていて。マタニティ期の商品企画や開発にもつながるのですが、お産事情はどういった変化があるんでしょうか。

高尾先生: 帝王切開の割合は、お産全体の20%から25%ほど。日本において4人、5人に1人は帝王切開で出産しています。この割合は、昔に比べて高くなってきています。

ひとつは、大きな子宮筋腫などがあって経腟分娩ができない人や、血圧が高めの人など、出産年齢が高くなるにつれてベースに不調を抱えていることも少なくないので、そういうケースは最初から帝王切開での分娩を選ぶことが多いですね。

ふたつめは、不妊治療で授かった子などは、ちょっと心音が下がると、多くは帝王切開に切り替えます。早めに対処を求められるケースともいえます。「40歳を過ぎて、不妊治療で妊娠しました。いま授かったこの子しか子は望めません」という妊婦さんは、結構な割合で帝王切開になります。

ワコール坂本さん: 持病や年齢などさまざまな理由を抱えるなかで「必ず無事に産みたい」という声があるのは確かにそうですね。

高尾先生: 最後に、帝王切開が増えているのは、出産の高齢化に加えて、やっぱり訴訟のリスクですね。すべての診療科において私たち産婦人科医がもっとも訴訟率が高い。

それはなぜかというと、病院って、できなかったことができるようにするのを目的とした診療がほとんどなわけですよ。「歩けなかったのが、治療で歩けるようになった」みたいな。

ただ、産婦人科って「何もなくて当たり前」ってみんなが思ってる。でも実際、赤ちゃんは亡くなるケースもあるし、お母さんだって10万件のお産あたり、だいたい3、4人亡くなっています。年間80万件弱のお産があると考えると、安全で衛生的な日本でも約30人、お母さんはお産で命を落としてるわけです。

もしそういったことが起こると、そこに立ち会う医者は訴訟される可能性が高く、そうならないように、もっと手前の段階で「帝王切開にしておきましょう」という選択が増えますよね。

この3つは、今の日本だとある程度納得される理由だと思います。

___増えている帝王切開の人にも安心して使える下着は、どのようなものであればいいんでしょう。

高尾先生: どんな腹部手術の患者さんでも使えて、傷を抑えつけないような「おなかを守る」ようなものは、あるといいんじゃないでしょうか。

女性は、20代、30代でも卵巣のう腫の手術をする人がいらっしゃるので、帝王切開だけでなくても、おなかを切る手術を経験する女性の割合は、男性よりはるかに高くなります。なので、帝王切開の手術も含め、腹部を守りたい女性に向けた下着があってもいいと思います。

ワコール坂本さん: 骨盤周りを少し支持してあげるサポートは、帝王切開の方も同じでいいんですか?

高尾先生: 経腟分娩でないと、骨盤の一番下が広がるっていう変化は経験していないので、帝王切開の人はそこまでのダメージはないですよね。

骨盤底筋も同じで、骨盤底筋が大きく引き伸ばされるという最大のダメージを経験せずに過ごしていけるのが帝王切開で分娩された方たちです。

ワコール坂本さん: そのかわり帝王切開の方は、術後の痛みや手術跡のケアが悩ましいですね。骨盤の広がりを締めるよりも、傷に当たらないような工夫や筋肉を使いやすくするなど、開腹による戻りをサポートすることが、帝王切開のお産をはじめ、手術でおなかを切った人には大事なんですね。

出産という大イベントを乗り切った産後のからだ。まずはいたわりたいですね。体型変化もネガティブに捉えずに、「戻さなきゃ」ではなく、「これから、ここちよいからだをつくっていく」と捉えてみるのもよいかもしれません。

全4回にわたり、産婦人科医・高尾美穂先生と、ワコール人間科学研究開発センターの研究員・坂本さんによる対談をお届けしました。

バストの膨らみから初経を経て大人の女性への変化。妊娠・出産という、心身へ大きな影響を受けながらも、命を産み育てる大きな大役を担う変化。そして更年期もまた大きなからだの変化がやってきます。

一生を通じて変わっていく女性のからだと、その実情を女性自身が知ることで、心身ともにすこやかな日々を将来にわたって過ごしていけますように。

取材日:2023年7月25日