乳がんの治療の流れ

乳がんは、がんの中でも
選択できる治療が多いと言われています。
治療法は、大きく分けると、
乳房にできたがん細胞を取りのぞく「局所療法」と、
乳房から血液やリンパの流れにのって
全身に運ばれたがん細胞をたたく「全身療法」があります。
また、乳房切除後に再建する方法も選択できます。

  • 局所療法
  • 全身療法

がんの治療法の現在の基準となる
治療法のことを指します。
平均的という意味ではなく、
現在利用できる最善、最良の治療です。

<参考>
科学的根拠(EBM:Evidence Based Medicine)に基づく医療とは?
標準治療のほとんどは、科学的根拠に基づく医療で行われます。「科学的根拠」とは人を対象とした臨床試験などにより導かれた根拠(エビデンス)のことです。

乳がん治療の流れ

非浸潤がん
乳管内に乳がんがとどまっている初期段階のがん。
浸潤がん
乳がん細胞が乳管を破り、周囲の組織まで及んだがん。

※上記のがんの種類によって、チャート図のように、複数の治療法を組み合わせて行います。

※ひとりひとりのがんのタイプなどによって、使う薬が選択されます。

それぞれの治療について、簡単にご紹介します。

手術療法

乳がんの治療では、手術によってがんを取りきることが基本です。手術は大きく分けて、乳房を残す(温存)する「乳房部分切除術」と、乳房を全部切除(全摘)する「乳房切除術」があります。また、「乳房切除術」後に行う「乳房再建術」もあります。

乳房部分切除術

がんの腫瘍に1~2cmの安全域をつけて、乳房を部分的に切除します。がんを確実に切除し、なおかつ患者さんが美容的に満足できる乳房を残すことを目的として行います。乳房部分切除術を選択できるかは、個々の患者さんの状況で決定されます。がんの大きさや位置、乳房の大きさ、本人の希望などが重要な点であり、手術を担当する医師とよく相談して決めます。しこりが大きい場合は、術前薬物療法によって腫瘍を小さくしてから手術を行う場合があります。

乳房切除術

乳がんが広範囲に広がっている場合や、複数のしこりが離れた場所にある多発性のがんの場合は、最初から乳房を全部切除する乳房切除術を行います。
乳房切除術には、乳頭・乳輪を切除する、乳頭・乳輪を残す、乳頭・乳輪を切除するが乳房皮膚を残すなどの手術があります。

放射線療法

放射線療法は、高エネルギーのX線や電子線を体の外から照射します。がん細胞を通過した放射線により、細胞の増殖を阻害しがんを小さくしたり、無くしたりする目的の治療法です。放射線照射を行った部分だけに効果を発揮する局所療法です。乳房部分切除術のあとには、通常行います。

乳房再建術

乳房切除術後に、患者さん自身のおなかや背中などから採取した組織(自家組織)、あるいはシリコンなどの人工物を用いて、新たに乳房をつくることを乳房再建といいます。乳頭を形成することもできます。現在は、自家組織、シリコンの場合も共に保険が適用されます。

乳房再建を考えている患者さんに、よく聞かれることとは?

おっぱいを失っても取り戻せる!進化している乳房再建の現状とは?

手術療法

薬物療法は、「全身に潜んでいる可能性のあるがん細胞を攻撃する(手術前後の全身療法)」、「手術の前にがんを小さくする」、「根治目的の手術が困難な進行がんや再発に対して、延命、及び生活の質を向上させる」などの目的があります。病期(ステージ)、リスクなどによって選択します。どのような薬物をどのように組み合わせて治療を行うかは、がんの広がりや性質、病理検査の結果によって検討します。

内分泌(ホルモン)療法

女性ホルモンの分泌や働きを妨げることで、乳がんの増殖を抑える治療法。手術後に、「ホルモン受容体陽性」*の乳がんかどうか、がんの組織を詳しく調べます。「ホルモン受容体陽性」の乳がんであれば、女性ホルモンが、がんの増殖に影響していると考えられるため、女性ホルモンを少なくしたり、その作用を抑えるホルモン療法が効果的です。

※ホルモンが作用する受容体(タンパク)をもっていることをホルモン受容体陽性といいます。

化学療法(抗がん剤)

がん細胞は正常細胞と異なり、際限なく増殖し続ける性質があります。化学療法は抗がん剤によって、細胞増殖に必要なDNAに作用したり、がん細胞の分裂を阻害することで、がん細胞の増殖を抑えます。

分子標的治療法

分子標的治療薬は、がんの増殖に関わっている分子を標的にして、その働きを阻害する薬。分子標的治療薬は、がん細胞を狙い撃ちに治療をするため、一般的には抗がん剤より副作用が、軽いことが知られています。

このように、乳がんの治療の種類、選択肢は多く、一人ひとりによってその治療法は異なります。乳がん治療は、個別化治療となっており、オーダーメイドの治療へ向かっています。

執筆/増田美加(女性医療ジャーナリスト)

監修/認定NPO法人乳房健康研究会

参考文献:「ピンクリボンと乳がんまなびBOOK」福田 護 認定NPO法人 乳房健康研究会 編著