定例研究会レポート

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<コロナ時代が変える私たちの生活と意識>
第1回 コロナ時代が変える出産・授乳・育児
2021年6月19日(土)

<コロナ時代が変える私たちの生活と意識>

■講演テーマ・講師
“科学の視点からヒトの育ちに必要な条件を考える
―親子はともに社会で育てるべき対象である”
 明和 政子 先生
 (京都大学大学院 教育学研究科 教授)

“オンラインの妊産婦支援”
 杉浦 加菜子 先生
 (じょさんしONLINE 代表)

“父親が子育てをおもしろがる社会の実現について”
  篠田 厚志 先生
 (NPO法人 ファザーリング・ジャパン関西 前理事長
/株式会社Drop 取締役CHRO)

■パネルディスカッション
コーディネーター :廣瀬 潤子 運営委員
          (京都女子大学 家政学部 教授)
パネリスト: 明和先生、杉浦先生、篠田先生

新型コロナウィルス感染症の世界的拡大(パンデミック)は、世界中でこれまでの社会・経済・政治を大きく変革させ、私たちの働き方や家庭生活にも大きな影響を与えています。また、これまでに「あって当たり前」と考えられてきたケアに対する問題点が顕在化し、意識のアップデートが求められています。コロナ時代が変える、コロナ時代だからこそ変えていく「出産・授乳・育児」「マザリング・ファザリング」について考える研究会を2回にわたって開催します。その第1回として「コロナ時代が変える出産・授乳・育児」というテーマで3人の先生に講演とパネルディスカッションをしていただきました。

まず、『科学の視点からヒトの育ちに必要な条件を考える』というテーマで明和政子先生に講演いただきました。ヒトは養育者の身体接触なしには生存できない生物であり、身体接触を基本とする子育てにおいてコロナ禍での「“新しい生活様式”とどう両立させていくか」が大きな問題であること、身体接触が赤ちゃんの脳と心の発達に極めて重要であること、身体感覚には内受容感覚と外受容感覚があり、内受容感覚の心地よさと同時にしっかりとした身体接触による外受容感覚を記憶として結びつけることで脳や心が発達していくこと、コロナ禍での“新しい生活様式”やベビーテックなどの発展によって養育者との身体接触が減ることの弊害を指摘されました。また、生物学的な女性としてのヒトは子どもを産む役割は持っているが、子どもを養育することを一気に担う役割を持って進化はしていないこと、ヒトは共同養育という形質を獲得しながら20万年以上かけて進化してきた生物であるというお話をいただきました。つまり、現代社会のように母親のみに負担が集中する子育ては、ヒトにとって非常に不自然であること、「母性」「父性」といったものは生れつきあるのではなく、身体接触しながら子育てをすると女性、男性に関係なく脳の活動が変化すること、「親性能」と呼び、従来、言われてきた母性や父性という言い方はやめて、親性(おやせい、しんせい)と呼ぶ活動をされていることを紹介いただき、科学的なエビデンスに基いた子育てや親性の重要性をお話いただきました。

次に『オンラインの妊産婦支援』というテーマで杉浦加菜子先生に講演いただきました。ご自身が初めての育児をオランダで孤独と不安を感じられた経験から、世界のどこにいても、どんな状況でも、安心して妊娠、出産、育児ができる社会にしたいという思いから2019年に「じょさんしONLINE」を創業されたこと、主な活動は、妊産婦へのオンライン講座、個人相談や企業、団体、行政との取り組みであること、現在、新しい取り組みとして「オンラインMy助産師プロジェクト」をスタートされていることなどをお話いただきました。また、コロナ禍において2020年3月にオンライン両親学級~緊急企画~を実施され、世界16か国にいる1,500名近い日本人妊産婦と家族の方が参加されたこと、開催する前は、コロナに関連する質問が多いかと思っていたが、実際開催してみると、不安の根幹にあるのは、妊娠中の過ごし方や出産に関する質問、産後の生活に関する質問など、コロナだから不安になっているのではないということがわかったそうです。当然、オンラインで全てのことができるわけではなく、直接見られない、触れ合えないデメリットがあるが、里帰り中で夫婦別に住んでいる場合や単身赴任中のために離れて住んでいる夫婦が同じ講座を受講して情報を共有したり、聴覚障害の方が目で資料を見ながらチャットで質問されたり、行政・病院・両親学級には行かされた感があるパートナーの方が気軽に参加されたり、コロナ禍によって今、変化をするチャンスをもらっていると感じること、コロナ禍における共同養育として人に会えない、直接かかわることができないことによる不安や孤立感がますからこそ、母親だけでなく養育者の方々の関係性を強化することが大事である、人との繋がりを大切にし、母親だからできて当然だよねという風潮をなくしていくことが大切であると感じるとお話くださいました。

ご講演最後は『父親が子育てをおもしろがる社会の実現について』というテーマで篠田厚志先生に講演いただきました。最初に3月まで理事長をされていたファザーリング・ジャンパン関西の活動を紹介いただき、お父さんをいかに前向きにポジティブに子育てに巻き込むかを考え、「子育てをおもしろがる」ことを大切にし、常々発信されていること、「父子留学」や「パパティーチャー」などユニークな活動や父親を中心とした親子・子育てのコンテンツ作成や働き方改革、育児休業取得向上のコンサルティング、自治体とのイベント啓発などをされていることをお話いただきました。男性の家事育児の時間が少ない原因のひとつは、やはり働く時間の長さであること、お父さんの帰宅時間で一番多いのは8時台で、8時台に帰ってきて家事育児で何ができるかというと入浴ぐらいで、日本は他の国に比べて育児内容で入浴だけが異常に高いこと、それで育児参加しているつもりの父親が多いこと、育児には育児サイクルがあって、1日の中で育児サイクルが何回も繰り返され、「入浴」「食器洗い」ひとつでも、その前後の流れの中で、いつのタイミングでするのか「理由づけ」と「ゴール」があり、それを理解せずに、「入浴」させることだけを見ていてはいけないこと、夫婦関係にはコミュニケーションが非常に重要で、家事育児の分担が分担量ではなく、その分担割合への満足度、納得度が大事であること、一方で、お父さんたちが育児に興味がないかというと、全然そういうことはなく、ある新入社員向けの調査では、約8割の方が、子どもが生まれたら育児休業をとりたい、一緒に子育てに関わりたいと思っており、若い人を中心に子育ての意識がどんどん高まっていると話されました。また、子どもが好きになる人の特徴として、ひとつが「快」を与えてくれること、不快を取り除いてくれること、もうひとつが「安心」「安定」を与えてくれることを常にお父さんたちに伝え、当然、思いつきで何かイベントをやるよりも子どもの求める繰り返しの要求に根気よく答えてあげることが大事であり、お父さんが自然と子育てに関わることを世の中すべてが当たり前に意識しているようになること、そのためにもお父さんたちの「させられ感」ではなく、「自然といつの間にかポジティブに巻き込まれている感」を意識して活動されていることをお話くださいました。

パネルディスカッションでは「親性脳とホルモンの関係」や「学齢期の親性教育の重要性」「パパ向け講座」「子育て経験と企業でのパフォーマンス力」など、母性・父性でない親性を中心とした共同養育やコロナ禍での共同養育について3人の先生のお考えを聞かせていただきました。

今回は『出産・授乳・育児』をテーマに共同養育での役割を議論する研究会になりました。次回(10月23日)は、さらに、『マザリング、ファザリング』に焦点を絞り、今だからこそ、変えていくべき意識についてディスカションする研究会を開催したいと思います。

(事務局長 岸本泰蔵)

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