月光のイマジネーション。
最近、月占いが人気のようですね。新月の日に新しいことを始めるとうまくいき、満月の日には願いが叶うとききました。WACOAL DIAの2010秋冬展示会が開催されたのは、満月の日の前日から当日にかけてでしたが、今回のテーマは「月夜の華」。まさに月のパワーを思い切り感じることのできたコレクションでした。
会場は東京ミッドタウンのサントリー美術館内ホール。銀閣寺の向月台をイメージしたオブジェを囲む螺旋状の展示のほか、テラスにも淡いブルーのランジェリーやドレスをまとったトルソーが配置され、外界とつながった宇宙的な世界が完成。とりわけ風に吹かれて空気をはらんだ淡いブルーは、スモーキーな都会の空にとけ込み、なおかつ燦然と立ち上がってくるような不思議な印象でした。
この美しいブルーは、フランスの国窯として発展したセーヴル磁器から発想された色だそう。華奢で優美なセーヴル磁器のブルーの中でも、最も繊細な技術を必要とする高貴なアガサブルーに近いようですね。淡いのに深みがあり、空にとけ込みながらも負けることのない輝き。ワンランク上の色ってこういうことなのだなと思いました。
ほかにも、月の光をユニークな発想で表現した色や柄を心ゆくまで楽しみたい今シーズン。たとえば<地面を這う小さな生き物が月明かりを逆光に見上げた花の柄>なんていうのもあって、面白すぎ! 千鳥格子をモダンにアレンジした柄も斬新ですよ。透け感の加減により、遠目に見ると大ぶりの千鳥格子柄が浮き上がってきます。
歴史をまもり、夢をつくる仕事。
今回の展示会では、同美術館で開催中の「国立能楽堂コレクション展」も鑑賞できるというおまけがありました。日常着から発展し、独自の道を歩んだ能装束の織物や立体的な刺繍など、和の伝統技法を間近で見ることができたのです。WACOAL DIAがこだわるクチュール技術や、シャネルが職人の技を守り継承させるために開催しているメティエダール(metier d'art)コレクションとの共通点を感じました。
歴史を尊重しつつ、オリジナルを生み出すことは簡単ではありません。時代に迎合し、手軽な満足感を与えてくれるモノやブランドは世にあふれていますが、誠実に守り伝えることを含むクリエーションには時間とお金、そして何よりも強い思いが必要。常識の逆を突き進む過激さがなければやっていけないでしょう。
「不況の時代こそ周囲のムードに流されないこと、内面を磨き信念を持つことが大切ですね。私たちはこれからも、ものをつくるというより夢をつくっていきたい。お客様には夢を買ってほしいと思っています」とWACOAL DIAのトータルクリエイター、神尾敦子さんは、インタビューの中できっぱりとおっしゃっていました。
世の中にない概念を生み出すのがクリエーションなのだとすれば、いま私たちが最も渇望しているのは「夢」そのものなのかもしれません。ちなみに2010年8月の新月は10日(火)、9月の新月は8日(水)です。その日は新しいものを身につけて、何かひとつ、夢のあることを始めてみたいなという気持ちになってきました。