和装ランジェリー「和らんじゅ」誕生。

日本のよさって何だろう、と考える機会が最近ふえてきました。胸をはって世界一と誇れるものって何なのか。茶道、華道、水墨画、陶芸、着物、俳句......ハイテク技術よりも四季折々の自然の美しさや伝統文化ばかりが思い浮かんでしまうのは、過去への回帰願望でしょうか。これらに共通するのは、太陽と活気にあふれた奔放なイメージというよりは、ほの暗く静かで控えめなイメージ。要するに脂ぎったところがなく上品なんですね。
ただし今の日本に必要なのは、伝統文化への静かなる回帰にとどまらない、積極的なアピール力のような気がします。京都で日本画を学んだものの旧弊な画壇に失望し、その後渡米して前衛の女王と呼ばれるようになった草間彌生や、日本画とアニメを結びつけた作品で知られ、ルイ・ヴィトンのデザインまでも手がける村上隆のようなパワーが、さまざまな分野で求められているのではないでしょうか。
そんな中、ワコールがこの春、京都発の和装インナーウェアブランド「和らんじゅ」をスタートするというニュースが飛び込んできました。これは、和装から洋装への変化の時代にいち早く洋装下着を手掛け、日本のランジェリー文化を創造してきたワコールならではの新展開。世界ブランドになった今、満を持して和装下着に取り組もうというのですから、その内容には大いに期待してしまいます。
「和らんじゅ」の特長は、脱ぎ着しやすく、動きやすく、着崩れしにくいことだそう。インナーウェアでありながらリラクシングウェアとしても着られるということですから「着るのが大変」という従来の着物のイメージをくつがえしてくれそうです。ワコールの「ワ」と日本の伝統の「和」、そこにゆったりとした「和み(なごみ)」の意味が加わったこのブランドの全容はどんなものなのか、楽しみに待ちたいと思います。

BBF472 カラーOB、OV、PI
PBF472 カラーOB、OV、PI
CBF272 カラーOB、OV、PI
はかなくて甘い色のひみつ。
この春に登場するランジェリーの中では、トレフルのコレクションにも和のニュアンスが漂っています。白に近いピンクの花びらをちりばめたシリーズは、華やかでありながら桜を思わせる控えめさとはかなさが感じられて素晴らしいですね。油分のない岩絵の具で描かれる日本画のようなすっとした美しさというのでしょうか。欧米型ヒロインの濃厚なセクシーさとは違う、繊細なオーラをまとってみたくなります。
しかも、期間限定のノベルティは、留め具のついた和風ポーチ。古くから西陣に伝わる文様をモダンに復刻する京都のファクトリーブランド「seisuke88」とのコラボレーションなのです。芍薬の花をモチーフにしたこのポーチは、美人の姿と所作を形容する「立てば芍薬、坐れば牡丹、歩く姿は百合の花」という言葉がぴったり。和洋折衷を超えた、ランジェリーの未来へのメッセージが込められているようにも思えます。

今回ご紹介したランジェリーやノベルティには、淡いピンクや紫が使われています。欧米のランジェリーではメインカラーとして打ち出されることのない、はかなくて甘い色。まるで、すっと溶けてあとに残らない砂糖菓子みたいな......。私は子供のころ京都に近い町に住んでいましたが、このような色を見ると、幼稚園の園長先生が特別な日に皆にくれた、波打つ形の小さなお菓子を思い出します
「このお菓子の形は川の流れをあらわしています」というお話をよく覚えていて、お菓子というのは味わうより前に、見て楽しむものなんだということを教わったような気がします。その後、東京ではそんな風雅なお菓子を子供にくれる人はいませんでしたが。京都発のランジェリーに、自然を愛でる繊細な心がゆきとどいていることを、懐かしい記憶とともに嬉しく思います。