ファッションがランジェリーを取り入れた。
ランジェリーという言葉が、2016年春夏のニューヨーク、パリ、ミラノコレクションの傾向を表現するキーワードのひとつになっています。名だたるファッションブランドが、競うようにランジェリーの素材やデザインの要素を取り入れたんですね。アレキサンダー・ワンも、マーク・ジェイコブスも、グッチも、ブラをトップスにしたスタイルを提案。お腹が見えていても、アウターをさらっと羽織れば、普通に街を歩けてしまいそうな気がします。
スリップ、キャミソール、チューブトップなどもアウター化しやすいランジェリーですが、今なぜ、ランジェリースタイルなのでしょう。ランジェリーに使われる薄く軽く繊細な素材を取り入れることで、春夏の気分であるフェミニンなリラックス感が巧みに表現できるからだと思います。レース、シフォン、オーガンジーがたくさん使われており、ランジェリー好きにとっては、嬉しい季節になるのではないでしょうか。
ランジェリーとドレスの融合といえば、ワコールディアがもっとも得意とする分野です。銀座店で新作ラインアップの展示を見てきましたが、2016年春夏のテーマは「ドレスアップ」。しかも、スニーカーを合わせてしまうくらいの「がんばりすぎないドレスアップ」であるとのこと。考えてみれば、ドレスアップをしようという意欲を阻むのは、「がんばらなければ着飾ることはできない」という先入観なのかもしれません。
今回のコレクションでは、着るときのストレスのなさと、ずっと着ていたくなる心地よさを実現。パーティへ行くと考えただけで疲れてしまうような、ドレスアップへのネガティブ気分を払拭させてくれるでしょう。ヘアデザイン界の重鎮、加茂克也さんがモデルのヘアアレンジを担当したイメージビジュアルを見て、髪の部分に軽さや空気感を表現することが、春夏らしいドレスアップのコツであることにも気づかされました。
庭も宇宙も19世紀ファッションも。
庭をテーマにした植物のシリーズは、トータルクリエイターの神尾敦子さんの家の庭に、実際に咲いた花をモチーフにしたそうです。ユリ、ガクアジサイ、キキョウ、ミヤコワスレ、ツツジなどの花々が、生きているような精密な刺繍に仕上げられています。白い花が夜気に浮かび上がって見える「夜の庭」も、まさにリアリズム。白い花びらは、白いだけでなく、中心部が緑を帯びたグラデーションになっているという凝りようです。
春の宵をテーマにしたブルーのシリーズは、素材の重なりが夢のような美しさでした。宇宙から見た地球の風景に、筆で描いた格子柄を重ねたダイナミックなデザインは、写真のようでもあり、印象画のようでもあり、宇宙空間のプラズマのようにも見えてきます。写真の右のコーディネイトは、ブラとスカートに、シアーなボレロを重ねたもの。このボレロは、脱ぐよりも着たほうがセクシーに見えるアウターの好例です。
スカートをふくらませるためのアンダースカート「クリノリン」を現代によみがえらせたペチコートにも驚きました。19世紀のヨーロッパで流行したクリノリンは、鯨の骨や針金の輪を何段も重ねたものでしたが、ワコールディアのクリノリンは、スポンジのように軽くやわらか。写真の紺のクリノリンは、別のペチコートを上に重ね、チューブトップと合わせてもいいですし、同色のスリップを下に着てベルトをすれば、清楚なドレスアップが完成します。
ワコールディアが教えてくれるのは、想像力の無限のちから。身近な庭も、地球から見た宇宙も、19世紀のファッションも等距離に見ることのできる自由さが、私たちをあらゆる縛りから解き放ってくれるようです。がんばりすぎないドレスアップとは、エフォートレスでエージレス、そして、時代を超えたタイムレスなドレスアップ。肩の力をぬいて好きなものと向き合うことで、心の底から自由な時間を満喫できるのだと思います。
■ワコールディア:
https://www.wacoaldia.com