ドレス・コードを考えるプレ・セミナーへ。
あなたがいま着ている服や下着は、どんなドレス・コードを意識したものでしょうか。明確に決められたコード? それとも空気を読まなければいけない暗黙のコード? 不変に見えるドレス・コードも、時代や場所によって変化していくもの。第一次世界大戦時に軍用コートだったトレンチコートは、1930年以降、ファッションアイテムになりました。また、コードからの逸脱だったはずの「スーツ+リュック」が、今やビジネスマンのスタイルとして定着しているのはご存じの通りです。
この夏、京都国立近代美術館で「ドレス・コード? − 着る人たちのゲーム」展が開催されます。KCI(公益財団法人 京都服飾文化研究財団)所蔵の衣装コレクションやアート作品を通じて、インターネット時代の「ドレス・コードをめぐる装いの実践」を見つめ直す展覧会だそう。特定のコードがもたらす駆け引きを「ゲーム」と表現しているのが面白いですね。私たちが日々、意識せざるを得ないこのゲームが、楽しいものであるといいのですが。
※KCI(京都服飾文化研究財団)は、ワコールの出資により設立された、公益財団法人です
展覧会の開催に先立ち、先日、京都国立近代美術館でプレ・セミナーが行われました。KCIのキュレーターと美術館の主任研究員による趣旨と展示内容の説明に続き、メインイベントは、ギャル男ファッションの研究で知られる立命館大学大学院准教授の千葉雅也氏と、ファッション論や服飾史を専門とする京都精華大学講師の蘆田裕史氏の対談。注目の論客によるファッショントークは、とてもスリリングなものでした。
「最近は、子どもをだっこするために汚れてもいい服を着るようになった」と蘆田氏が言えば、「服に興味がなくなってきた」と千葉氏。それぞれの実感から始まった話は「ストリートファッションをハイブランドが吸い上げ、お墨付きを与えるシステムがファッションをつまらなくしている」と展開。「これを着たらヤバイというものが全部OKになっていく。着る人たちが主導すべきゲームを資本のゲームが台無しにしているのでは?」と問題提起しました。
シタギ・コードのゲームを楽しむ。
展示予定品がいくつか紹介された中で、目を引いたのがモスキーノの2017年春夏コレクション。紙の着せ替え人形のような白いツメがついたドレスで、胸もとには、ブランドのアイコンであるテディベアのプリントがおもちゃのように貼りついています。モスキーノのこのシーズンは、白いロングワンピースに「ブラとショーツを身につけたボディと脚」がプリントされたドレスがあったことも思い出しました。着用したモデルが下着姿でランウェイを歩いているように見え、話題になったのです。
モスキーノのコレクションは、「ペーパードールで遊ぶような身軽さでフェイク・ファッションを楽しみ、変身願望を満たそう!」と私たちに語りかけているかのようです。「たくさんのテディベアを胸に抱いてパーティに参加したい」「ブラとショーツ姿でかっこよく街を歩きたい」といった「禁断のドレス・コード破り」を、いともチャーミングに実現できてしまうのが、このようなフェイク・ファッションの魅力なのでしょう。
現状のドレス・コード(シタギ・コード)では、ブラとショーツで街を歩くのは難しいですが、少なくとも「下着を見せてはいけない」は過去のコード。下着は「見せる方向」へと進化しています。パリのランジェリー・ブランド、シモーヌ・ペレールの2019年秋冬コレクションのテーマは「EXTRA(=規格外の、必要以上の)」。シタギ・コードからの逸脱を思わせ、ナイトドレスの華やかさに至っては、ランジェリーというカテゴリーを忘れたかのような「過剰な美しさ」に目を奪われます。
そもそも下着とは、洋服の着こなしや外見の見せ方に影響を与える存在です。背中の開いたドレスをより美しく見せる下着があり、目的や好みに合わせてバストを演出できるブラがある。いざという時には、本来の体型とは異なるシルエットをつくることだってできるのです。シタギ・コードほど面白いゲームはないかもしれませんね。そんな下着の可能性についても考えながら、この夏の「ドレス・コード? − 着る人たちのゲーム」展を楽しみに待ちたいと思います。
■京都服飾文化研究財団(KCI)
https://www.kci.or.jp
■シモーヌ ぺレール
https://www.wacoal.jp/import/perele/