森のドレスに包まれたい。
今どこで何をしたい? 誰かにそう聞かれたら、私は迷わず「森で深呼吸」と答えてしまうでしょう。なぜなら、これからご紹介するワコールディアの2020年秋冬コレクションに出会ってしまったから。それは、いつの頃からか緑色の世界がここちよく美しいと感じ、たくさんのイメージを広げてきたWACOAL DIAトータルクリエイター神尾敦子さんがクリエイトする、深い森の泉。ゆたかな生命をたたえた大自然の森のように、新鮮な感覚が目覚め、こころとからだが浄化されていくようなコレクションなのです。
中でも今シーズンを代表するのが、深い森の奧にひそむエネルギーに、全身を包まれるイメージで描かれたというオリジナルレースのコレクション。繊細でやさしく、やわらかな植物の息遣いまで感じられるこんなレースを身にまとったら、どれほどのリラックス感と高揚感が得られることでしょう。肌に映える上品なチャコールグレーは、さまざまな色を含んだ深いニュアンスカラー。夢のようなドレスアップ体験になりそうです。
ところで森といえば、あなたはどんな風景を思い出しますか? 今回のコレクションには、自然界の美しい色やモチーフが使われていますが、世界中の森を撮影し続けている小林廉宜さんの写真集『森 PEACE OF FOREST』(世界文化社)をひもとくと、森には実にたくさんの色や表情があることがわかります。ダイナミックに変化する空や木々、複雑に絡み合う枝、力強く張った根、印象的な花や葉……。ワコールディアのインスピレーションの源泉はどんな森かと、想像するのも楽しいですね。
たとえば、ソフトなピンクベージュのレースは、朝霞をおびた早朝の森のよう。ひんやりとした空気の中、移り変わる一瞬の光をとらえた神々しい色に見えてきます。レースの柄は、北欧神話に起源をもち、ファンタジー作品でも知られる森の王、エルフのイメージで描かれたと聞きました。こんなドレスをふわりとまとったら、深い森の地面にもぐり込み、草花のエネルギーを感じているエルフに、不老不死の魔法をかけられてしまうかもしれません。
可憐な森、クールな森を着る。
森の写真集の中で、ワコールディアの世界に近いと思ったのは、イギリス・ウェールズのオークの森でした。この地に古くから住むケルト民族には「森は、人が自然界との関わりあいを確認する場所」という言い伝えがあり、動物はもちろん草木一本一本にまで何百という神を見いだし、森とその恵みを大切にしてきたそう。神尾敦子さんが「五感のすべてを目覚めさせ、その空気を忘れえぬ記憶にとどめたいと願う」と綴った、今シーズンのメッセージにも重なります。
そして、そんな忘れえぬ記憶のひとつになりそうなトキメキを感じるのが、森に咲く小さな美しい草花たちを、多彩な色でプリントした愛らしいコレクションです。アクセントカラーのロイヤルブルーが可憐な表情を引き立て、とてもロマンティック。あたかも人が足を踏み入れたことのない森のサンクチュアリのような神聖さです。ブラやトップスをひとつ、身につけるだけで、軽やかな森の精になった気分が味わえるのではないかと思いました。
他方、愛らしさとは対照的なクールさも、このブランドの得意技です。装飾を抑えたスタイルをベースにモード感を打ち出したシリーズには、リバーシブル仕立てのコートが登場しました。ワコールディアならではのデザインと縫製技術が、コーディネイトの幅を広げ、個性的な着こなしを可能にする逸品。グリーンの鮮烈な美しさに、私はすっかり魅了されてしまいした。このコートは、最もシンプルかつダイナミックに森を表現したアイテムともいえそうですね。
ワコールディアは、これから出会うあなたを、どんな森へ連れていってくれるでしょうか。日常から離れて深呼吸したくなったとき、内なる思いにきめ細かく応えてくれるランジェリーやドレスがあるって、嬉しいこと。いつもちょうどいい距離に、自然に引き寄せられ、自分らしさを取り戻せる心のオアシスがあることを強く感じていたい。それは、少しスローになることを覚えた世界にふさわしい、理想郷といえるかもしれません。