恋愛のグリーン、権力のレッド。
ワコールディアの秋冬新作発表会が、小笠原伯爵邸で開かれました。今回のテーマは「回廊の香り」。ヨーロッパ、とりわけフランスの貴族の館のイメージを現代的な解釈でデザインしたコレクションです。クラシカルな美しい庭園を背景に、パーティーのゲストのように邸宅に配置されたマネキンからは優雅さが香り、時を忘れるようでした。
貴族的なモチーフはもちろんのこと、際立っていたのが多彩な色の雄弁さ。よく見ると、どれもくすんだような色味で、それが貴族らしさを醸し出していることに気付きます。これらはまさに、貴族の館のファブリックに使われていた色。こんなトーンのソファやカーテンがあれば、お部屋の格調がアップすること間違いなし、です。
毛織物と絹織物が普及した中世末期のヨーロッパでは、布地の色に明確なシンボル機能があったようです。たとえば青の染料は、ヨーロッパ各地で栽培され安価だったため、青い布地は農民階級の衣服にも多く使われていましたが、青と黄の二重の染色工程が必要な緑の布は高価。若さを象徴する色として恋愛感情と密接に結びついていたそう。また、貝殻虫の染料で染めたやや黄みがかった赤(スカーレット)は権力の象徴だったとか。くすんだような色は、当時の天然の染料の特徴なんですね。なつかしく色あせた感じもあるのに、実は色あせず古びない、流行を超えた色なのです。
肌にふれる布の感覚は、忘れられない。
ワコールディアのトータルクリエイター、神尾敦子さんは、京都とパリを拠点に活躍するデザイナー。日本女性のこまやかさとパリジェンヌのエレガンスを併せ持つキュートな方ですが、お話を伺うと情熱的でエネルギッシュ。尽きないアイディアと志の高さには胸を打たれます。建築や絵画などさまざまなカルチャーからインスピレーションを得て、独自のクリエーションをおこなっていますが、そのための技術の追求には妥協がありません。フランスと日本、中世と現代をミックスさせたコレクションは、音楽のように即座に伝わり、その場の雰囲気を変える力をもっているようです。
今回は、作品のひとつひとつに貴族ライフが注ぎ込まれているのですから、これはすごい。歴史の重みと、夢がありますね。この一着がどんな思い出をつくってくれるのだろうと想像がふくらみます。コートやスーツも記憶に残りますが、すべるような肌ざわりから、布地が織りなすドレープやその動きまでが事件となり、歴史に刻まれる感覚は、繊細なランジェリーやドレスならでは。
ワンピースやドレス、スカート、ベルトなど、アウターとして着られるアイテムが多いワコールディアは、もはやドレスブランドだなと思いました。でも、どのシリーズにも、ちゃんとブラやショーツが用意されているのが、やっぱり嬉しい。下着からトータルでコーディネートできるドレスなんて、なかなかないし、逆にブラとショーツだけで体験できる貴族感覚なんて、ほかではありえないですから!
参考:世界服飾史(美術出版社)