歴代ボーイフレンドのスイムパンツが!

ヴェネチアという都市に、皆さんはどんなイメージを持っているでしょうか。水の都? ヴェニスに死す? それともイカスミのパスタ?
私が抱いている印象といえば、第一に<迷路のように不便な場所>です。クルマが入れず、運河を利用した水上バスや水上タクシーに乗るしかない遊園地のような町。しかも海抜の低いサンマルコ広場は水位がしょっちゅう上がり、水浸しになって歩けない。はっきりいってかなり厄介です。なのに、多くのイタリア人がこの町を「ロマンティコ!」と絶賛するのが謎でした。ヴェネチアの魅力って、一体何なのでしょう?
11月22日まで開催中の現代美術のオリンピック「ヴェネチア・ビエンナーレ」を久々に見に行ってきました。メイン会場にパビリオンを持たない国の展示は市内全体に散らばっており、まさに非効率の極みですが、今回注目を集めていたのが、特別賞を受賞した北欧+デンマーク館。謎のコレクターの家という設定で、中には、元恋人のスイムパンツを蝶の標本のように並べたコレクションも。ひとつひとつに「ジェイソン」「マシュー」「アルベルト」などと書いてあり、なんだかリアルです。家の外のプールでは本人が溺死体になっており、コレクターが中年男性だったことがわかるのでした...。グロテスクとポップな感覚の融合が、ビエンナーレらしいなと思います。

(写真右)北欧+デンマーク館の"溺死体"(Elmgreen&Dragset/第53回ヴェネチア・ビエンナーレより)
情熱の女が愛したヴェネチアの魅力とは?
ビエンナーレのユーモラスな明るさとは対照的なアートスポットも見てきました。6月にオープンしたピノー財団の美術館「プンタ・デラ・ドガーナ(税関の岬)」です。はっきりいって中身は相当バブリーで、監視員の目も厳しい。現代美術のコレクターであるピノー氏は、グッチ、イヴ・サンローラン、ボッテガ・ヴェネタなどを傘下に収めるPPRの元会長という大富豪実業家ですから、建物の建設にも政治的な紆余曲折があったようです。しかし、設計を担当した安藤忠雄氏は、いい仕事してます!
彼は、税関の古いレンガや木の梁を生かしつつ、新たにコンクリートを加えて建物を修復。このコンクリートは運河の水を思わせる滑らかさで、周囲の環境と調和しています。
ヴェネチアの魅力は、やはり水なのでしょう。きれいとは言い難い運河の水も、陽光の下ではまぶしく輝くし、不便だからこそ数多のドラマが生まれたのかもしれません。あのココ・シャネルも、初めての外国旅行先だったヴェネチアを生涯愛したそうで、この秋のシャネルのメイクアップ・テーマは、光と水を思わせる「ヴェニス」です。ヴェネチアを舞台にしたヴィスコンティの映画『夏の嵐』(1954)のヒロインには、ココ・シャネルの姿が投影されていると知り、すべてを捨てて恋愛へ突き進む伯爵夫人をもう一度見たくなりました。なんといっても、ヴィスコンティは14歳の時、23歳年上のココ・シャネルと出会い、恋に落ちたのですから。そう、ヴェネチアは、情熱的な恋愛が最も似合う都市なのかもしれません...。次回はそんなロマンスへの期待を込めて、ヴェネチアとランジェリーの意外な関係に迫ってみたいと思います。
参考:シャネル・スタイル(文春文庫)
