漁師の島に伝わる、おそるべきテクニック。

ドレスやジャケット、レギンスなどにレースを取り入れた貴族的なスタイルが注目されている今年の秋冬。レースといえば、ドーバー海峡に面した港町カレーなどフランス産のイメージが強いですが、そのルーツはルネサンス期のヴェネチアにあると聞き、<ヴェネチアン・レースと漁師の島>として有名なブラーノ島を訪ねてみました。
ヴェネチア本島から水上バスで約1時間。一瞬目を疑うほどカラフルな町並みの島が見えてきます。色とりどりの家は、海から帰ってきた漁師たちが、霧に覆われた冬の海岸から、自分の家をすぐに見分けられるよう塗り分けたのが始まりだそう。こんな可愛い町でレースが手作りされているなんて、まるでメルヘンの世界です。
レティチェッラ (=小さな網)といわれる最初のレースは、漁に使う網を繕う技術から生まれたのだとか。これが針と糸だけでつくるニードルレースの技法、プント・イン・アリア (=空中編み)へと発展。貴族の間で流行し、世界に広まったのです。
観光地らしいお土産店が多い中、そんなレースの歴史を継承するお店「エミリア」を見つけました。2階のギャラリーにさりげなく展示されていたウエディング・ドレスは、19世紀末、21人の職人が5年がかりでつくりあげたという逸品。顧客であるセレブたちの写真もありましたよ。ジュリア・ロバーツ、ケイト・ハドソン、ジョニー・デップ、さらにトヨタ所属のイタリア人F1ドライバー、ヤルノ・トゥルーリの姿まで!

(写真右)「エミリア」に展示されていた19世紀末のウエディング・ドレス
甘さやセクシーさだけじゃない、レースの可能性。
ブラーノ島で見た伝統的なレースの印象は、表情豊かなモチーフと手工芸ならではの温かみでしょうか。現代のフランスのレースとは次元の違う、素朴さと力強さが感じられました。素材を生かしたルネサンス期のイタリア料理が、メディチ家によってフランスに伝わり、フランス料理として洗練されていった歴史と似ていますね。
イタリアのレースに興味がある方には、トレフルの秋冬コレクションがおすすめです。新しいテクニックのイタリア製エンブレースを使ったシリーズで、生地を織りながら柄を編み出すラッセルレースに、透かし模様の緻密な刺繍と繊細なカットを施したもの。手のこんだ縫製始末で仕上げられ、生地というよりは立体工芸品のよう。甘すぎないため、流行のライダーズジャケットと合わせてもかっこいいかもしれません。
実は、前述の「エミリア」にも最新のイタリアン・ランジェリーがありました。私はHANYÈのセクシーなレースのベビードールを購入し悦に入っていましたが、帰国後にこれを見ると、ブラーノ島で食べたシーフード・フリットの美味しさや心地よい風と太陽ばかりを思い出してしまい、どう使おうかと思案中です。
映画『ココ・シャネル』(2008)の中で、シャーリー・マクレーン演じるシャネルが姪のドレスを引きちぎり、部屋に掛かっていた白いレースのカーテンをストールのようにまとわせて送り出す大胆なシーンも、頭から離れません。レースの着こなしをあれこれ妄想する日々は、当分続きそうです......。
参考:"Lace―The Poetry of Fashion" Bella Veksler (Schiffer Pub. Ltd.)

スリップ(写真左)とキャミソールのアップ(写真右)(10月発売)