生まれたての服のセクシーさ

©Hiroshi Sugimoto / Courtesy of Gallery Koyanagi
ニューヨークを拠点に活動し、国際的に高い評価を得ている現代美術作家、杉本博司の展覧会を見てきました。タイトルは「ハダカから被服へ」。20世紀を代表するデザイナーのファッションを彫刻のように撮影したシリーズ「スタイアライズド スカルプチャー」を中心に、装うことの意味を作家の独自の視点で読み解く構成になっていました。
会場となった原美術館には、モードな雰囲気が漂う一方、古代の環境や生物のジオラマを撮影したシリーズ「類人」「ネアンデルタール」「クロマニヨン」なども。「大昔、私達が裸で暮らしていた頃、私達は幸せだった」という意味深な一文で終わる作者のメッセージをあわせて読み、ファッションの起源について考えさせられてしまいました。人間はなぜ服を着るようになったのだろう、と。
実際「スタイアライズド スカルプチャー」で撮影された衣服は、ここにご紹介した以外にも、1枚のタオルをまとっただけのようなドレス(by三宅一生)や、かぐや姫を思わせる竹筒風ドレス(by川久保玲)など、衣服という概念が生まれた瞬間をとらえたといっても過言ではないシンプルなフォルムの服が多いのです。優れたデザイナーは、いつだって裸という原点から発想し、作品を生み出しているのだと思いました。
彫刻のように撮影された衣服は、とてもあやうく、セクシーに見えました。人体ではなくマネキンが着ているというというのに! セクシーとは、おそらく隠すことなのでしょう。人類が衣服をまとい、皮膚を隠した瞬間からセクシーは始まったのではないでしょうか。人は隠すことでセクシーになったのであり、今だって、隠すことによってのみ、セクシーでありうるのかもしれません。

衣装所蔵:公益財団法人京都服飾文化研究財団
ゼラチンシルバープリント 149.2 x 119.4 cm
©Hiroshi Sugimoto / Courtesy of Gallery Koyanagi
(中)「スタイアライズドスカルプチャー 003 [川久保玲 1995] 」 2007 年
衣装所蔵:公益財団法人京都服飾文化研究財団
ゼラチンシルバープリント 149.2 x 119.4 cm
©Hiroshi Sugimoto / Courtesy of Gallery Koyanagi
(右)「スタイアライズドスカルプチャー 011 [ジョン・ガリアーノ 1997] 」2007 年
衣装所蔵:公益財団法人京都服飾文化研究財団
ゼラチンシルバープリント 149.2 x 119.4 cm
©Hiroshi Sugimoto / Courtesy of Gallery Koyanagi
古代ギリシャ人のように
いまの時代の気分が求めているセクシーさも、そういうものではないかと思います。過激な演出としての成熟したセクシーではなく、生まれたての空気を感じさせるナチュラルでピュアなセクシー。サルートの2012年春夏コレクションに登場したバラをモチーフにしたシリーズなら、まさにそんな気分を味わうことができそう。中でも淡いピンクは、素肌を美しく見せてくれる色ですね。
レイヤードで表現したカップデザインと前裾の割れがフェミニンなキャミソール、プリミティブな魅力いっぱいのアシンメトリーなハイレグショーツ、そして足もとにアップリケがゆれるガーターベルトなどを見ていると、古代ギリシャ人が1枚の布を裁断せず、体に巻くように着ていた時代にタイムスリップしたくなりそうです。
装うことの意味を考える日々はつづきます。なぜ着るのか。なぜこれを着るのか。なぜ隠すのか。なぜこれで隠すのか。これまでの失敗や、自分が何を着せられ、何を着てきたかのプライベートな歴史も含めて、ファッションの流れに改めて思いをはせることは、新しい発見につながるのではないでしょうか。
さあ今日も、裸で生まれ、遊んでいた幼少の記憶を道しるべに、下着を選ぼうではありませんか。ちなみに古代ギリシャでは、衣服がシンプルであっただけでなく、娼婦以外の女性は化粧もあまりしなかったようです。奨励されたのは、適度な運動と入浴とオイルマッサージだったとか。なんだか現代とあまり変わらないような......。

キャミソール CTJ266 OC ¥12,600/ショーツ PTJ766 OC ¥4,515/ガーターベルト GTJ666 OC ¥7,665
■「杉本博司 ハダカから被服へ」
2012年3月31日[土]-7月1日[日] 原美術館: http://www.haramuseum.or.jp
■サルート オフィシャルサイト: https://www.wacoal.jp/Salute/