深みと奥ゆきを楽しむコレクション。
「日本初のラグジュアリーブランドの名乗りはワコールから」の思いから始まったWACOAL DIAは、2014年2月でデビュー10周年。記念すべき春夏のシーズンテーマがブランドの頭文字でもある「W(ダブル)」であると聞き、胸がときめきました。10年間にわたり、多彩な文化を掛け合わせてオリジナルを創造してきたクロスカルチャーのXに、深みや奥ゆきをもたらす二重の効果を意味するWというあたらしい哲学が加わったのだと。
ふたつの要素のかけ算で新次元の答えを出すクロスカルチャーに対し、ダブルは1+1の足し算。ふたつの要素がどちらも生かされ、目に見えるということになります。吸い込まれそうなグリーンの輝きがまぶしいコレクションカタログには、こんな言葉がありました。「闇があるから、光はより艶めき、色彩は、かさなることで隠れていた表情を見せる」。Wとは、美しさの密度や強度が増した世界ともいえそうです。
展示会では、2つのマネキンを鏡のように配置し、光と影のコントラストを表現した演出がユニークでした。ていねいに仕立てたランジェリーの立体感が、重層的に響き合う印象。ただし、ここで重要なのは軽さです。ふたつのものを足したりかさねたりすればトゥーマッチになるのが世の常だとすれば、シンプルな強さの美学を忘れず、軽やかに洗練された方向へと着地するのがWACOAL DIAなのですね。
そもそもランジェリーにとって、重さを感じさせないことは究極のテーマ。どんなに凝ったモチーフをかさねても涼しげであることは、いわば春夏コレクションの使命です。WACOAL DIAの春夏は、かさなりがテーマありながら、水面に映る影のように繊細な美しさでした。透明な空気を感じさせる軽さの秘密は何だろうと考えていたら、トータルクリエイターの神尾敦子さんが、画集を手に種明かしをしてくれました。
青柿とチューリップの軽やかなマジック。
今回のメインコレクションは「青柿」という1978年の日本画にインスパイアされたものだそうです。70年代ファッションを参考にした服は多いですが、70年代の画期的な日本画をアイディアの源泉にしたランジェリーやドレスなんて、それだけで貴重ですね。
「青柿」は柿の実と枝葉のかさなりを上から見下ろした絵で、下からは黒猫がこちらを見上げています。柿の木を横や下から見ると重力を感じますが、この絵は俯瞰によって、重力を感じさせずに奥行きを表現しているのです。緑と黒のシンプルな色構成も冴えていますが、そんな絵画のような情景を、透明感のあるオリジナルレースや繊細な刺繍で仕立てた今シーズンのコレクションは、瞠目すべき成果といえるでしょう。
チューリップの花と葉を大胆かつリズミカルにデザインしたコレクションもすごいです。可愛らしいイメージのチューリップに、こんなに躍動感があるなんて。飛び出してきそうなアップリケもインパクト大。水墨画のような黒のバージョンは、強いけれど重くはなく、ナチュラルカラーのバージョンは、淡い配色のかさなりがエレガントです。展示会場で目を引いた、鮮やかな赤とチェックのコーディネートも要チェックですよ。
春夏アイテムは、これから続々と店頭に並びます。チューリップは2月、チェックは3月、そして青柿は4月。Wの力で、私たちはこの春「Wonderful Woman(素敵な女性)」にも「Wild Witch(野生の魔女)」にも変身できそうです。ご紹介した写真はごく一部で、アイテムによって柿の場所が違ったり、チューリップの動きが違うのを見つけるのはまるでゲームのよう。神尾さんの冗談まじりの解説も楽しくて。Wには笑いという意味もあるのでしょうか?