ワコールディアの1日は27時間?
夏まっさかりですが、今回ご紹介するのはワコールディアの秋冬コレクション。既に7月から店頭に出ているアイテムもありますので、ぜひチェックしてみてください。テーマは「森の おと」。ひらがなの「おと」から私が連想したのは、リアルな音というよりは、時のかなたを意味する「遠(おと)」。しんとした森の空気や凛とそびえる樹木が目に浮かびます。バレエを踊るモデルさんの動きも、どこか現実離れしたファンタジックな印象です。
トータルクリエーターの神尾敦子さんによると、今回のモデルさんのイメージは、人々が眠りについている時間に息を吹き返す「森の生きもの」という設定。森の1日は27時間で、白い朝靄に包まれた夜明け前の3時間、人間には見ることのできない特別な時空が出現するらしいのです。ということは、ランジェリーやドレスにも、門外不出のカミワザが織り込まれているのでしょうか?
お話を聞いて、私は思いました。ワコールという会社にはいろいろなブランドがあり、朝起きてから夜眠るまで、ゆりかごから揺り椅子まで、あらゆるシーンとターゲットに対応する製品があります。しかしワコールディアは、そこに収まりきらない不思議な世界の理念でつくられているのではないか。このブランドを語る人の多くが、どこか夢を見るような遠いまなざしになるのは、そのせいかもしれません。
24時間の日常からはみ出す「見えない世界」には、大切なものがあるような気がします。もともと秘められたセクシュアリティの領域に属していた下着が、陽の当たる世界に可視化された今、タブーを残しておくことはいわば最後の砦。自分が感動しなければいいモノは生み出せないと神尾さんは言いますが、受け取る側にも異次元を自由に想像する準備があれば、ワコールディアのクリエーションを100%以上楽しめそうですね。
やさしさもセクシーも計算済み!
シンプルな白のナイトドレスを見てください。軽さ、心地よさ、はかなさ、そして清らかな生命感。ドレスの中にふんわりと風を入れながら、雲の上をスキップしたくなりそうです。可憐なピンクのコーディネイトは、カモフラージュ柄のプリントが可愛すぎる。ハニーピンク、グリーン、ベージュのすべてが新色というこの柄は、敵の目をあざむくための迷彩からはほど遠く、パラダイスでの隠れん坊ごっこにふさわしいかも。
森に咲く草花を描いたレースは、密度の濃いしっかりとした刺繍ではなく、スケッチをトレースしたような軽やかな透け感に驚きます。オールドイングリッシュローズには、妖精のいたずらのような虫食いの葉っぱまで描かれていたり。このシリーズは、無地のアイテムとの組み合わせが楽しいです。コートやベルト、チューブトップやペチコートなど好きなものを選んで、ぜいたくに取っ替え引っ替え試してみたくなりませんか?
秋が深まる季節に似合いそうなのが、カシス色とチャコールグレーのコーディネイト。月桂樹の葉が森の中できらっと光る様子を写し取った刺繍は、スピーカーから音が響いているモチーフや、ボリューム・インジケーターのようなレースとのハーモニーで、ユニークな音の表現が楽しめる趣向。2色のペチコートを重ねれば、果実を含んだチョコレートみたいに美味しそうな秋のニュアンスが生まれます。
着心地のよさや肌へのやさしさは、ランジェリーブランドならではの得意技。日本人女性の背中や肩、鎖骨、バストをセクシーに見せるテクニックは、もはや魔法としかいいようがありません。着脱しやすく、動きやすく、日常使いでも疲れないように計算されているから、特別な日でなくてもつい手が伸びてしまう。そんなワコールディアを身にまとい、24時間を過ごしていたら、誰にも見えないはずの3時間が見えてくるかもしれません。