ノームコアに飽きたらランジェリーの冒険を。
作家の村上龍は、近著『おしゃれと無縁に生きる』(幻冬舎)の中で「周囲の著名文化人や仕事ができるメディア関係者にはおしゃれな男がいないし、自分をおしゃれだと思ったこともない」というようなことを書いていました。充実した仕事をしていれば忙しく、ファッションに気をつかう時間的余裕はないのだと。みんな、経済力に応じた「ごく普通の格好」をしており、普通でも充分に人気があるので、おしゃれの努力は不要だということでした。
この文章のポイントは「ごく普通の格好」という部分。いくら仕事ができても「ダサすぎる格好」ではさすがにマズイわけで。アップル創業者、故スティーブ・ジョブズのカジュアルファッションから始まった「ノームコア(究極の普通)」の勢いはとまりません。女性も同様で『フランス人は10着しか服を持たない』(大和書房)という本がベストセラーに。おしゃれの努力を不要にするシンプルスタイルの流行は、まだまだ続きそうです。
とはいえ、そろそろ反動があらわれてもおかしくない時期。たまには思いきり冒険したい!と思ったら、アウターより一歩先の挑戦ができる下着の出番です。中でもいちおしは、「ごく普通」の真逆を提案するスタディオファイブの2015年秋冬コレクション。さまざまな思惑の渦巻くショウビズの世界で、成功への階段を華麗に駆けあがっていくスキャンダラスな女性のストーリーが展開されています。
想像するだけで非日常のスイッチが入り、アナザーワールドの時間が走り出す、そんなコレクション。恋に落ち、新しい自分が始まるときの熱に浮かれた感覚を思い出し、ノームコアのおかげで失速した狩猟本能を取り戻す旅に出たくなる。スペックで選ぼうとすれば運命の出会いなどありえないのですから、まっとうな理由などないのに心をわしづかみにされてしまう、禁断のランジェリーと密約を交わしてみてはいかがでしょうか。
欲望を生むパワースタイル。
コレクションの中で、ひときわ異彩を放っているのが、ゴージャスなイエロー系の色。波紋をモチーフにした25Gシリーズ(8月発売)のYEは、インカ帝国で太陽の化身と崇められたヒマワリを思わせるカラーに、神の使者であるトカゲのアップリケがポイント。シャンデリアのきらめきが表現された75Gシリーズ(9月発売)のBRは、ゴールドとトルコ石でつくられたシカンの神を思わせるオーラが魅惑的です。
大胆なケミカルアップリケとフリンジに圧倒される85Gシリーズ(10月発売)のKAは、古くから宗教儀式に用いられてきたターメリック色のトライバル柄に生命力がみなぎり、インドの王妃がまとう民族衣装のよう。こんな神々しいアイテムを身につけたら、どれだけのパワーが得られることか。英国では、キャサリン妃が黄色のドレスを着るたびに、同様のドレスの売り上げが激増するそう。この系統の色には、人を動かすチカラがあるのでしょう。
村上龍は前述の本で書いています。幼いころは欲しいものがたくさんあったのに、いつの間にか何もなくなってしまったと。「手に入れようと思えばいつでも簡単に手に入るという意識は、飢えを満たし、結果的に欲望を消してしまう。欲望は、想像力によって生まれ、育まれ、強度を増す。昔はほとんどすべての日本人にとって夢のまた夢だったフェラーリも、フランク・ミュラーも、シャトー・マルゴーも、とても身近なものになった」。
一般人にとって、フェラーリもフランク・ミュラーもシャトー・マルゴーも、決して身近ではないと思います! ですが、それらに関するリアルな情報が簡単に手に入るようになり、未知のものでなくなったことは確か。飢餓感をかきたてるのは、やはり想像力なのでしょう。脳細胞を刺激し、食欲を増進し、行動を活性化するといわれるイエロー系ランジェリーとの出会いは、狩猟本能の回復に有効な手立てではないかと改めて思うのでした。