着ることはルールなのか?自由なのか?
京都国立近代美術館で始まった「ドレス・コード? − 着る人たちのゲーム」に、さっそく行ってきました。タイトルからも想像できるように、これは、着る人(つまりすべての人!)が主体となって答えをさがすファッション展。私たちはなぜ着るのか、何をどう着たいのか。自分のものさしで自由に解釈しながら、ゲームのように進んでいけるのです。展示品は、多彩なジャンルを網羅した300点超。誰もが好みの作品に出会え、リラックスしながら楽しめる展覧会だと思いました。
都築響一、石内都、シンディ・シャーマン、森村泰昌、チェルフィッチュなど、人気アーティストの写真や映像作品も多数。また、京都服飾文化研究財団(KCI)が収蔵する衣装コレクションは、18世紀の宮廷服から現代のモードまで約90点。漫画家や劇作家が、KCIの収蔵品とコラボして制作したオリジナル作品も見逃せません。下着好きとしては、ジーンズ柄をプリントしたディオールのビスチエや、ボディスーツ風のインが可愛いコム デ ギャルソンの水墨画プリントのドレスにも目を奪われました。
※KCI(京都服飾文化研究財団)は、ワコールの出資により設立された、公益財団法人です。
会場は13の架空のドレス・コードで構成され、最初の作品は、イタリアのミケランジェロ・ピストレットの『ぼろきれのビーナス』。ここで問いかけられるドレス・コードは「裸で外を歩いてはいけない?」というもの。このビーナスは、ぼろきれの山と出会ったことで、裸であることが恥ずかしくなり、最初に着る服を選ぼうとしているようにも見えます。もちろん最初の服といえば下着。美の女神である彼女は、ぼろきれを美しいランジェリーに変える力を持っているのかもしれません。
続くドレス・コードは「組織のルールをまもらなければならない?」です。1900年代から2010年代までのスーツがずらりと並ぶ光景は圧巻でしたが、中にはルールを大幅に逸脱したものも。それは1940年代にアフリカ系やラテン系アメリカ人の若者の間で流行した『ズート・スーツ』。アッパークラスが着る上品なスーツへの反抗として生まれたダボダボなスーツです。ルールはファッションを洗練させますが、やがて、そこから逸脱した自由な表現が生まれるのも、必然の流れなのでしょう。
目立ちたい?目立ちたくない?
ファッションとは目立つこと。そんなドレス・コードがあるなら、最もそのコードに即していたのは、ルイ・ヴィトン×シュプリームの真っ赤な型押しレザーバッグでしょうか。2017年初夏、世紀のビッグコラボといわれ、これらのアイテムが先行販売されたルイ・ヴィトンのメンズ期間限定ショップは、抽選のための長い行列に早朝から並び、当選しなければ入店できませんでした。仕事場の近所だったのに、現物を遠目に眺めることすら叶わなかったわけですが、今回、間近で見ることができて感激しました。
一方、ルイ・ヴィトンの2018年春夏ウィメンズコレクションの「貴公子コーディネイト」も、かなりのインパクト。ルーヴル美術館から発想を得たという18世紀のフランス貴族風ジャケットに、カジュアルなランニングパンツとスニーカーを合わせている服です。ラグジュアリー×ストリート感覚という意味では、ルイ・ヴィトン×シュプリームのコラボとも共通していますね。メンズコレクションと見紛うような凛々しさに、思わず吸い寄せられてしまいました。
これらとは逆に、目立つことを避けるかのように、個室を使ってプライベート感のある展示を行っていたのが、演劇カンパニーのマームとジプシーを主宰する藤田貴大。『ひびの、A to Z』は、26人の1日を表現した作品で、一人ひとりのつぶやきが書かれたメモから、彼女たちの生活や考え方などがわかる仕組み。さりげなく撮影された彼女たちのための服は、実はKCIの収蔵品でした。展示の仕方で、服の意味が大きく変わることを実感。着ることへの個人的な想いが伝わってくる作品ですね。
繊細でロマンチックなのに、よく見ると過激なのが、ミシンを使った青山悟の刺繍作品。19世紀の雑誌に印刷された女性たちに、現代のセレブの服が刺繍されているのです。モノクロの女性にレディーガガのウニのような衣装や、ビヨークのハリネズミのような衣装を着せるって、どういう意味なのか。遠い過去の女性がこれらを「着こなす姿」からは、どんな服であっても自分らしく着ればいい。そんなメッセージが伝わってくるようにも思えるのでした。まだまだご紹介したい作品はたくさんありますが、ぜひ会場に足を運んでみてください。そもそもドレス・コードは時代や状況によって変わるもの。この展覧会も、会期の終わりごろには、まったく違う見え方をしているかもしれません。
■京都服飾文化研究財団:https://www.kci.or.jp/
ドレス・コード? − 着る人たちのゲーム
東京オペラシティ アートギャラリー(※事前予約が必要)