ワコールディアのここちよさの理由
ワコールディアのデザインは、どこからやってくるのでしょう? 2020年春夏のブルーのパンフレットをひもとくと、まず目に入るのは「宙海(あお)の風」という詩のようなメッセージ。すがすがしい空気とともに、空の色、海の色、宇宙の色へとイマジネーションが広がっていきます。それは、地球を取り巻く自然界からの希望のメッセージ。からだがリラックスした深い呼吸を取り戻すように、ここちよいはじまりの風を肌で感じるコレクションなのです。
銀座店で行われた展示会では、モデルさんがウォーキングし、トータルクリエイターの神尾敦子さんが解説をしてくれました。新しい風の意味、そしてクリエーションへの変わらぬ想いやエピソードに触れる中で、心に残ったのは「洋服にも下着にもできないことを」という言葉。からだ、素材、技術の飽くなき探究から生まれる、着ごこちのよい繊細なレースのドレス。その独自の立ち位置と高い志に、改めて拍手を送りたくなりました。
今シーズンを代表するのは、愛と美の女神たちが宙(そら)を舞う姿を大胆な柄にした、オリジナルレースのコレクションです。深い青の中にきらめくシルバーの女神は、まるで夜空を彩る星座のよう。幻想的な情景を緻密な刺繍で表現するという、ワコールディアならではの離れ業が、レース好きの心を射ぬきます。ワンピースやコートは、風をはらんだ姿が美しく、インに重ねる色によっても表情が魅力的に変化します。
実際にこのコレクションを着用したモデルさんは、とても気持ちがよさそうでした。肌に溶け込むレースがボディを軽やかに見せ、甘さ、潔さ、みずみずしさ、官能性など、さまざまな美の要素を引き出すマジック。男性の目と女性の目の両方を意識してデザインされるワコールディアが狙うのは「少し隠す感じの、控え目なセクシー」だそう。これこそが、洋服にも下着にもできない絶妙な色香なのではないかと思いました。
肌に着るドレスの強さ
たとえばジュエリーを身につけたいけれど、難易度が高いと感じられるとき。ワコールディアらしい色と感覚で宝石を描いた、オリジナル画によるプリントのコレクションがソリューションを提供してくれます。いくつもの色が立体的な光を放つ宝石は、ジュエリーデザインのスケッチの技法で描かれたものだそう。高価な宝石をカジュアルに使うという、今様のファッショントレンドがモダンアートのように表現されているのですね。
宝石に宿る強いエネルギーが輝き、無数の星のようにあふれ出すイメージは、まさに地球からの贈り物といえるでしょう。澄んだ海を想わせるアクアブルーと、夜の海と宙(そら)へ誘う紺色は、どちらもノーアクセサリーでさらりと着こなしてみたいもの。ワンピースのほか、3種類のトップスとスカートのコーディネイトも楽しめる趣向。ブラとショーツの魅惑的なラインアップにも、ときめいてしまいます。
ワコールディアの描く花の美しさには定評がありますが、今シーズン、白羽の矢が立ったのは、白のシンプルな一重のバラ「ロサ・モスカータ」。世界中を旅し、広まったであろうバラの原種の歴史に想いを馳せ、大胆かつエレガントに描いたオリジナルレースのコレクションです。4月には新色の赤が、ブラ、ショーツ、ナイトドレスとして登場。情熱的な赤いバラとはひと味違う「赤で表現したシンプルな白いバラ」の透明感は格別です。
繰り返し咲く自然の花は、ワコールディアに似ています。一見儚(はかな)く見えるのに、その美しさには強さがあります。丁寧につくられたものには生命力が宿るって、本当のこと。女性のからだの細部に向き合い、ミリ単位の調整を着ごこちに反映させたランジェリーやドレスは、何年経っても、ついさっき手に入れたみたいにフレッシュな印象をもたらしてくれるのです。ここちよいはじまりの風が、いろいろな場所で吹き続けますように!